49. 祭りの計画
パトカーに轢かれて死んだ俺たちだが、そのままリスポーンとはいかなかった。手錠をかけられた状態で蘇生処理を受けると、身動きがとれない状態で復活するらしい。そのままパトカーの後部座席に放り込まれた。運転手はペケ丸だ。
「君たちのせいで、帰りはパトカーが広いよ」
「いや、ほとんどはお前が殺ったんだろうが……」
完全に妄言である。パトカーが突っ込んでくるまで、少なくとも三人は生きていた。俺たち諸とも彼らを轢き殺したのはコイツだ。
というか、最初に死んだどーまんも俺自身は手を下していない。全員、仲間に殺されているじゃないか。本当にとんでもないな、ここの警察は。
「リリィの銃が取られちゃったのです」
「いや、俺のだからね! リリィ君には宝の持ち腐れだよ」
当たり前といえば当たり前だが、死亡状態のときにリリィの持っていた拳銃は奪われた。まぁ、取りかえされたというべきか。
本人曰く、ぺけ丸の拳銃はかなりカスタマイズされた逸品らしい。そのため、何が何でも取り戻したかったそうだ。
連行する最中に如何に素晴らしいかを滔々と語られたが、俺にはさっぱり理解できなかった。結局のところ、火力はサブマシンガンに劣り、ライフルと比べると射程も短いのだ。勝っているところと言えば携行性だろうか。まあ、趣味の品なんだろうなと理解した。蘊蓄を語るぺけ丸の姿が骨董好きの爺さんにダブって見えたので間違いないと思う。
パトカーに乗っていたのは数分ほどだった。パトカーが止まったかと思えば、俺とリリィは担がれたままあれよあれよという間に牢屋にぶちこまれた。独房ではなく、何人かの“先輩たち”が入っているようだ。あまり現代的ではなくて、何というかぱっとイメージする通りの牢屋という感じだな。廊下側に壁がなく、鉄格子になっている辺りが特に。
「いきなり、牢屋なのかよ。まずは留置所じゃないのか」
鉄格子ごしに問えば、ペケ丸は肩を竦めた。
「GTBは罪を犯せば問答無用で牢屋行きだよ」
「横暴なのです! 弁護士を呼ぶのです!」
「いやいや、いないからね。悠長に裁判するとかどう考えてもゲームのテンポが悪いでしょ……」
「そりゃ、確かに」
ドンパチを楽しむゲームで長期間勾留されるなんて無駄でしかないか。だが、それは投獄されている時間も同じなんだよなぁ。
「刑務所って、何をすればいいんだ?」
「別に何をしてもいいんだけど、刑務作業で刑期を減らして早期出所を目指すのが普通のルートだよ。視界の端にゲージが出てるでしょ?」
「……ああ、これか」
端というか、上部に見慣れないゲージがあった。その隣にはスラッシュで区切られた数値がある。“1800/1800”とあるので、現在値と最大値だろうな。
「これ、単位はどうなってるんだ。日数か?」
だとしたら、長過ぎると思うが。ゲーム内の一日は現実よりも短いが、それでも1800カウントも待っていられない。
「一応そうなんだと思うけど、あんまり意味は無いよ。実質的にはペナルティゲージってところかな。刑務作業をこなすほどゲージが減るから、頑張れば一時間くらいで出られるんじゃない? でも今は……まあ、詳しくはルームメイトに聞けばいいんじゃないかな。君たちならきっと楽しめるイベントが待ってると思うよ」
ぺけ丸はニヤニヤと笑って去って行く。何とも思わせぶりな言葉だな。
「よお、新入り! 見ない顔と名前だな。もしかして、正真正銘の新人か?」
代わりに声をかけてきたのは、ぺけ丸曰くルームメイトのひとり。この牢屋の先輩である男だ。顔を含めて、入れ墨だらけ。それだけ聞くと厳つい印象を抱くと思うが、実際に見ると……何と言えばいいのか。入れ墨のセンスというかチョイスが奇抜すぎて、評価に困る。竜はともかく、何故ペロペロキャンディー? 虎とたんぽぽが同居している意味がわからない。
こんなおかしな格好をするのは、言うまでもなくプレイヤーだ。頭上の表記によれば名前は『ほーいち』らしい。その名前なら、入れ墨はお経にしとけよと思わないでもない。
「ああ。今日が初日だ」
「一日目でムショ入りとは有望だな! いやぁ、それにしてもいい時期に入ってきた。歓迎するぜ!」
ほーいちが豪快に笑う。他の入居者も、概ね歓迎ムードである。ゲーム内とはいえ、投獄されてこのテンションというのは不思議な感じがするな。やはり、ほーいちの言う“いい時期”っていうのが関係しているんだろうか。
「何かあるのか? ぺけ丸も意味ありげなことを言っていたが」
「ああ、そうさ。俺たちは、大きな祭りをやるつもりなんだ」
刑務所にはそぐわない単語にリリィが首を傾げる。
「祭りなのです?」
「ははは、もちろん普通の祭りじゃないぞ? 刑務所でしかできない囚人たちによる特別な祭りだ!」
遠回しな言い方だな。だが、ギャングが刑務所でお祭り騒ぎと言えば、何となく想像がつく。
「まさか、脱獄か?」
「おっと正解だ! な、ご機嫌だろ?」
ほーいちだけでなく、他の入所者も心底楽しそうな顔をしている。コイツらにとって、脱獄はまさにお祭り感覚なんだろうな。
だが、そうなると気になるのはぺけ丸だ。ヤツは脱獄計画を知っているような口ぶりだった。
「ぺけ丸はどういう立場なんだ? 買収したのか?」
「いや、そうじゃない。警察官とはいえプレイヤーってことさ」
実は、ぺけ丸だけでなく他の警察官プレイヤーもほーいちの脱獄計画を黙認しているのだとか。彼らにとっても脱獄イベントはお祭りのようなものという認識らしい。要は、大人数で派手にドンパチするための口実だな。
「そんなわけで、準備の段階ではヤツらも協力的なのさ。もちろん、いざ脱獄が始まれば、敵同士だが」
なるほどな。だから、ぺけ丸も機嫌が良さそうだったのか。
「で、その祭りってのはいつやるんだ?」
「まさに今日だ! 言ったろ、いい時期だって」
そりゃあ、確かに。タイミングが良かった……のか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます