29. 必殺チョップの破壊力
デスゲームのフラグイベントを妨害するために動くのはいつもの四人。俺とリリィ、ユーリとウェルンだ。
ペロリはリリィの提出したオブジェクトから管理サイバノイドがデスゲームを計画しているという証拠を暴き出し、警察へと連絡する役割を担う。これは紛れもなくテロ行為だ。テロには予備罪があるので未遂でも罪となる。俺たちがフラグインベントを妨害できたとしても、証拠を集めることは無駄にはならない。
「ここは……洞窟の中?」
「ダンジョンなのです! ここに呪鍛の鍛冶鎚があるのです!」
俺たちはリリィのワープ能力で、薄暗い洞窟へと跳んだ。本来ならいくつかのエリアのボスを倒し解放した後でなければ到達できないダンジョンらしい。それらを無視して進むのは紛れもないチート行為だが、非常事態なので仕方がない。あくまで、デスゲームを阻止するための例外的な措置だ。
「その呪鍛の鍛冶鎚ってのが、デスゲームのフラグアイテムなのか?」
「そうなのです。鍛えた武器に[魂狩り]という特性がついちゃう、呪いのアイテムなのです!」
リリィ曰く、呪鍛の鍛冶鎚は一見すると高性能なサポートアイテムに見えるらしい。この鎚で生産された武器は大幅に威力が向上する上に、[魂狩り]という特殊効果まで付与される。
この効果が問題なのだ。モンスター相手ならばただの即死効果にすぎないが、プレイヤーには現実の死を招く。決闘モードで使用したり、味方を巻き込むタイプのアーツを放った場合、犠牲者を生むことになるわけだ。人間に人間を殺させようとする悪意に溢れたアイテムといえる。
「だけど、それならしばらくは問題なさそうだよね? だって、このダンジョンに立ち入れるプレイヤーって現状だといないんでしょ」
ウェルンが首を傾げる。リリィも一緒になって同じように首を傾げた。
「むむむ? でも、そういう通知があったのです! プレイヤーでなくても扱えるので、適当なアルカディアの民に取りに行かせるのかもです」
そうだろうか?
もし当初の計画を曲げてまでデスゲームを前倒ししたいのであれば、そんなことをせずとも呪いの装備をばら撒けば早い。いや、フラグなんて気にせず、さっさとシステムを変更することも可能だろう。それなら最初からフラグという形で実装する必要はない。
そうしないのは、できない理由があるのか。それとも美学とか拘りとかそういった理由があるのか。
だが、まあ考えても仕方がないだろう。黒幕の思惑などどうでもいい。俺たちは、デスゲームを阻止できればいいのだ。
「最前線より敵のレベルが高いのです! 気をつけるのです!」
リリィが警告を発した直後、岩陰からずんぐりむっくりした魔物が現れた。名前の表示は[アインゴルムス]となっている。背丈はリリィほど。だが横幅は倍以上だ。それが三体。
「アイツら、鉄の塊なのです。生半可な攻撃は通らないので、注意なのです」
硬い相手というのはかなり厄介だ。アルセイは現実のようなリアリティがあるがあくまでゲーム。ステータスの大小が強さに直結する。攻撃を当てる、避けるに関してはプレイヤー自身のスキルで補うことはできるが、ステータス差が大きすぎると、いくら攻撃を当ててもダメージを与えられないなんて状況に陥るのだ。そう、今のように。
「くっ、硬いよ! 私の攻撃じゃ通らない!」
「俺の魔法も弾かれてる! どうしよう」
案の定、仲間からはダメージを与えられないという声が上がっている。俺の拳でもダメだった。
幸か不幸か、防御力に極振りしたようなモンスターなので動きは鈍い。こちらの攻撃は通らないが、相手の攻撃もよほど油断しなければ当たることはなさそうだ。
「ダーリンの必殺技を使うのです!」
「あれな。まあ、やってみるか」
必殺技という名のただのチョップだ。とはいえ、本当に残念ながら実績がある。捧魂の剣はチョップで真っ二つだし、封印石はバラバラになった。本来なら壊せないはずのアイテムがそうなのだ。モンスターも粉々にできる可能性はある。
電化製品の調子を戻す技だと教わったのに、完全に破壊技となってしまったなぁ。どうしてこうなったのか。
「え、必殺技? 何かあるの?」
「いや、わからん。とりあえずやってみる」
戸惑うウェルンにはそう答えておく。実際のところ、何が起きるかはやってみないとわからないのだ。
「いくぞ!」
緩慢な動きで近づいてくるアインゴルムスに右斜め上からチョップを見舞う。手刀がヤツの肩にぶつかり、ガツンと軽い音が響いた。
当然ながらダメージはない、が――突然、ビィビィと不安をかき立てるような異音が周囲に響いた。少し遅れて歪んだ声が続く。
『動作不良を確認。エネルギー暴走、エネルギー暴走。ギギ……自爆モードに入ります』
「えぇえええ!?」
「自爆するのかよ!」
「そ、そんなのリリィも知らないのです」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ! どこかに身を隠さないと!」
とにかく戦闘を放り出して逃げた。必死になって岩陰に飛び込む。轟音が響いたのはその直後だ。
眩い光に視界が真っ白に染まった。強い衝撃で体が揺れる。爆風によって飛来する石塊が盾にしている岩にぶつかり激しい音を立てた。それらが止んだあと、怖々顔を出す。
「みんな、大丈夫か?」
「何とかね……」
「ぬおぉ、耳が変なのです!」
「あ、危なかったぁ」
幸いなことに、他の面々も退避が間に合ったらしい。負傷者はいなかった。モンスターの方はというと、自爆したアインゴルムスは跡形もなく消失している。残る二体は爆発に巻き込まれながらも生き残ってはいるようだ。だが、はっきりとわかるほどにボロボロである。表示されているHPのゲージも残り僅か。しかも、ゴツゴツと硬そうなボディにははっきりと罅が入っている。
「今なら壊せるかも!」
とどめを刺すべくウェルンが雷撃を放った。罅によって防御力が低下しているのか、雷撃がアインゴルムスのHPを削りきる。無事、瀕死の二体を倒すことができた。
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