24. 再現可能か?

「何故できないのだぁ! 私の実力が足りないのか! ぬあああ!」


 しばらく雑談に花を咲かせていたところ、唐突にペロリが叫びだした。見れば、がっくりと崩れ落ちている。テーブルの上には幾つかの皿。見た目はごく普通の目玉焼きだ。それでも一応アイテムの説明を読んでみる。



【目玉焼き】 分類:料理 品質:良

卵を使ったシンプルな料理。

□効果□

[HPを最大値の10%回復]

[食事後3分間、SPの回復速度が2%アップ]



 やはり大した効果はないか。[CP獲得]もない。これでは成功とは言えないな。


「上手くいってないのか?」

「そうみたい」


 尋ねると、項垂れるペロリに代わり、ウェルンが答えた。食べたい物リストを作っていたリリィも作業を中断して目玉焼きをじっと観察する。


「これじゃ、ダメなのです。上手くいってたら説明にもちゃんと載るですよ」


 そして、ゆっくり首を振る。やはり、これではCPがもらえないらしい。


「やっぱり、シンプル過ぎるんじゃないか?」


 複雑で難度が高い料理の方が、特殊効果は発現しやすそうな気がする。ただの思いつきだが、ペロリも微かに頷いた。


「……そうかもしれないなぁ。品質は下がるが、もうひと素材加えてみるか」


 誰も作ったことがないのだ。手探りになるのは仕方がない。幸いなことに、黄金の卵はまだ十分に残っている。


 だが、ウェルンはもっと効率的な手段を選んだ。


「リリィ先生、どうなんですか? 複雑な調理の方が効果は発現しやすいんですか?」


 つまり、リリィから情報を引き出すことにしたわけだ。ちょっとずるい気もするが、直接的な手伝いではないのでギリギリセーフだろうか。色々な見方はあるだろうが、俺は静観しておくことにした。リリィのワープ能力に頼っている俺が、どうこう言える立場でもないからな。


 注目を集めたリリィがこくんと頷く。


「効果の発現は、品質と調理難度、あと運で決まるです。なので、難しい料理ほど特殊効果の発現確率が高いのは確かなのです。ただ、難度を上げるために品質が下がるならあまり意味がないですよ」

「そっか。今回の場合、間違いなく品質は下がるからダメだね」

「だが、同じ物ばかりを作るのでは飽きるからな。モチベーションを維持するという意味では他の料理を作るのもいいかもしれないが」


 追加情報を得て、ウェルンとペロリが方針を話し合う。そんな二人にリリィが提案をした。


「ダーリンに作ってもらえばいいと思うのです」

「は?」


 待て、どうしてそうなる。品質が問題になるなら、スキルレベル1の俺には不向きだ。いや、目玉焼きなら問題ないのか?


「なるほど、お兄さんか」

「たしかに、ショウなら何か起こりそう。良い結果になるかはわからないけど」

「ふむ?」


 ウェルンとユーリも乗り気だ。ペロリは不思議そうな顔をしているが、少なくとも反対する気配はない。意外にも空気が読めるようだ。


「ま、試しに一個くらい作ってみるか」

「そうするです!」


 無茶振りだとは思ったが、それくらいなら手間でもない。やってみせれば納得するだろうと思って、ひとつ作ってみることにした。フライパンに卵を落として焼くだけだ。すぐにできあがる。結果は――……



【黄金卵の目玉焼き】 分類:料理 品質:良

黄金卵で作った目玉焼き。

□効果□

[食事後30分間、SPの回復速度が20%アップ]

[CPを3獲得する]



 なんと一発でCP獲得効果のある目玉焼きができあがった。


 間違いなく偶然だ。だが、それでもウェルンたちに何か言われるだろうと身構えたのだが……。


「あ、あれ? 意外に普通のでき?」

「お兄さんにしては……普通の成功だね」

「さすが、ダーリンなのです!」


 予想外の反応だった!


 ウェルンとユーリは普通を強調して驚くんじゃない! 普通の何が悪い……ていうか、全然普通じゃないだろ、ちくしょう!


