68. 凶行の目撃者
「金を出せだって? 冗談じゃねえ! 売り上げを持って行かれたら生活が成り立たねえよ!」
「ああん? 命より金が大事ってか? それならお望み通り、その命を貰ってやってもいいんだぜぇ?」
「ぐぅ……」
店主のおっさんは金を出し渋っている。だが、ギャングたちは取り合うつもりはないらしい。へらへらと笑いながら、銃を突きつけている。
単なる脅しならば良いのだが、ヤツら、抵抗が激しければ平気で撃ちそうだ。ショップシステムが使えなくなるのは面倒なので、やっぱり介入するしかないな。
武器になりそうなものは……やっぱりフライパンしかない。服よりも武器を優先すべきだったんじゃないかと思いつつ、仕方なくそれをインベントリから取り出した。
「おい、お前ら。ちょっと待て」
「はぁ? 誰にものを言ってるんだ?」
呼びかけると、ギャングの片方が睨み付けてきた。片目を細め、もう片目は大きく見開かれている。ガンを飛ばしているんだろうが、不器用なヤツらしく、変顔をやっているようにしか見えない。
「ウィンクできないタイプか」
「「ぶふっ!?」」
NPCにもいろいろいるんだなと感心していたら、知らずに声が出ていたらしい。隣でユーリとウェルンが噴き出した。確かに、今、言うことじゃなかったか。失敬。
「お前、舐めてんのか!? よし、決めたぜ! 見せしめにまずはお前を――――」
意図したわけではないが、先ほどの言葉が挑発になってしまったらしい。ヤツが銃を撃つ素振りを見せたので、俺もフライパンを構える。
だが、いつまで経っても撃ってこない。それどころか、ヤツは俺を見て脂汗を流していた。
「おい、どうした? 撃たないならこっちからいくぞ?」
「ちょ、ちょっと、タンマ、いいっすか?」
「はぁ?」
さっきまでの勢いはどうしたのか、突然の三下ムーブでタンマを申し出るギャングA。俺が意図を尋ねる前に、ギャングBがキレた。
「おい、何やってんだ! そっちはさっさと片付けろよ!」
しかし、ギャングAが猛然と反論する。
「馬鹿、よく見ろ! あのフライパンを!」
「フライパンがどう……フライパンだと!?」
おっさんに銃を突きつけていたギャングBは、弾かれたように俺を見ると、わなわな震え始める。しまいには、ギャング二人でシンクロするようなタイミングで銃を放り投げると、頭を深々と下げた状態で膝を曲げ、床に座り込んだ。土下座だ。
「「すみませんでしたー!!」」
いや、待て。どういう展開だよ。唐突な展開についていけずに、みんなポカンとしているぞ。
「くくく……流石はお兄さんだ。バグすら起こさず、こんな珍事を引き起こすなんて! 撮影しといて良かった!」
「流石はダーリンなのです!」
「実は、私、ちょっとこうなるんじゃないかと思ってたんだよね」
訂正。ポカンとしているのは俺と店主のおっさんだけだった。こっちが少数派じゃないか!
コイツらの態度が豹変した理由は、察しはつく。察しはつくが……せめてもの抵抗をしてみよう。
「お、お前ら誰かと勘違いしてるんじゃないか? 俺はごく普通の一般市民――――」
「いえ、そんなはずはないッス! フライパンを構えるその立ち姿……噂に聞いていた通りだ」
「アンタが……アンタこそが、ギャングの星!」
「「フライパンの魔王ッスよね!?」」
声を揃えて、その名前を呼ぶな!
というか、いつの間にギャングの星に? もうそっちが異名でいいんじゃないか? フライパンの魔王なんてダサい名前よりもそっちの方がいいだろ。
「フライパンの魔王……? ひぃ!?」
ただでさえ、ギャング二人のテンションについて行けないのに、ここで店主のおっさんまでが称号に反応した。服屋の店主にまで浸透してるのかよ……。
「いや、おっさんにまで危害を加えるつもりはない……って、何してんだよ!」
俺の言葉が聞こえていないのか、おっさんはよたよたと這うようにして俺の前に寄ってくると、ギャングたちの土下座仲間になった。
アンタ、さっきは銃を突きつけられても抵抗してただろ! あの気概はどこにいった!
「か、金なら! 金なら持っていっていい! だが、頼む! 生きたまま調理するのだけはやめてくれ!」
な、なるほど。流石のおっさんも、生きながらにして調理される恐怖には耐えられなかったってことか……って違うだろ!
「いや、しねえよ!」
いったい、どんな噂が出回ってるんだよ……完全に尾ひれがついているじゃないか。
<称号『フライパンの魔王』の悪名ランクが上がりました>
<特性が強化されます…………完了>
<調理技能(対人)が上昇します>
調理技能に対人って必要あります!?
根も葉もない噂に根と葉を後付けで補強していくスタイル!?
とにかく、この状況をどうにかしないと。もし、他のNPCに見られたらさらに噂が広まってしまうぞ!
「どうすればいい? どうすれば……」
「リリィは知っているのです。こういうときは諦めが肝心なのです!」
「それは解決策じゃない!」
役に立たないリリィに見切りをつけて、ユーリとウェルンに視線を向ける。だが、二人もニコニコするばかりで解決策を授けてくれることはなかった。
「おじさ~ん、新しい服、買いに――」
そして、間の悪いことに、店に誰かが入ってきた。ギャングタウンに似つかわしくないワンピース姿の少女だ。少女は床に這いつくばるギャングとおっさんに見た後、俺たちに視線を向け……首を傾げる。
「これ、どういう状況?」
いや、俺が聞きたいよ、それは!
残念ながら目撃者が出てしまったが、幸いにも少女はプレイヤーのようだ。上手く言いくるめれば、噂が広まるのは防げる……はず。
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