77. 心眼
「なっ……弾丸が避けていく、だと!?」
「狼狽えるな! 防がれるのは想定していただろ!」
「いや、防がれてすらいないんですが!」
「うわぁ、あれが例の人? やっぱ、すげぇ!」
「とんでもねぇな!」
俺の能力に動揺する声。おそらくはNPCだろう。それをプレイヤーが落ち着かせている。
それはそれとして、なんか楽しそうにしているヤツもいるな。まったく他人事だと思いやがって。言っておくが、こっちは全く楽しくないからな! 撃ち合いするゲームなのに、弾丸が当たらなくなったら楽しさ半減だろうが。
リリィに協力してもらってインベントリが何でも仕舞ってしまう怪現象を防いだというのに、結局これだ。この現象も頼めば防いでもらえるとは思うんだが……それは微妙なんだよな。インベントリの件は明らかに仕様外のバグだったが、こっちは称号に付随する特性、つまりは仕様の範疇と言えなくはないんだ。効果が気に食わないからと言って無効化するのはチートじゃないかという気もする。というわけで一応放置しているわけだ。
ちなみに『全てを外す者』は本当に全てを外すわけではない。事前の検証によれば、直接攻撃……つまり、近寄って殴れば普通に当たる。基本的には飛び道具に当たらなくなる能力のようだ。
「流石ッス、魔王様!」
「無人の野を行くが如しッス!」
ドグとバーグが調子の良いことを言っている。ヤツらは俺の背後からついてきているようだ。一応、俺はボスのはずなんだが、これでは盾扱いである。
さて、サタンフォースとノーイヤーズは大通りにて向かい合っている。弾丸飛び交う大通りをゆっくりと歩く俺は、すでに両者の中間地点までやってきた。このままなら何事もなく敵陣に突っ込むことができそうだ。しかし、ほーいちはベテランプレイヤーである。このまま終わるとも思えないが……。
――カラン
暗闇の中、何かが転がってきた。どうやら、近くの路地に何者かが潜んでいたらしい。
「げっ、まずいッス!?」
「これは閃光――」
ドグとバーグの動揺の声。しかし、それは激しい音でかき消された。同時に、視界が白く染まる。強烈な光に目が灼かれたらしい。
はは、やられたな!
充分に引き寄せたところで、閃光弾により視覚と聴覚を奪う作戦だったようだ。
目は眩んだまま。わんわんとうるさい耳鳴りで、耳も頼りにならない。おそらく長くは続かないだろうが、効果が切れる前に俺を始末するつもりだろう。
当たらない銃弾は怖くはない。となれば、警戒すべきは近接攻撃だ。とりあえず、何かいそうな場所をフライパンでぶん殴ろう。感覚を研ぎ澄ませろ。聴覚は完全に無効化されたわけではない。それに情報が得られるのは目と耳からだけじゃないぞ。地面から伝わる振動が敵の接近を知らせてくれる。
ふふふ、なかなかの緊張感じゃないか。やっぱり、ぬるいだけじゃゲームは駄目だな。ようやく楽しくなってきた!
◆◇◆
「よし、効いてるぞ!」
暗視スコープを覗いたほーいちが快哉を叫ぶ。指揮官たるもの、部下に弱気なところは見せられないが、ショウの理不尽すぎる能力を目の当たりにして内心不安を抱いていたのだ。
フライパンで銃弾を防ぐのは知っていた。しかし、今はそれすら必要もなくなっている。この短期間でいったい何があったのか。全く謎すぎる。そのせいで、閃光弾が効くという確証が得られなかったのだ。
隣に立つオールリが大きく息を吐いた。
「ほっとしましたね。火炎放射も無効化するって話でしたから、もしかしてと不安でした」
「だなぁ」
称号の特性による効果だという話はほーいちも聞いている。だが、そんな強力すぎる特性は普通に考えてあり得ない。おそらくは、本人の言うところの“体質”の問題なのだろう。となれば、それ以外にも信じられないことが起きる可能性はある。閃光弾の有効性をいまいち信じ切れなかったのは、そのせいだ。
「ヤツも無敵ではないってことだな」
「ですね!」
ほーいちがニヤリと笑うと、オールリが弾んだ声で同意した。
実のところ、今回の抗争の勝敗に大きな意味はない。NPCはローグル市での覇権争いだと考えているようだが、プレイヤーの思惑は異なる。争いを大きくして、愛の花の親玉ハルシャをおびき出すのが目的だ。そして、最終的にはゲームから追い出す。サイバノイドトラブルを専門とする組織が動いているらしく、実現可能性は高いとほーいちたちは見ていた。
だが、それはそれ。ほーいちもオールリも本質的には負けず嫌いのゲーマーだ。何かと話題となるプレイヤーを打ち負かす機会があるならば、それを逃すつもりもない。
今頃は手筈通り、路地に潜んだ仲間がショウを倒していることだろう。もちろん、相手もプレイヤーなので、すぐに復活する。だが、この抗争はノーイヤーズの勝ちだ。
「……報告が上がってきませんね?」
「そうだな」
閃光弾の効果は長くは続かない。だからこそ、早期に決着をつける布陣にした。すでに撃破報告届いてもおかしくはないはずなのだ。しかし……
「うおっ!?」
「やべぇ! 本当に見えてないの!?」
聞こえてくるのは焦りの声ばかり。複数あるということは、味方側だ。
「駄目だったみたいだな」
ほーいちの顔に苦笑いが浮かぶ。伝染するように、オールリも苦笑した。
「……そうですね。そういえば、ショウさん、リアルで武術を学んでたって話ですよ」
「心眼ってヤツか。漫画とか小説の話と思ったが」
「どうなんでしょうね。まあ、目の前にいるので、いるんでしょうけど……」
すでに襲撃メンバーを降したらしく、フライパンを振り回すショウがノーイアーズ側の陣まで乗り込んできた。銃は効かず、近距離戦を挑めばフライパンで殴り倒される。まるで相手になっていない。
「アレ、どうやって倒せばいいんだ……?」
「さぁ?」
勝敗は明らかだった。誰一人としてショウを止められない。
「愛の花のヤツら、早く来てくれねえかな」
「そ、そうですね」
GTBに平和は無用。それでも、今だけは平和を願う彼らの気持ちに少しだけ共感できた二人であった。
◆◇◆
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