66. 作戦会議

 打倒ハルシャを掲げて一週間が経過した。その間、俺たちは毎日欠かさずGTBにログインして、ヤツの動向に注意していたのだが……


「今日も動きはなし、だね」


 アジトでウェルンが報告する。今日も俺がログインしていない時間に情報収集してくれていたようだ。残念ながら成果はなかったが。


「完全に潜伏してるのか?」

「愛の花自体は動いてるみたいだよ。ただ、ハルシャが表には出てこなくなったんだ。お兄さんのことを相当警戒しているみたい。まあ、妥当な判断だよね」


 ウェルンは楽しげに笑っているが……わりと厄介な状況なのでは?


 ハルシャは洗脳で味方を幾らでも増やせる。愛の花の下っ端をいくら叩きのめそうと意味がないのだ。


「GTBの運営にもサイバノイドがいるんだよな。運営に協力を要請できないのか?」


 今回の件、ハルシャはGTBには何の関係もない野良サイバノイドであることがわかっている。運営サイバノイドにとっても、ハルシャはゲームの秩序を乱す厄介な存在であるはず。居所を知らせてくれるくらいの協力はしてくれるのではないか。


 だが、それくらいのことはCF相談事務所も考えていたはずだ。案の定、ユーリは渋い表情で首を振る。


「現状に不満はない。同胞を捕縛するようなことには協力できないって」

「はぁ? GTBが争いのない世界になったら、そいつも困るんじゃないのか?」

「どうも、そのサイバノイドは街がどんな環境になるかは住人の行動しだいってスタンスみたい。だから、街が平和になろうが、殺伐としようが関与はしないって。私たちの妨害をすることもないとは思うけどね」


 基本的には中立。心情的にはやや向こうよりってことか。そりゃまた厄介な。


「GTBの運営には人間も入ってるはずだろ。そいつらも同じ考えなのか? だったら、この依頼自体に意味がなくなるんじゃないか?」


 打倒ハルシャは、俺にとっては私怨だが、ユーリとリリィにとっては相談事務所の仕事である。GTB運営がハルシャの行動を容認するなら、仕事として成り立たないのではないか。


 俺の指摘に、ユーリは苦笑いを浮かべた。


「運営全体としては、ハルシャの行動を好ましくは思ってないよ。そのせいで、ユーザーが減っているわけだしね。でも、サイバノイドにへそを曲げられると、ゲームの運営自体ができなくなるから、強くは言えないみたい」


 今やVRMMOというジャンルのゲームにおいて、サイバノイドは欠かすことのできない存在だ。そのせいで、運営において発言権がかなり強いらしい。


「ただ、リリィたちは別に運営から依頼を受けたわけじゃないのです」

「そうなのか?」

「そうなの。依頼は個人……まあ、プレイヤーからだよ。とあるサイバノイドがゲームを乱しているから何とかできないかって内容だね」


 今回の件は、あくまで個人からの相談。運営が営業妨害を訴えたとかではないそうだ。つまり、警察は一切絡んでいない。


「……ってことは、ハルシャを逮捕したりはできないってことか?」

「できないよ。だから、どうにか説得しないとね」

「もしくは、ボコボコにして心を折るのです!」

「マジか」


 ユーリに逮捕してもらって問題解決とはいかないのか。意外と大変なミッションかもしれないな、今回。


「まあ、どのみち、ヤツの居所がわからないとどうにもならないよなぁ」


 説得するにもボコボコにするにも、まずはハルシャを探し出さなければならない。ただ待っているだけではいつまで経っても問題は解決しないだろう。策が必要だ。


「それならやっぱり、事件を起こして引っ張り出すのがいいんじゃない? 小さな事件なら愛の花が出てきて終わりだろうけど、彼らだけじゃ手が終えないほどの大きな事件を起こせばハルシャも出てくると思うよ」


 喜々としてウェルンが献策してくる。配信的にその方が美味しいという思惑が透けているが、悪くはない案だ。


「大きな事件です? また、警官とやりあうのですか?」

「それも悪くないけど、露骨すぎるかもね。流石に警戒して出てこないかもしれないよ」

「じゃあ、どうするのです? 意見があるのなら、さっさと話すのです!」

「もう。せっかちだな、師匠は」


 リリィから急かされたウェルンは少しだけ顔を顰めせてみせるも、すぐにニヤリと笑う。


「別に難しいことじゃないよ。お兄さんの当初の目的通り、ゲームを楽しめばいいんだ」

「……具体的には?」

「お兄さんがギャング団を作って、それを大きくすればいいんじゃない? そして、街のあちこちで騒動を起こす。街全体を巻き込めば、ハルシャも出てこざるをえないんじゃないかな?」


 なるほど。新たなギャング団を起こすのか。悪くないな。


 この街のギャング団はハルシャのせいで腑抜けてしまっているが、刑務所に捕らえられているヤツらは反抗心を失っていなかった。おそらくは、そういうヤツらが他にもいるはずである。ハルシャに対抗する組織ができれば、人員は自然と集まってきそうだ。


「うわぁ、悪そうな顔。アバターがアバターだから、また迫力があるね……」

「流石ダーリンなのです。リリィにはダーリンに立派なギャングの素質があるとわかっていたのです!」

「……リリィちゃん、それ、たぶん褒め言葉になってないからね」

「なぜなのです!?」


 考え事をしているうちに笑っていたらしい。ユーリとリリィが好き勝手言っているが、そちらは放っておこう。


「ウェルン、ギャング団を作るにはどうしたらいい?」

「そっちは俺がやってとくよ。ギャングに資格はいらないから、すぐに終わるし。それよりも、団を大きくしようとしたらお金がいるね」

「金か……手っ取り早いのは強盗か?」

「そうだね。カジノでも襲う?」


 ニヒヒとウェルンが笑う。どうせ、撮れ高がどうのとか考えているのだろう。コイツの思惑通りってのも少々癪だが……とはいえギャングだしな。ハルシャを引きずり出すにも大きなことをやった方がいい。


 ふふふ……なかなか楽しくなってきたじゃないか!


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