22. ハイテンションな協力者

 話がそれてしまったので、本題に戻す。結局のところ、生産メインのプレイヤーに協力を依頼するかどうかはウェルンの意見次第ということだ。みなの視線が集まる中、ヤツはあっさりと決断を下した。


「それなら、誰かに協力してもらおうか」


 ほとんど考える素振りもなかったので、予め考えていたのだろう。だが、少し意外だった。

「ウェルンのことだからネタを独占するのかと思ったが」

「動画を公開するんだよ。独占も何もないでしょ」


 言われてみればその通りだった。要はヤツが動画を公開するまでの間、情報が広まらなければいいのだ。


「それよりは、配信的にも[CP獲得]の効果は確実に発現させたいんだ」


 というのが、他プレイヤーの協力を仰ぐ理由らしい。


 とはいえ、誰でもいいわけではない。協力してもらう以上、報酬を支払う必要がある。普通ならゲーム内通貨のマニで支払うのが一般的だ。しかし、今回はレアな食材を取り扱うというミッション。料理スキル持ちなら、黄金の卵を欲したとしても不思議ではない。がめついプレイヤーに協力を要請すると、足元を見られて大量に要求される可能性もある。個人的に言えばそれほどCPが欲しいというわけでもないが、だからといってそんなヤツにかっ攫われるのは惜しい。


「んー。じゃあ、私の知り合いに頼んでみる?」


 提案したのはまたしてもユーリだった。料理スキルを育てている知り合いがいるらしい。現在のスキルレベルはわからないが、昨日の時点で16だったそうだ。順調にレベルアップしていれば、最上位かそれに近いはず。全くの他人よりは知り合いの方が良いだろうと、その人物に協力を仰ぐことになった。


 集合場所は生産施設前。現れたのはテンションの高いおっさんアバターだ。


「はっはっはぁ! よくぞ、この私に声を掛けてくれたぁ! 頼ってくれたからには必ず力になるぞ!」


 やけに背の高いコック帽をかぶっている。これが現実世界なら絶妙なバランス感覚が要求されそうだ。絶対に調理の邪魔だろ、あれ。


「ユーリ君もアルセイを楽しんでいるようだね! 結構、結構!」

「……ペロリさんほどじゃないと思いますよ。たぶん」


 おっさんコックはペロリと言うらしい。ユーリと互いに含みのある言葉を交わしている。険悪というわけではないが、あまり親しげな様子ではなかった。


「……二人はどういう関係なんだ?」

「ペロリさんは、会社の同僚……みたいなものかな」

「みたいって何だね! 間違いなく同僚だろうよ!」

「そ、そうですね。わかったから、迫ってこないでください」


 暑苦しく迫るペロリを、ユーリが苦笑いで押しのける。


 なるほど、リアルの知り合いか。


 まあ、秘密を共有するには良い間柄なのかもしれない。リアルでも付き合いがある以上、安易に恨みを買えば、そちらにも影響がある。迂闊な真似はできないはずだ。


「ペロリさんの料理スキルはいくつなの?」

「私かね? はっはっはぁ、ついさっき20になったぞ!」


 ウェルンの問いに、ペロリが胸を張る。本当なら現状ではプレイヤー最高の料理人だ。リリィによれば、さっきまで料理スキルの最高値は19だったはずだからな。テンションの高ささえ気にしなければ、うってつけの人材である。


「協力して欲しいのは、コイツを使った料理だ」


 レンタルしたキッチンスペースに移動し、調理台に黄金の卵を並べる。途端にペロリのテンションがもう一段階上がった。まだ、上があった……だと?


「これはぁ!! 黄金の卵ではないかぁ! しかも、こんなにたくさん! これは夢なのか? 幻なのかぁ!」


 とにかくやかましい。同僚の弾けっぷりに、ユーリが額に手をやり、首を振る。


「ペロリさん、落ち着いて。まだ話は終わってないから」

「これが、落ち着いていられるかぁ! レア素材だぞ! 素晴らしい! 素晴らしすぎる! 君にはこの素晴らしさが――」

「静かにしないとこの依頼はなしにします」

「はい」


 依頼取り下げをほのめかすと、ペロリは途端に静かになった。今はスンと無表情でその場に正座している。あまりに極端な変わり様だが、ユーリはまるで気にしていない。同僚だけあって扱いには慣れているらしい。


「俺たちは、これを使って[CP獲得]の効果を発現させたいんだ。どうかな?」


 同じく大して動揺もせずに、ウェルンが尋ねた。コイツも大物だな。


「ふむ、[CP獲得]? そのような効果は聞いたこともないが、発現するというのは確かな情報なのかね?」


 ペロリが怪訝そうな表情を浮かべている。


 おっと、そうか。その情報はリリィから手に入れたものだ。一般に知られているはずもなかった。


「リリィが保証するのです」


 誤魔化す前にリリィが宣言してしまう。正座するペロリと、背の低いリリィ。二人の視線が同じくらいの高さでぶつかった。


「サポートAIからの情報か。君は自分のしていることがわかっているのかね?」

「友達の役に立つことがいけないことなのです?」

「……ううむ」


 ペロリが唸る。サポートAIの役割を考えれば、不必要な情報を明かしてしまうのは問題なのかもしれない。だが、次の瞬間、ペロリはにんまりと笑顔を浮かべた。


「ま、私にはどうでもいいことだがね! それよりも情報が確かだというなら、私にいなはないさ! 全力を以て作り上げて見せよう、最高の目玉焼きを!」


 急に立ち上がったかと思えば、拳を突き上げペロリが叫ぶ。あいかわらず、テンションの切り替わりが激しいヤツだ。


 まあ、料理さえきっちり作ってくれるなら構わないが……コイツ、何を作ると言った?


 え、目玉焼き? 


 何故よりにもよって目玉焼きなのか。あんなもの料理じゃないとは言わないが、宣言して作るにはシンプルすぎないか?


 そう思ったが、ちゃんとした理由があったらしい。


「高ランクの効果を発現させるなら、品質は高い方がいいからな!」


 ペロリが言うには、料理の品質が高ければ、良い効果が発現しやすいのだとか。


 スキルで料理を作るには、レシピごとにある程度決まった素材が必要だ。そして、料理の品質はスキルの成否にもよるが、上限はレアリティの平均で決まる。つまり、複数の素材を使う料理は全ての素材のレアリティの影響を受けるわけだ。


「なるほど。[黄金の卵]のレアリティに見合う食材が他にないと」

「そういうことだな!」


 黄金の卵のレアリティはSRスーパーレア。食材カテゴリでは他に類を見ないらしい。従って、このレアリティを活かすには黄金の卵単体で扱うしかない。少々残念な気もするが、目的を考えれば仕方がないことなのだ。


「はっはは! では、早速調理に入る! 期待して待つといい!」


 そう言うと、ペロリは満面の笑みを浮かべ、フライパンで素振りを始めた。ウォーミングアップのつもり……なのか。コイツに任せて大丈夫なのか不安になってきたぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る