100. 危険予知ヨシ
「なるほど。そういうことなら、私が教えようじゃないか」
本校舎の職員室のような場所で、基礎魔法の講義を受けたいとレステンに伝えたところ、返ってきた言葉がこれである。
そのあと、俺たちは有無を言わさず、校舎の地下に連れてこられた。地下と言っても、石造りの牢獄があるとかではなく、窓がないことを除けば建物の感じは地上とさほど変わらない。
地下へはエレベーターみたいなものに乗って移動した。それなりに長く乗っていたので、かなり深い場所なのかもしれない。
「ここは地下の研究区画だ。魔術の研究には危険なものも多い。過去には実験中研究室が消し飛ぶような大事故を起こした例もある。それ以来、研究区画は地下に隔離することになったのだ」
レステンの解説が入った。
おそらく親切心から状況を説明してくれているのだと思うが……それはつまり俺も危険物として隔離されていることを意味してるのではないか?
ツッコむか否か、考えているうちに目的地に着いたらしい。扉の前でレステンが俺たちを振り返る。
「訓練所だ。基礎的な講義をしたあと、魔法の発動訓練を行う。学園に招かれるほど素養のあるものなら、その日のうちに魔法が使えるはずだ」
「わかりました」
「了解なのです!」
講義に関しては、世界を構成する属性がどうのとか、精霊がどうのとかについての話だった。興味深くはあったものの、フレーバー的な要素が強く、ただゲームで魔法を使うだけならあまり関係がなさそうだ。
そしていよいよ始まる実戦訓練。
「まずは、属性魔法の基礎。射出系の攻撃魔法から訓練していこう」
ということらしい。いきなり攻撃魔法なのはゲーム的な事情だろう。話が早くて良い。
「やるです!」
「おお! 最初から炎の矢を3つも! リリィ君は優秀だな!」
「えへん、なのです!」
早速、リリィが成功させた。俺も負けてられないな。
「行くぞ!」
的を見据えて、杖を構える。放つのは炎の矢だ。呪文を唱え、魔力を解き放つ!
「なんと、これは……!」
「ダーリン!?」
果たして、魔法は出た。
ただし額から。しかも矢ではなくビームだった。
「なんでだよ!」
「ぞ、属性には相性がある。他の属性を試してみてはどうだ?」
「ぐぬ……」
レステンの言葉に従い、他の属性に希望を託す。なんかもう嫌な予感しかしないが……いや、諦めるのはまだ早い!
そして、次に試したのは水魔法だ。水弾を放つはずの魔法でジェット水流が出た。やはり額から。
飛沫がかかって顔がびちゃびちゃだ。ちなみに火のビームを出したときは滅茶苦茶熱かった。
「リリィが……リリィがフォローしてみるのです!」
「よし、頼む!」
リリィ先生なら、なんとかしてくれるはず!
そんな期待を胸に3度目の魔法行使だ。
「準備オッケーなのてす!」
「では、行くぞ!」
放つは石弾の魔法。呪文を唱えると、杖の先から石の弾丸が射出された。
と同時に、額から土砂が噴出する!
「こっちは……こっちは止まらないのか!」
「止まらないのです! どうなってるのですか!」
「俺にわかるか!」
こっちはそれどころではないのだ。砂が目に入って、痛いのなんの。セルフ目潰しをやっている状態である。
数秒で魔法は止まり、落ち着いたところでレステンに詰め寄る。
「おい、どういうことだよ! 何故、こうなる!」
「さ、さぁ。種族特性だろうか? 人間以外を指導したことがないので何とも……」
レステンが何故か俺から視線を逸らす。指導に失敗したからかと思ったが、どうも様子が違う。もっと必死に顔を背けようとしているような……
「ダ、ダーリン。とりあえず、これをつけるのです」
リリィが背後から差し出してきたのは何の変哲もない布きれである。これをどうしろと。バンダナ代わりにはなりそうだが――――
「おい、まさか!」
額に手をやると、そこにあるはずの感触がない。どうやら、バンダナは最初の火炎ビームで消失してしまったらしい。
つまり、今の俺は全面降伏中ということらしい。
負けたのか、俺は。射出型魔術に。
「どうすんだよ、これ……」
射出系の魔法は、グラン・マギステッドで最も標準的な攻撃手段のひとつだ。これが封じられるとなると、かなり影響がデカい。
「ま、まぁ、攻撃魔術は射出型だけではない。他のタイプを極めればいくらでもフォローがきくさ」
レステンが励ますように俺の肩を叩く。明らかに気を遣わせているのが分かるのが辛い。
とはいえ、ここで反発するほど子供ではないので、話には乗っておく。
「そうか。例えば、どんな魔術がある?」
「そうだな。地点指定型の範囲魔術はどうだ?」
なるほど。それは便利そうだ。ちゃんと指定した地点で発動すれば、だが。
どうなんだ? 地点を指定するのだから、そっちで発動するのか? しかし、嫌な予感しかしない……。もし、俺の額を起点にするようだと大惨事だぞ。
その危惧は、俺だけのものではなかったようだ。その場にいた全員が起こりうる未来を予期し、顔を顰めている。
「攻撃魔術の訓練は一旦保留としよう」
「それがいいのです」
「……だな」
そういうことになった。
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