85. ユーリの提案
ハルシャたちを追い詰めたものの、愛の花の下っ端たちの体を張った妨害によって、逃げられてしまった。
だが、問題ない。逃亡先は特定できている。
種を明かせば簡単なことで、空飛ぶフライパンのライが逃げるハルシャたちを追っていたのだ。俺たちは足止め役のヤツらをボコボコにしたあと、ライの案内で悠々と逃亡先へと向かった。その途中でほーいちとオールリが合流したので、二人も同行している。
ハルシャが逃げた先は、ごく普通のアパートの一部屋だった。巨大組織のアジトにはとても見えない。意図的かそうでないかは不明だが、なかなか上手いカモフラージュだ。ライの案内がなければ、ここがアジトとは思わなかったことだろう。
これから行うのは戦闘ではなく、一応は話し合いである。ハルシャの活動はプレイヤーにとっては迷惑行為だが、運営が公式にそれを咎めたりしたことは一度もない。そのため、ハルシャを強制的に排除したりすると、むしろ俺たちが罰せられる可能性がある。ゲーム管理しているのは、ハルシャと同じサイバノイドだからな。
とはいえ、穏便に話が進むかといえば、難しいだろう。大半のプレイヤーとハルシャの意見は真っ向から対立している。完全に敵対しているので、素直に聞き入られるとは思っていない。多少は脅しも必要だろう。
というわけで、少々乱暴だが扉を蹴破ってアジトに足を踏み入れた。ハルシャを含む対抗勢力のメンバーと目が合ったので、おまけで凄んでみせたのだが……
「「「きゃー!?」」」
想定以上の効果があったらしく、耳を
「めっと……? みとら、ぽめらにゃん? いったい、どうしたの!?」
目の前で三人が消えるという事態にハルシャが恐慌をきたす。それをアマネが抱き留めて宥めた。
「だ、大丈夫だよ、ハルシャ! 魔王が怖くて、失神しただけだと思うから」
アマネから同意を求めるような視線を向けられる。いや、聞きたいのはこっちなんだがな
ただ、アマネの説明が間違っているとは思わない。本人に強い精神的なショックがあると、強制ログアウトされるというのはVRゲームに共通する仕様だ。いきなり消えたってことは、バグでなければ強制ログアウトの可能性が高い。俺が原因だと言われるのは少々腑に落ちないが、否定はできなかった。少し乱暴な登場はしたが、それだけなのになぁ。
俺が頷いてみせると、ハルシャも納得したらしい。パニック状態からは脱したようだ。とはいえ、俺を見る目には怯えがあるが。
おかしいな。俺はゲームを正すために行動しているはずなのに、これじゃまるで悪役ではないか。
「もう。ショウはもう少し自分の影響力を考えた方がいいよ」
ユーリが呆れた口調で言う。
一般プレイヤーに影響力も何もないはずだが、言い返す前にほーいちとオールリがユーリの意見に同調するように頷いた。
「流石は魔王だぜ。狂信者たちも最後には心が折られてたからな」
「魔女といえども……ということですね」
どうやらこちらが劣勢のようなので口を噤んでおく。
ただまあ、脅すという目的は達せられたようなので、話を進めよう。
「ハルシャ。俺たちは戦いに来たわけじゃない。お前に提案があってここに来たんだ」
当初はハルシャを懲らしめるという意図もあったが……それは充分に達成できているようなので、ここでは話さない。これ以上やると、完全に俺が悪役認定されそうだ。
「提案……?」
完全に心が折れているのか、ハルシャは反発することなく、首を傾げている。これなら、話ができそうだ。
目配せして、ユーリに話し手を譲る。頷いた彼女は、へたり込むハルシャの前に座り、視線を合わせて語りかける。
「あなたが平和を望む気持ちはわかるわ。私たちプレイヤーも基本的には一緒。争いごとは望まないって人の方が多いはずだよ」
「それは、嘘よ。だって、あなたたちはこの街でずっと争っている」
「そうだね。でも、それはプレイヤーにとって、ここが現実ではないから。あくまでゲームとして競ってるの。あなたたちにとっては迷惑でしょうけど……」
プレイヤーにとって、このギャングタウンはあくまで仮想世界である。アマネのような一部のプレイヤーを除いて、この街が荒れ果てたとしても気にもとめない。何故なら、そのために用意された舞台なのだから。
だが、ここで生まれ、他を知らないハルシャにとっては、この世界が全てだ。世界観にマッチした思考のサイバノイドとして生まれれば良かったんだろうが、どういう因果か平和を望む人格として生まれた。故郷を荒らされればそりゃ怒るよな。立場が違いすぎるので、プレイヤーとハルシャの間に対立が起きるのは当然だった。
「あなたにとって、ここは故郷のようなものだけど、プレイヤーたちも先に活動していたのは自分たちだって意識があるのよ。だからあなたに譲るのは難しいの」
「それは……でも、私だって譲れないわ。アマネたちみたいに、平和を望む人間もいるのだから。彼女たちのためにも私は……!」
「そうでしょうね」
心が折れたかのように見えたハルシャも、黙って街を明け渡すつもりはないらしい。だが、感情的に声を荒らげようしたところで、タイミング良くさしこまれた同意の言葉に気勢を削がれたようだ。その隙をついて、ユーリが言葉を続けた。
「だからね。サーバーを分けようかって話が出ているの。新しいサーバーの管理者をやるつもりはない?」
意見の対立は不可避。それならば、棲み分けをしようっていうのが、CF相談事務所の出した結論のようだ。
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