98. 怪奇の屋敷
バンダナをつけ直しつつ尋ねる。
「で、俺の扱いはどうなるんだ?」
「どうしたもんかのぅ」
額の文字のおかげで、一触即発の緊迫した空気は霧散した。とはいえ、俺の扱いは未だ宙ぶらりんだ。
「最後の色は一応、赤だったぞ」
「あれは無理矢理止めたもんじゃろ。儂の目はそこまで節穴じゃないぞぃ。お主が邪眼呪族であることはほぼ間違いはないと思うておる」
後半は声を抑え、囁くような声で学園長ダストンが告げた。
よほど自分の能力に自信があるのだろう。疑っている、ではなくほぼ確信しているらしい。それがまた当たっているから困ったものだ。
だが、すでに俺を排除しようという意思はないように見える。ならば、あえて否定はすまい。
「そう思うのなら、何故俺を討たない?」
「お主、種族内で酷いを受けて逃れてきたのじゃろう? そんなお主を無慈悲に討つなど……儂にはできんよ」
「……は?」
待て。何の話だ。
「いや、良い。皆まで言わんでものぅ。三つ目のない邪眼呪人、しかも額に消えない悪戯書き。お主がどんな目にあってきたか想像するだけで……くっ、涙が溢れそうじゃ……!」
学園長が勝手に盛り上がっている。
いや、でもまぁ、都合は良いか。釈然としないものはあるが、ここで学園全体と敵対してしまうくらいなら目をつむる。
「それに、そっちのお嬢ちゃんには慕われておるようじゃしな。お主が人に憎しみを持っているならば、そんな関係は築けまいよ」
「そうなのです! リリィとダーリンは仲良しなのです!」
「おうおう、そうか。それは良いことじゃ…………ダーリン?」
「細かいことは気にするな」
「う、うむ」
勢いで誤魔化しておく。せっかく話がまとまりそうなんだから、勘弁して欲しい。
■
結局、俺は4つの寮のどこにも入れてもらえなかった。学園長としても学園生を預かる立場として、無条件に“人類の敵”を信じるわけにはいかないと判断したわけだ。
それでも入学は認められ、代わりの住処まで与えられることになったので、俺としても不服はない。ゲームが普通に進められるなら、それでいいのだ。
……まだ、普通の範疇、だよな?
教師レステンの案内のもと、俺とリリィは学園の外れまでやってきた。ここに俺達の住処となる建物があるらしい。リリィに関しては寮に入ることもできたが、それを断ってこちらに来ている。
「どこまで行くんですか?」
「もうすぐそこだよ」
そう言うが、すぐそこはもう森なんだが。
「ここだよ」
レステンが足を止めたのは、森との境界だった。そこに、ポツンと一つ建物が建っている。古めかしいが、ちゃんと手入れがされているらしい。問題なく使えそうだ。
「わざわざ案内してくださって、ありがとうございます」
「いやいや、このくらいいいんだよ。ただ……」
建物をチラリと見て、レステンが言葉を濁す。
「ただ?」
「……いや、根も葉もない噂だ。何も気にすることはないさ」
思わせぶりなセリフだけ残して、レステンは去っていった。
なんなんだ? 何かのフラグか?
「むむ……なるほどなのです」
「なんだ、どうした?」
建物を観察して唸っていたのでリリィに尋ねると、振り返ってニヤリと笑った。
「ふふん! 有能なリリィは配信を盛り上げるためにグラン・マギステッドの有名スポットについて調べておいたのです!」
「ほほう」
そいつはたしかに有能かもしれん。詳しく調べすぎると新鮮な驚きがなくなってしまうが、有名スポット巡りとかはネタ不足になったときにやってみるのも悪くない。
「だが、有名スポット? ここがそうだって言うのか?」
「そうなのです。ここは、学園生から怪奇の屋敷と言われているのです」
「怪奇の屋敷、か。名前からして、ろくでもない場所みたいだな」
そんな場所を住処にしろとは。レステン、お前、好感度MAXになったんじゃないのか。いや、指示したのは学園長だったな。
「この屋敷では、原因不明の怪奇現象が頻発するのです。曰く、ドアを開けるとギロチンが落ちる音がする。曰く、水魔法が赤く染まる。などなど、なのです」
「完全にホラー屋敷じゃないか!」
俺のツッコミにリリィがゆっくり首を振る。
「実は……これらの怪奇現象はただの一言で説明がつくのです」
「……原因不明じゃなかったのか?」
「NPCたちから見たら、そうなのです。プレイヤーからはこう言われてるのです――――バグ屋敷」
「バグかよ!」
どっちにしろとんでもない場所じゃねぇか!
だが、リリィはむしろニコリと笑う。
「何を言うのです。ハプニングは配信的には美味しいのですよ」
「いや、俺は普通にゲームしたいだけなんだが……」
「問題ないのです。バグはグラン・マギステッドのメインコンテンツなのですから」
「とんでもない言い草だな。これ、一応、案件配信だぞ」
「動画なので編集できるですよ。それに公式も似たようなこと言ってるのです!」
とんでもないな、公式。アホなのかな?
「それにダーリンにとっても都合がいいと思うのです」
「なんでだよ」
「ダーリンの体質によって不具合が生じても、バグのせいにできるのです」
なるほど、リリィ。お前が俺のことをどう見ているかはよくわかったぞ。
その日、俺は照明の魔法道具がとんでもなく眩しく発光するなど、軽微なバグに3回遭遇することになった。
うん、バグだ。俺の体質とは全く関係ない。
だが……まぁ、この屋敷も住んでみれば意外と悪くないのかもな?
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