55. あなたはフラグを信じますか?
「それで、お前、そのバグみたいな力を積極的に利用するつもりはあるのか?」
妄想の世界から戻ってきたほーいちが尋ねた。探るような目つきだ。
これはどっちだ?
俺の能力を利用したいのか。それとも悪用させまいとしているのか。まあ、いずれにせよ、俺の返事は決まっているが。
「俺は普通にゲームがやりたいだけだ。仕様にない能力を使うつもりはないぞ」
「む、そうか……」
俺の答えを聞いたほーいちは、複雑な表情で頷いた。残念そうな……それでいてほっとしたような顔だ。それがどういう感情なのか測りかねていると、ヤツは自分に言い聞かせるかのように呟いた。
「今のクソみたいな状況を打破するにはちょうど良いかと思ったが……まあ、劇薬だから、良い方に作用するとは限らんか」
クソみたいな状況?
何のことだと問う前に、ほーいちたちは昔語りモードに入ってしまった。
「アルサーは本当に酷いことになっていたからな」
「例のお姫様、目の前にいるのに王様からいない人扱いされてましたからね……」
「あのときの、いたたまれなさと言ったらなぁ。哀れに思ったものだぜ」
会話の内容は、シナリオ上亡くなるはずだった姫騎士の話のようだ。俺がうっかり回復薬を使ったばかりに、そのサーバーでは姫が生き残ってしまったんだよな。その後のイベントでいろいろと矛盾が出てきたとは聞いていたが……二人が話しているのはどうやらその一つのことらしい。
他意はないのかもしれないが、遠慮してもらえないかな? その話は俺に効く!
「とにかく。さっきの現象に関しては、以後、起きないものとして考えてくれ」
強引に話を打ち切って伝える。
俺の推測が確かならば、インベントリへの収納条件には獲得の意思が必要だ。例のグレネード以外に余計なものを拾った形跡はないところを見ると、おそらくこの推測は正しい。でなければ、今頃、俺は何でも吸い込む吸引兵器になっているはずだ。
この条件なら、俺が余計なことを考えなければ、おかしな挙動は起きない。それでも上手くいかなければ、リリィに頼んで収納をキャンセルしてもらえばいい。その場合、絶えずインベントリを監視してもらう必要があるので、リリィの負荷が大きくなるが……まあ、あくまでいざというときには、である。基本的に問題はないだろう。
ヤバい能力を獲得したもんだとヒヤヒヤしたが、対処はしやすいので助かった。これなら、大手を振ってゲームが続けられそうだ。
「まあ、それについては了解だ。もともと、計画にはなかった要素だしな。こっちも脱獄計画にお前の力を利用する気はねぇよ。牢獄破りはともかく、銃撃無効は看守側が哀れすぎる」
「そうですね。かなり士気が下がってましたし……これ以上はちょっと……」
ほーいち、オールリの賛同も得られたことだし、今まで通りのスタンスでゲームを続けることができそうだ。良かった良かった。
「むぅ。ダーリンが活躍するところ、見たかったのです」
若干一名不服そうだが、そちらはスルーで。
「で、ここからはどうするんだ?」
せっかくなので、この機会に計画の詳細を聞いておく。突発的に始まったせいで、まだ全容が聞けていないのだ。
「お、そう言えば、まだ話してなかったか」
ニヤリとほーいちが楽しげに笑う。その口から語られたのは、なかなか大胆というか、かなり雑な計画だった。一応、ここ以外の区画と連携をとり、脱獄のタイミングを合わせることで、看守側の戦力を分散させるくらいのことは考えているらしい。だが、基本的には力押し。囚人区画制圧後は、各々の力でこの収容所を抜け出すことになっている。塀をぶち破っても良し、正面突破しても良し。そこはそれぞれの裁量でということらしい。
「こう言うのって、穴とか掘ったりするんじゃないのか?」
「リリィは看守に変装するのかと思ったのです!」
「ははは。そういう手段を使うなら、騒ぎを起こす前にやりますよ」
俺とリリィの感想は、笑うオールリに否定される。まあ、言っていることはもっともだ。あれだけドンパチやったあとに、警戒されないわけがない。
「だが、なんでこんな分の悪い方法をとったんだ?」
「ああん? そりゃ、祭りだからさ。こっそり脱獄ってのも、それはそれで面白そうだが、どうしても参加できる奴は限られるからな。囚人も、看守も全員が楽しむためには、この方法が一番ってわけさ」
なるほど。あくまで主目的は楽しむこと。脱獄できるかどうかは二の次ってわけか。確かに、ゲームのイベントとして一番重要なことはそれだ。こいつ、なかなかのエンターテイナーじゃないか。
「そういうことなら了解だ。せいぜい、暴れ回ってやるとしよう」
「ああ。屋外だとパトカーやヘリも出てくるから、さらに派手な戦いになるぜ。空から狙い撃ちされたら不利……」
調子よく話していたほーいちの言葉が途切れた。楽しげだった表情には、心なしか不安の色が見える。何故かオールリも似たような表情だ。
「流石に大丈夫だよな? ヘリを撃ち落としたりしないよな?」
「大丈夫……だと思いますけど……」
おい、ちらちらと俺を見るんじゃない!
変なことを言うなよ。そういうのってフラグになるんだからな。もし、ヘリが落ちたら、お前らのせいだぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます