95. 虹色三角コーン

 キャラメイクが終わり、ようやく真っ黒な空間からおさらばできた。転移した先は、謎の光が跳びかう幻想的な風景。周囲を意味ありげな石柱が取り囲んでいる。石柱と足元の地面は僅かに光を放っていたが、それもやがて消えていく。


 ヴォーパルクックの会社が開発したゲームとあって警戒していたのだが……かなりまともだ。いやまぁ、ワームは異常にリアルだったから、グラフィック技術に優れているのはわかっていたのだが。


「ダーリン、何してたのですか! 遅いのです!」

「ああ、すまん。ちょっとアバター設定に手間取った」


 転移先には、当然の如くリリィが待機していた。まぁ、打ち合わせ通りだ。俺にとって転移処理は鬼門だからな。変な場所に跳ばないように、スタンバイしてもらっていたのだ。


 俺の話を聞いて、リリィがコテンと首を傾げる。


「ダーリンがアバター設定に力を入れるなんて珍しいのです」

「力を入れたというか……まぁ、ちょっとな」

「あぁ、いつものやつなのですね」


 言葉を濁したというのに、高速で納得されるのはどうなのか。まぁ、話が早いと言えば悪くはないのかもしれないが。


「リリィはいつもの姿か。服装は意外と似合ってるな」

「ダーリンのバンダナはどうかと思うのです」

「そいつには触れるな……」


 リリィのアバターはいつも通り。すなわち、現実世界のアンドロイドボディをほぼ完璧に再現してある。服装は魔術学園の制服だな。まぁ、これは俺もなんだが。


 魔術学園の制服は黒を基調とした落ち着いたローブ。これに、ド派手なバンダナが合ってないのはわかる。わかるんだが、こいつばかりはどうしようもないんだ。他に額を隠せるアクセサリーがなかった。ゲームを進めれば、他に何かあるだろうから、それに期待だ。


「えらく静かな場所だな。誰もいないぞ」


 画面端のエリア情報を確認すると、“招霊の庭”と表示されている。招霊というのは、プレイヤーを異世界から招くことを指してるんだろうな。つまり、ここはプレイヤーの初期位置ってことになる。にもかかわらず、誰も居ないって……新規プレイヤーが全然いないってことか?


 と思ったら、違うらしい。


「ここは今、プレイヤーごとの個別空間になっているのです。ここから出たら、共有空間に出るですよ」

「そうなのか」


 そういうことらしい。それなら、さっさとここを出るか。と、その前に、配信設定をしないと駄目だな。


「ええと、配信するにはどうするんだったか?」

「そっちはリリィとライで上手くやっとくのです」

「そうか、それは助かるな」


 いや、本当に。


 今回の案件、特に細かい指定はなく、ただグラン・マギステッドのプレイ動画を配信するだけでいいらしい。とはいえ、俺には“ただ配信する”が難しかったりする。俺が関わると何が起こるかわからんからなぁ。というわけで、配信関連はリリィとライに丸投げである。ありがたい。


 ちなみに、ライは今回ゲームに参加していない。リリィに留守番を命じられたのだ。リリィ曰く、“ウェルンと二人っきりで配信したのですから、リリィともそうするべきなのです!”だそうだ。西原もいたはずなんだが、眼中にないらしい。


「じゃあ、準備はいいんだな? 行くぞ」

「はい、なのです!」


 リリィの返事を待って歩き出す。“招霊の庭”とやらはさして広くなかったので、すぐに出口までたどり着いた。一歩足を踏み出すと、途端に周囲の様子が変わる。静寂が去ってざわめきが聞こえるようになると、次々に人影が現れた。リリィの言う通り、共有空間へと移動したらしい。


「お、君たちは新入生だね?」


 すぐ近くに立っていた少年に声をかけられた。服装は俺たちと似たようなもの、つまりは学園生ってことだろう。


「そうだが。あなたは?」

「僕はロッド。君たちの先輩で、案内役さ」

「ほほう」


 チュートリアル的な何か、だろうな。スキップすることもできるみたいだが、真っ当なゲームプレイがやりたい俺はもちろんちゃんと聞く。


 ロッド先輩によれば、俺たちはまず中央校舎で入学手続きをして、そのあと寮決めの儀式を受ける必要があるらしい。


 寮決めとはなんぞやって感じだが、そのままの意味だった。魔術学園マギステッドにおいて、学園生は入寮が義務付けられている。その寮の割り振りを決める儀式、それが寮決めの儀式だ。入る寮に関してプレイヤー側では選択できず、当人の資質を元に学園側が判断するそうだ。


 説明を聞いた俺たちはロッド先輩に礼を言って、すぐに入学手続きを終えた。そして、寮決めの儀式をやっている場所まできたのだが――……


「あれは、何をやってるんだ……?」

「三角コーンをかぶってるのです」

「だよなぁ……」


 儀式の場には謎の光景が広がっていた。新入生と思しきプレイヤー&NPCが三角コーン――工事現場とかにおいてあるアレだ――をかぶって、一喜一憂しているのである。いやまぁ、本当は三角コーンじゃなくて、なにかしらの魔法の道具なんだろうが。もっと、デザインをどうにかしろよと言いたい。


 どうやら、資質によって三角コーンの色が変わるらしい。その色で入るべき寮を決めるってことなんだろうな。


「では、次!」


 困惑している間に、俺の出番が来た。


「ダーリン、頑張るのです!」

「いや、頑張るも何もないだろ……」


 リリィの声援を受けつつ、受け取った三角コーンを見る。ただかぶればいいらしいが……かぶったら、本人には色がわかりにくいよなぁ。欠陥品じゃないか?


「さっさとしなさい!」

「はぃ……」


 教師らしきNPCに急かされて、渋々ながらそれを頭に乗せる。すると――――突如、三角コーンは虹色に輝きだした!


 前言を撤回しよう。全然わかりにくくない。どころか、次々と色が変わって、目がちかちかする!


 なんだこれ!?

 さっきまで、こんな反応してなかったよな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る