82. 威圧効果

前回投稿が滞りすみません。

今日からまた通常運行です。

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 いろいろとよくわからないことが多過ぎるが、今はハルシャを懲らしめるのが先決だ。せっかく引きずり出したというのに、また潜伏されてはたまらないからな。


 ちなみに、明らかな謎現象であるフライングフライパンに関しては、以外にもあっさりと受け入れられた。


「まあ、ショウだからね。そういうこともあるよ」

「むしろ、僕はこういうのを待ってたから! 全然問題なし!」


 というのが、ユーリとウェルンの感想だ。同行に関しては少々難色を示していたリリィも、


「いいですか? お前より、リリィの方が上なのです! ……おお、わかってるではないですか! そういうことなら問題ないのです!」


 俺にはよくわからないマウント合戦の末、リリィが勝利した結果、文句は言わなくなった。まあ、勝ったと言うより譲られたと言った方が正しそうではあるが。


 気を取り直して、愛の花との決戦に気持ちを切り替える。アマネたちは退けたが、他にも団員はいるのだ。それにしては、あれ以降、ヤツらの攻勢が止んでいるのが気になるが。


 アマネたちに不意を突かれたこともある。罠かと疑い、慎重に通りを進む。


「おかしくないか?」

「そうだね。みんな、何かに怯えているみたい」


 俺の疑問に、ユーリが不思議そうな顔で頷く。


 理由はわからないが、愛の花のヤツらの戦意が粉々に砕けてしまったらしい。抵抗らしい抵抗がないのもそのせいだ。俺たちが近づくと、背中を見せて逃げ出すヤツばかり。たまに、その場に留まるヤツもいるが、半分は腰が抜けて逃げ損ねたみたいなのが多い。残り半分は変わらぬ敵意で洗脳の花を投げてくるが、散発的すぎてまるで脅威ではなかった。


「考えられるとしたら、やっぱりお兄さんなんじゃない?」


 ニコニコと嬉しそうにウェルンが言う。何でだよと突っぱねたいところだが、タイミング的に、心当たりはなくはないんだよなぁ。


「ついさっき、悪名ランクが上がったな……」

「それだ! どういう効果なの?」

「効果はわからないが、『無慈悲な魔王』という特性だ」

「うわぁ、ぴったり!」


 誰が、無慈悲な魔王だよ!


 いや、強そうな名前だしMMORPGとかなら歓迎なんだが、『フライパンの魔王』に付随している特性ってのがどうもな。どうせろくでもない効果に決まってる。


「どういう効果だと思う、師匠?」

「むむ、そうですね……ライはどう思うのです?」


 ウェルンがリリィに尋ね、リリィがそれをさらにフライパンに尋ねた。いつの間にか、ライという名前までつけたようだ。


「ふむふむ。なるほど。あり得るのです」


 ライがふるふると体を震わせる。言葉はないが、それだけでリリィには伝わるらしい。しばらく相づちをうったあと、カッと目を見開いた。


「その特性の効果はおそらく、『フライパンのそばにいるとき、NPCに強力な威圧効果を与える』ってところなのです!」 


 な、なるほど。それなら、愛の花が一目散に逃げていくことにも納得が行く。だが――――


「それって全NPCなのか? 敵対NPCだけじゃなく?」

「ダーリン。現実を見るのです。逃げていったNPCにはギャング団の下っ端もいたのです!」

「いや、それは……やっぱり、そういうことなのか……」

「そういうことなのです」


 言葉では肯定しているのに、リリィは首を横に振った。やれやれというヤツである。


 いや、冗談じゃないぞ。NPCが次から次に逃げ出していったんじゃゲームにならない。このゲームの肝はギャング同士の抗争だが、ショップ利用などでNPCと接触する機会も少なくはないのだ。それが不可能になるなら、明らかなマイナス要素である。


 せめてもの救いは、威圧効果はフライパンがそばにあるときに限られていることか。


「すまないな、ライ。ここでお別れのようだ」


 俺の言葉に、ゆらゆらと揺れていたライがピタッと止まる。数秒空中に制したあと、一転して俺のまわりを高速で飛び回りはじめた。抗議するかのうようにピカピカと光るので眩しくてかなわない。相当に不服があるようだ。だがなぁ


「まあまあ、お兄さん。先のことはともかく、今はライがいてくれると助かるでしょ」

「それはそうだが……」


 ウェルンの援護でライが勢いづく。必死に何かアピールしてるようだが、俺には空中で反復横跳びをしているようにしか見えない。


「わかったわかった。それについては後で考えよう」

「大丈夫なのですよ、ライ。いざとなれば……」


 とりあえず、問題は先送りにしておこう。最悪、改鋳してフライパンでなくしてしまうって手もあるしな。リリィが何か入れ知恵しているようだが、それも後回しだ。


「よし、時間を食ってしまったが、ここからは一気に行くぞ。下っ端が戦意喪失してるなら、まともな抵抗はないはずだ」


 無慈悲な魔王はとんでもないマイナス特性だが、現状においては有用だ。利用できるものは利用しないと。


 一気に通りを駆ける。やがて、焦るハルシャの声が聞こえてきた。


「に、逃げては駄目です! みなさん、ここで立ち向かわなければ、平和な街を作ることはできませんよ!」


 よしよし、逃亡者が多数出て、混乱しているようだ。これなら組織だった抵抗は無理だろう。今度こそ逃がさないぞ。

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