48. 住人は見ていた
「はっはっはっ、やっぱりギャングはそうじゃないとな! それなら遠慮なくいかせてもらう!」
伝説の配管工は高らかに笑うと、サブマシンガンを俺に向けて構えた。まろにぃとイガラーもそれに倣う。ひとまずは俺を集中攻撃するつもりのようだ。威勢良く啖呵をきった甲斐があったな。リリィを狙われていたらどうしようもなかった。
対峙する俺はフライパンひとつ。普通に考えれば、些細な抵抗すらできないような状況だ。そんな中、ヤツらがトリガーを引く。
ダダダダダ!
間断なく発射される無数の弾丸。その全てが吸い込まれるかのように、フライパンに集中した。
「ば、馬鹿! 狙いを分散しろ!」
「何処狙ってもフライパンに当たんだよぉ!」
「そもそも、普通に撃っても弾はばらけるもんだろうがぁ!」
三人は動揺している。そりゃそうだろな。どう考えても、不思議現象だ。
あまりよく知らないが、サブマシンガンみたいな連射式の銃は狙いがばらつくと聞く。たぶん、反動とかで狙いが定まらないんだろう。なので、フライパンの中心を狙っても、外れるときは外れるのである。全弾フライパンに命中させるなんて、狙っても難しいのではないだろうか。
「ど、どうなってやがる! お前、何をしたんだぁ!」
イガラーが引きつって顔で聞いてくる。だがな、そんなこと俺に聞かれても困る。
「こっちが聞きたいわっ!」
「なんでキレてるんだよ!」
キレてるわけじゃない。こっちも余裕がないのだ。なにせ、三人分の弾丸が集中するフライパンを支えてるんだぞ。ゲーム補正でもあるのか耐えられないほどの衝撃ではないが、長時間連続してとなるとやはりきつい。言葉が荒くなるのも当然だろう。
いや、嘘だ。ちょっとだけキレてるかもしれない。
実のところ、三人を相手にしてまともな戦いになるとは思っていなかった。無双するなんて言ったところで限度はある。ヤツらを少しくらいヒヤリとさせてやろう程度の考えだったのだ。
それが、何故かこうして生き延びている。死ぬヴィジョンが見えない。はっきり言って想定外の事態だ。
ホント、どうなってんだよ、俺の体質は!
「うぐっ!?」
「まろ!? 大丈夫か?」
「あ、ああ。掠めただけだ。しかし、ぺけ丸が言っていた通りだな……」
まろにぃが呻く。ヤツの攻撃が一旦止まった。どうやら、跳弾が腕を掠めたらしい。真正面から受け止めている関係でほとんどの弾丸はそのまま勢いをなくし地面に落ちる。だが、ときおり逸れる弾丸が壁を跳ねるのだ。運悪くそれに当たったらしい。
「弾丸は!」
「まだあるが……これ、どうにかなるのか?」
「何でこっちばかりダメージが増えんだよぉ!」
俺はフライパンを正面に構えているだけ。それなのに、勝手に攻撃は防がれ、勝手に相手は自滅していく。
どうすんだよ、これ。
このままだと、本当に勝ってしまうぞ!?
「何やってんだよ! もっと、うまくやれ!」
俺としては鼓舞したつもりだった。だが、何故かヤツらの表情には怯えがちらつく。
「や、やべぇ! アイツ、やべぇよ!」
「ははは……本物、だな……」
「魔王だ! コイツはフライパンの魔王だ!」
やめろ、まろにぃ!
何だ、その恐ろしくダサい異名は!
内心でツッコミを入れる。もしかしたら大声で拒絶すれば良かったのかもしれない。
だが、俺はそうしなかった。フライパンを構えることに精一杯で、あまり余裕がなかったのだ。どうせヤツらだけが使う限定的な
突然、ポンと頭に響く通知音。何かと思えば、続いてメッセージが表示された。
<あなたの呼び名が一定数の住人に認知・評価されました。称号『フライパンの魔王』を獲得しました>
おい、待てい! 称号システムとかあったのかよ!
というか、ここには俺たちしかいないぞ。プレイヤーも住人とカウントされるとしても数が少ないんじゃ――――
と考えているとき、ふと視線を感じて横の壁を見上げたら……窓越しに見知らぬ男と目があった。
み、見られてるぅ!?
って、ことは聞かれてるぅ!?
おそらく、同じように聞き耳を立てているNPCが結構いるのだろう。そりゃそうだよな。近くでドンパチが始まれば、様子を窺うのが普通だ。そのせいで、俺は不名誉な称号を背負うことになってしまったんだが……。
というか、何だよ、フライパンの魔王って!
俺のツッコミに反応したわけではないだろうが、タイミング良く、メッセージの続きが表示された。
<称号の効果を設定しています…………完了>
<魔王の名に相応しいほどに、フライパンを扱う技能が向上します>
魔王の名に相応しいフライパン技能って何だよ!
意味がわからん!
そう叫びたかったのだが、すぐにわかってしまった。魔王のフライパン技能の恐ろしさが。
最初に実感したのはフライパンを支える両腕の負担が減ったこと。受ける衝撃は変わっていないはずなのに、軽々と銃弾をはじき返すことができる。どうやら無意識に手首を返しているようだ。銃弾を受け流すことによって負担を軽減しているらしい。
だが、影響は負担軽減に留まらない。受け流すことによって、跳弾が増えた。その全てが、伝説の配管工たちに襲いかかるのだ。
「馬鹿な!? 跳弾精度が!」
「弾が追いかけてくるぅ!」
「やべえ! やべぇぇえ!」
あまりに被害が大きくなったせいか、ついには撃つのをやめてしまった。結果として、俺は無傷。警察官三人はおそらくは瀕死だ。
ど、どうしよう。勝ってしまったぞ。
「ダ、ダーリン! まずいのです!」
困惑する俺に、リリィが切羽詰まった様子で声をかけてくる。何事かと考える暇もなかった。
ガリガリと何かを擦る音。視線を路地の入り口に向けると、パトカーが強引に突っ込んでくるところだった。どうやら、ギリギリで通れるらしい。サイドミラーははじけ飛んでいるので、ギリギリセーフではなく、ギリギリアウトだが。
『俺の銃を返せー!』
声の主はぺけ丸。パトカーはそのまま突っ込んできて、俺とリリィを轢いた。
あっけない幕引きだったが……まあ、これで良かったと思おう。やっぱり、フライパンでサブマシンガン三人に勝つのはよくないだろ。
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