 それに比べて、リリィはなんて素直なんだ。実は癒やし枠だったのかもしれない。


 とはいえ、本当に困ったヤツなのはペロリだ。


「な、なんでだー! なんでそんなにあっさりと!」


 座り込み、しきりに床を叩いている。ショックなのはわかるが、いちいちリアクションが大きい。


「とりあえず、落ち着け」

「これが、落ち着いていられるかぁ! 私がどれほど――」

「落ち着かないと依頼をキャンセルするぞ」

「はい、落ち着きました」


 対応が面倒だったので、依頼キャンセルを仄めかすと、即座に正座状態で大人しくなった。なるほど。こうすればいいのか。


 とはいえ、納得はしていないらしい。


「もう一度試してくれないか。そしてそれを撮影させて欲しい」

「あ、ああ。次も成功するとは限らないがな」


 静かだがどこか圧のある声。逆らえず、もう一度作ってみることにしたのだが、予想外の結果となった。



【英雄の目玉焼き】 分類:料理 品質:良

食べると英雄になれる目玉焼き

□効果□

[全能力が恒久的に10上昇する]

[一時的に恐怖耐性を付与する]

[一時的にHP再生能力を付与する]



 全能力が10上昇……?

 何かとんでもないものができあがったんじゃないか?


 俺のステータスで最も高いのは筋力。それでも、50程度しかない。まだ低レベルとはいえ、目玉焼きひとつで能力が20%増えるのは異常だと言える。完全にゲームバランスを破壊する効果だ。


「ええ!? お兄さん、これはさすがにちょっと……」


 あまりの効果にウェルンが引いている。お前、さっきはつまらなそうにしてたじゃないか。その反応はあんまりだろ。


「まあ、でもショウらしいよね」


 ユーリはニコニコ笑っている。さすがの貫禄だな。アルサーを知る猛者は面構えが違う。


「さすがはダーリンなのです。リリィには予想もつかない結果なのです!」


 リリィがキラキラと瞳を輝かせて俺を持ち上げてくる。が、それは大丈夫な事態なのか?


 一番反応が怖かったペロリは意外にも静かだった。だが、料理人魂に火がついたらしい。


「私に……私に黄金の卵を預けてくれないか? 必ず、この料理を再現してみせる!」

「いや、ペロリさん。それはさすがに……」


 同僚の暴走と見たのか、ユーリが宥めにかかる。だが、俺はそれを止めた。


「まあ、いいんじゃないか? もともと協力を依頼してるんだし」

「え? でも……」


 ユーリはペロリに任せることに戸惑いがあるようだ。まあ、本来の目的であった[CP獲得]効果を発現できてないわけだしな。ただ、それはリリィ曰く、運に左右される問題だ。試行回数が増えれば発現はするだろう。


「ウェルンも配信のネタが確保できたなら、それほど拘りはないだろ?」

「え、うん。そうだね。あんまりヤバいものができて炎上したら嫌だし……」


 と、ウェルンの賛同も得られた。まあ、[英雄の目玉焼き]はチート疑惑がかかってもおかしくないアイテムだものな。もし残りも俺に作らせて、あれ以上に衝撃的なアイテムを作られたら困るとでも思ったのかもしれない。まったく、心配性なヤツだ。


 それでも、以前のコイツなら喜々として残りもネタとして活用しただろう。動画がバズって登録者数も増え始めたから、少し守勢に入ったのかもしれない。まあ、炎上で視聴者数を稼ぐのが健全とは思えないので悪いことではないはずだ。


「リリィも黄金の卵は別に、なのです」


 リリィからも反論はない。俺の作ったサンドイッチで喜ぶようなヤツだからな。アイテムの効果なんてどうでもいいのだろう。


「みんながそう言うならいいけど……ペロリさん、くれぐれも暴走しないようにね!」


 最後に念押ししたものの、ユーリもそれ以上は反対しなかった。ペロリが感極まった様子で頷く。


「もちろんだとも! この恩には結果で返してみせる! 必ず、このスペシャルな目玉焼きを再現してみせるからなぁ!」


 本当に期待しているからな!

 是非成功させて、それを作れるのが俺だけじゃないことを証明してくれ! 頼む!

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