57. 唐突に始まるミーティング
「やったか!?」
誰かが叫んだ。この声は伝説の配管工だろうか。
勉強が足りないな。その台詞が出るときは、大抵倒せていないのだ。フラグ理論が息を吹き返したぞ!
……と、まあ現実逃避をするのもほどほどにしておこう。ダメージがないとはいえ、いつまでも全身を炎で焼かれる状態でいるのはちょっとな。
俺はゆっくりと前進する。直後、あちこちからうめき声が聞こえる。半ば悲鳴みたいなものもあったな。おそらくはNPCだろう。俺自身にはよくわからんが、客観的に見るとホラーのような状態になっているようだ。まあ、火だるま状態のヤツが平然と歩けば、そういう反応にもなるか。
そのまま歩き続けると、ようやく炎の中から脱出できた。範囲の外に出たと言うより、伝説の配管工たちが、火炎放射器を止めたらしい。効果がないことを察したようだ。
「馬鹿な……なんで無事なんだ!?」
火炎放射器のノズルを地面に叩きつけながら叫んだのはまろにぃだ。理不尽だと言いたげだが、こっちだって言いたいことはあるんだからな。
「お前が、変な名前をつけたせいだろうが!」
「は? 名前?」
「フライパンの魔王ってヤツだよ!」
「あ、ああ?」
俺の抗議にも、まろにぃはピンと来ていないようだ。ヘルメット越しなので表情はわからないが、声には多分に困惑が混じっている。代わりに反応したのは俺の右手側にいたヘルメットだ。
「……あ、称号か! 称号の特性によってダメージをカットしているんだね?」
「その通りだ!」
声からするとぺけ丸だろう。俺が肯定すると、納得したように数回頷き……すぐに首を傾げた。
「火炎放射器によるダメージを無効化するほど強力な特性? そんなの聞いたことがないけど……」
やっぱりそうなのか。まあ、炎に限定されるとはいえ、ダメージ無効化は強いよなぁ。
微妙な空気の中、俺の正面にいたヤツがついにヘルメットを脱いだ。露わになったその顔は、伝説の配管工だな。眉間をぐりぐり押さえつつ険しい顔をしている。
「少々理解が追いつかない。タイムアウトを要求する」
タイムアウトというと、時間切れ……ではなく、競技スポーツとかにあるヤツだな。選手交代や監督から新たな作戦を授けたりするときに、一時的に時計を止めるアレだ。
GTBの戦闘にそんなシステムはないので、俺が付き合う必要はない。だが、まあ今回は認めても良いかなと思う。ベテランプレイヤーが称号システムをどう認識しているのか……もっと言えば、俺の持つ称号の特性がどれほど異常かを知る機会になりそうだからな。
「いいだろう。その代わり俺も混ぜろ」
「混ぜろって……まあいいか」
というわけで、ヘルメットを外した警官プレイヤー五人と俺で、情報交換タイムだ。ちなみにリリィは、警官NPCからの不意打ちを警戒して、そちらを見張っている。まあ、ぶっちゃけ必要ないような気もするが。俺が火炎放射器すら無効化すると知って、連中はすっかり意気消沈しているからな。
「ええと、ショウ君は初心者だっけ? 一応、称号システムについて簡単に説明するよ」
ぺけ丸がこちらに配慮して説明してくれたところによると、称号システムは一定以上のNPCに認知された“異名”に対して、種々の特典がつくといった内容らしい。これに関してはほとんど予想していた通りだ。
称号の名称――俺で言えば『フライパンの魔王』だ――に関しては、似たようなものはあるものの、ほぼ被りはないらしい。ただし、変化したり奪われたりすることはある。例えば『○○チャンピオン』が誰かに敗れた場合、『元・○○チャンピオン』になったりするそうだ。
一方で、称号で得られる特性は同一のものが多数確認されているのだとか。例えば『名料理人』と『有名シェフ』は、どちらも調理技能の成功率が上がる特性を持つという感じだな。もっとも、具体的な補正値がわからないので、特性によって効果に差はある可能性はあるそうだ。
「そもそも称号で得られる特性の効果って微々たるものだから、違いを実感できるほどじゃないんだよね……普通は」
ぺけ丸はそう言って締めくくる。ついでに向けてくるジト目はスルーだ。
「でぇ? お前の称号はどんな特性だぁ?」
お次は、どーまんが胡散臭いと言いたげな視線を向けてくる。質問には素直に答えておくか。変に隠しても仕方ないからな。これは仕様の効果だ。ならば、俺に恥じるところはない。
「ケケ。フライパン技能の向上と、やけど耐性か。意外に普通だな」
「そうだな。料理人にはありがちな特性だ」
そう言いつつ、イガラーと伝説の配管工の表情は冴えない。むしろ、ありがちな特性だったせいで、余計に意味がわからなくなってしまったようだ。
「いや、やけど耐性ってレベルじゃないだろ! やっぱり、コイツは魔王なんだよ!」
「馬鹿、やめろ! NPCに聞かれたら、どうする!」
「そうだよ! ただでさえ手がつけられないのに!」
「お、おお、悪い……」
癇癪気味に叫ぶまろにぃを全員で押さえつける。まったく、これ以上変な特性が生えたらどうするんだ。
結局、コイツらの知恵を以てしても、俺の称号の異常性について説明はつかなかった。
これ、ひょっとして特性が異常なんじゃなくて……いや、まさかまさか。仕様だから。絶対にそうだから。
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