78. 愛の花の横やり

 為せば成る、為さねば成らぬ何事も。閃光弾で視界を奪われたときは、やられたと思ったものだが、意外となんとかなるものだな。視覚以外の感覚を総動員することで、敵の奇襲をどうにかしのぐことができた。


 時間が経てば、一時的に失われていた感覚も回復する。ゲームだからか、後遺症もほぼ残らない。そこからは一転攻勢だ。目につく敵ギャングをフライパンの殴打でボコボコにしたら、気がつけば敵陣のど真ん中にいた。目の前には見知ったプレイヤーがいる。


「よう! ほーいち、オールリじゃないか!」

「よう、じゃねぇ! 非常識人間がよ!」


 明るく挨拶したというのに、ほーいちはつれない態度だ。となりのオールリに至っては顔を引きつらせている。どうやら、あまり歓迎されていないらしい。


 まあ、今は敵同士。馴れ合いは必要ないってことだな。なるほど、悪くない。


「せっかくだ。ボス同士のタイマンってのはどうだ?」

「……タイマンかよ」


 俺の提案に、今度はほーいちが顔を引きつらせる。代わりにオールリの顔色が良くなった。


「ほーいちさん、ここはリーダーが体を張るべきところですよ!」

「お前、意外といい性格しているよなぁ」

「そ、そんなことはないですって。それよりも、ルールを決めようとか言って、話を引き延ばせば……」


 二人でこそこそと話し合った結果、ほーいちもやる気になったらしい。頷いて俺の前に立つ。その顔は非常に険しい。なかなか気合いが入っているようだ。


 だが、決闘が始まる前に、周囲が騒がしくなってきた。いち早く状況を察したらしいオールリが叫ぶ。


「愛の花です! ヤツらが来ました!」

「おっと、そうか! 残念だが、勝負はお預けだな!」


 ほーいちの顔が一瞬にして緩んだ。せっかくのタイマンを邪魔されたというのに、満面の笑顔である。まあ、それだけ愛の花との戦いを待ち望んでいたということだろう。きっと。


 勝負が流れるのは残念だが、俺としても、愛の花を迎撃することに異存はない。そもそも、ヤツらをおびき出すための抗争だからな。目的を忘れてはならない。


「ダーリン!」


 リリィ、ユーリ、ウェルンも合流してきた。抗争は一時中断だ。うちの下っ端にも、愛の花が現れたらそちらとの戦いを優先せよと指示してある。NPCギャングにとってもヤツらは憎むべき敵だ。俺たちが直接指揮をとらなくても、協力して事に当たってくれることだろう。


「状況は?」

「サタンフォースとノーイヤーズの後方から、それぞれ仕掛けているみたい」

「でも、こっちの方が、騒ぎが小さいね。たぶん本命はうちだ」


 ユーリが答え、引き継ぐようにウェルンが補足した。


 どうやら愛の花の連中は手勢を二手に分けて、俺たちを大通りの両側から挟み撃ちにしようとしているらしい。ただし、戦力は偏らせている。ノーイヤーズ側は牽制、サタンフォース側が主力だ。うちのギャング団はNPCが多い。洗脳して取り込むつもりなのだろう。なかなか考えられている。


「ほーいち! 俺たちは向こうを対処する」

「おう! こっちからも状況を見てプレイヤーを派遣する。ヤツらに好き勝手させるなよ!」

「もちろんだ!」


 ほーいちと別れて、俺たちは通りを引き返す。すぐに激しい銃声が聞こえ始めた。どうやらかなり押し込まれているらしい。サタンフォースのNPCと合流したのは、二つのギャングが本陣としていた場所の中間地点。俺が閃光弾を食らったあたりだ。


「魔王様!」

「申し訳ないッス! 押されているッス!」


 ドグとバーグが俺を迎える。コイツらは無事だったらしい。そういや、閃光弾くらうまで後ろをついてきていたんだったな。奇襲を受けた後方にいなかったので助かったのだろう。


「被害はどうだ?」

「俺たちも把握できてないッス」

「ただ、少なからず寝返ったヤツらがいるッス。洗脳されちまったッス……」


 愛の花のメンバーに見知った団員が混ざっているらしい。となると、防衛ラインの向こう側にいるヤツらは洗脳されてしまったと考えた方が良さそうだ。


「ヤツらの攻勢がいつもより激しいッス」

「たぶん、魔女がいるっス」


 被害が大きくなった理由としては奇襲を受けたこともあるが、普段より洗脳の花が飛んでくる数が多いらしい。ドグとバーグは、魔女――つまりハルシャが参戦しているからだとみているようだ。


「なるほど、ようやく出てきたか。わかった。あとは俺たちに任せろ」

「「流石は魔王様ッス!」」


 ドグとバーグの称賛を適当にあしらって、仲間たちに目配せをする。三人も俺を見て頷いた。俺がいれば、ヤツらが張るバリアは無効化できる。その間に、三人が他の団員を倒し、ハルシャを孤立させるという作戦だ。その後は状況を見て、お話し合いということになる。説得のあては……まあ、まずは接触することが大事だな。


 NPC団員の射撃支援を受けながら、愛の花の方へとゆっくりと近づいていく。俺が先頭にたち、リリィたちが後に続く形だ。ヤツらが飛ばす花は俺には当たらない。全てを外す者の効果はヤツらの花にも有効らしい。まあ、そうでなくとも俺がフライパンで防ぐんだが。


 ヤツらのバリアは目前。俺は右手を構える。チョップでバリアを破壊しようとしたそのとき――――


「今だ!」


 そんな声が聞こえたかと思うと、空から大量の花が降ってきた。

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