81. 部下の暴力。責任の所在は

 まあ、アイツらは放置でいいだろ。リスポーンがあるので、プレイヤーを倒しても頭数を減らすという点に関してはあまり意味がない。武器類やアイテムを奪えるので戦力削減には繋がるんだが、アイツらはろくな武器を持っていなかったしな。


 まずは状況の再確認だ。アマネたちが登場したころから、後方からの射撃支援が止んでいる。抗っているような物音もないので、すでに制圧されたと見た方がいいだろう。


 考えを巡らす俺の視界に何かが横切った。ふわふわと宙に浮くソレは、自らをアピールするようにキラッと輝く。だが、俺はソレをスルーして、視線を逸らした。


 愛の花にそれほどの戦力があるだろうか? サタンフォースとノーイヤーズに対して同時攻撃を仕掛けつつ、なおも伏兵を用意する。相当な戦力だ。


 しかし、ありえなくはないか。ここのところ、ハルシャに動きが見られなかった。俺たちを警戒して潜伏しているのかと思っていたが、戦力増強に奔走していたと考えれば納得はゆく。


 そもそも、一般市民はギャングよりも愛の花に協力的だ。さっき空から降ってきた大量の花も、おそらくこの近くの建物からばら撒かれたはず。住民の中に協力者がいるとなれば、それも難しくない。


 というか、この辺一帯の住人が愛の花に協力してるってことはないよな? そうだとしたらマズい。敵中に孤立していることになるぞ。


 やはり、リリィたちをこのままにはしておけないな。殴ったら正気に戻らないだろうか。最悪の場合、それで倒れてもいい。リスポーンで安全な拠点に戻れるからな。


 また、視界に何かがよぎった。右にふわふわ左にふわふわと行ったり来たり。それでもスルーしていると、ピカピカ光りながら空中を跳ねるように上下しだした。アピールが激しすぎる。流石に無視するのも難しくなってきた。


「わかった! わかったから、大人しくしてろ!」


 声をかけるとようやく大人しくなった。と言っても、あいかわらずふよふよと宙には浮いてはいるが。


 意味がわからない。だからこそ、スルーしていたんだが……何でフライパンが自律行動するんだよ! 宙に浮くなよ!


「何なんだよ、お前は……」


 力なく呟くと、フライパンは激しい勢いで斜めに傾いた。人間で言えば驚いて体を仰け反らせるような動作なのだろう、たぶん。


 ショックを受けたらしいフライパンは、よろよろと高度を下げて、不思議な踊りをはじめた。何事かと思えば、柄で地面に文字を書いているらしい。


 ええと……フライパンだよ、か。

 知ってるよ!


「いや、そうじゃなくてな……まあいいか」


 自動車は暴走し、スロットマシンが踊り出す世界である。フライパンが空を飛んで自律行動したとしても今更だ。原因がどこにあるかは、この際考えないものとする。


 まあ、コイツに関しては薄々怪しいとは思っていた。投擲したときに明らかにおかしな軌道で戻ってきたり、まるで返事をするかのように光ったりな。認めたくなくて目を逸らしていたに過ぎない。


「お前のおかげで窮地を脱することができた。助かったよ」


 礼を告げると、フライパンは喜びを表現するように宙返りをした。完全にこちらの言うことを理解しているらしい。まあ、文字まで書けるんだから当たり前か。


「さて、残る問題はリリィたちだが……」


 俺の呟きにフライパンが反応する。任せろとばかりにぴょんと跳ねたかと思えば、徐々に高度を上げはじめた。そして、急降下。落下の勢いを利用して、猛然とリリィに襲いかかった。止める暇もない。俺も経験したみぞおちアタックである。


「ふぐぅ!? なんです? なんなのです!?」


 吹き飛び数メートルごろごろと転がったリリィが、きょろきょろと周囲を見回しながら立ち上がる。だが、そちらには見向きもせずにフライパンは再び浮かび上がった。次の狙いはウェルンだ。


「ぶへっ! はっ!? フライパンが浮いてる!? 撮らなきゃ!」


 ごろごろ転がりながらも、空飛ぶフライパンを認識したらしい。即座に起き上がると、実況をはじめた。なかなかの配信者魂だなぁ。


 そして、最後がユーリだ。


「ぐぇ!? な、なに!? なんなの!?」


 ラストということでフライパンも張り切ったのか、なかなかの飛びっぷりだった。角度的に、ウェルンの配信にもばっちり映ったことだろう。変顔が撮れてないといいが……。まあ、そうなったとしても、それはユーリとウェルンの問題である。俺は関係ないとここに宣言しておこう。


 仕事を果たしたフライパンが戻ってきた。何かを期待するかのように、俺の前でピタリと止まった。


 これは、もしかして……褒められ待ちか?


 正直に言えば、少々やりすぎではないかと思わないでもない。だけど俺自身も、殴ってでも正気に戻そうと思ってたんだよなぁ。客観的に見ると、なかなかヤバい行為だったようだ。下手をしたら、また称号がパワーアップするところだった。やらなくて良かったな。


 つまり、コイツは俺の悪名を肩代わりしてくれたってことだ。そういうことならば是非褒めてやらねば。


「良くやってくれたな」


 労うと、フライパンが嬉しそうに体を揺らす。その姿が尻尾を振る子犬のように見えた。疲れてるのかもしれない。



<称号『フライパンの魔王』の悪名ランクが上がりました>

<特性が強化されます…………完了>

<特性『無慈悲な魔王』を取得しました>



 なんで!?

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