96. ちょろすぎレステン

「こ、これは、どういうことです!」


 監督していたNPC教師が動揺の声を上げた。学園生たちもプレイヤー、NPC問わず俺に注目していることが分かる。目立っている……この上なく目立っている!


「お、おい、リリィ! これ、どうにかならないのか! 止めてくれ!」

「やってるのです! でも、ダーリンが被ってるとまた光り出すのです!」

「よ、よし! そういうことなら!」


 俺は三角コーンをミリで浮かせた。意外と重いので腕が疲れそうだが、この状況を乗り切るにはやるしかない。


「これでどうだ?」

「いけるのです!」


 リリィの力強い声とともに、ちかちかと目に痛い虹色変化は止まった。が――――


「まだ、光ってる! それに色!」

「ちょ、ちょっと待つのです! 今、調整するのです!」


 三角コーンは金色に輝いている。やけに神々しい感じだ。これはこれで目立つ! もはや、儀式会場の視線は全て俺が引きつけていると言っても過言ではない。


 というか、思っていた以上に腕が辛いんだが!

 三角コーンが重いのもあるが、たぶんステータスが低いせいだな。現実の俺よりひ弱だぞ!


「調整できそうなのです! 何色にするです?」

「赤だ! 赤でいい!」

「了解なのです!」


 これまで観察していた限りでは、寮分けは4つの色で決められる。寮にはそれぞれシンボルがあるらしく、赤が不死鳥、緑がドラゴン、青が蛇、そして黄色が獅子だ。寮にも人気不人気があるようだが、俺にとってはどうでもいいことだ。今はとにかく、この状況をどうにかしないと……!


「まだなのか!」

「あと少しなのです! なんかやたら複雑に制御されてるのです!」

「早くしてくれ!」


 う、腕が……腕がプルプルする……。

 や、ヤバい……力が入らない……。


「も、もう無理だ」


 限界を迎えた腕が、仕事を放棄した。支えを失った三角コーンは俺の頭にピッタリと収まり……虹色の輝きを取り戻した!


「ぬわぁん、また虹色なのです!」

「すまん……」


 リリィの努力を無駄にしてしまったな。こうなっては仕方ない。


 必殺チョップ……は怖いので、デコピンくらいにしておこう。俺はそれを三角コーンのへりに炸裂させた。


「お……?」

「止まったのです!」


 三角コーンの虹色変化がピタリと止まった。それも都合の良いことに赤色だ。妙に輝いてはいるが、誤差だろ誤差。


「どうです?」

「どうですもこうですもないですが?」


 NPC教師に意見を求めたが、返ってくるのは冷ややかな視線。おまけに、何故か杖を向けられている。彼だけではないな。いつの間にか警備兵っぽいヤツラに取り囲まれてる。


「待ってくれ、どこからどう見ても赤いだろうが! 何の文句があるんだ!」

「あれだけ異常動作を引き起こしておいてよく言いますよね……?」

「重く考えすぎだ。これくらいのことは、よくある」

「そうそうあってたまりますか!」


 ぐ……なんてかたくなヤツだ。お前は分かっていないんだよ。そう言えることがどれだけ幸せなのかを!


「ダーリン、どうするです?」

「おっと、そこのキミも動かないように! すぐに学園長がいらっしゃいます。申し開きはそこで」


 NPC教師がリリィを牽制する。油断のない動きだ。システムの把握もできていない俺たちではおそらく太刀打ちできない。


「仕方ない。待つか。俺たちは何も悪いことはしていないんだからな」

「了解なのです」


 数多の好奇の目に晒されながらしばらく待つと、その数割が俺から外れて空へと向いた。ざわりと歓声ともつかない声が上がり、そのタイミングで空から人が降ってきた。


 スタッと華麗に着地したのは、やたらと華美なローブを纏った老人だ。顔は皺くちゃなので、それなりの年なのだろう。だが、それに反して背筋は真っ直ぐ、滲み出る覇気は衰えを感じさせない。


「学園長!」

「ほっほっ、待たせたのぅ」


 緊迫した様子の教師にも、鷹揚に応えている。これが学園長か。なかなかの人物ではあるようだ。


「さて」


 この学園長が俺に目を向けた。緩やかに弧を描いていた目が、一転して鋭いものに変わる。


「君は新入生のようだが……いったい、何をしたんだね?」

「俺は何もしていない。その三角コーンが変なだけだ!」


 俺としては当然の主張をする。自分の体質に関しては棚上げだ。


 無論相手も簡単には納得しない……と思いきや、どういうわけか俺の言葉はクリティカルな一撃となったらしい。学園長は僅かに後退あとずさったあと、その場にうずくまった。


「へ、変? 儂が設計した組み分け帽が、三角コーンみたいで変?」


 どうやら凹んでいるらしい。


 というか、これ、帽子だったのか! それならやっぱり変だろ!


「が、学園長! お気を確かに! 慮外者の悪口など気にすることはありません! 組み分け帽は素晴らしいデザインです!」

「そ、そうじゃよな。組み分け帽は変じゃないものな?」


 教師のフォローでどうにか立ち直ったらしい学園長は胸を押さえつつ、チラチラとこちらを窺っている。隣で彼を支える教師が俺を睨みつけつつ、パクパクと口を動かした。読唇術の心得はないが、何となく言いたいことは分かる。俺もフォローしろってことだろう。


 何で俺がと思わないでもないが……余計なことを言うと会話がループしそうな予感がする。まともなゲームプレイに戻るためにも、ここは譲歩しておくか……。


「そうだな。さっきのはちょっとしたジョークだ。とても素敵な三角コ……帽子だと思うぞ。変だと言ったのは異常挙動のことを言ったんだ」

「そ、そうじゃったか! これは早とちりをしてしまったのぅ」


 どうやらうまくいったようで、学園長の機嫌は上向いたようだ。傍らの教師もホッとした様子を見せたあと、グッドサインで健闘を称えてくれる。


《教師レステンの好感度がMAXになりました》


 レステンさん!?

 チョロすぎですよ!!

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