21. 卵の使い道

 グレートコッコとの激戦後は、大人しくオリジスに戻ってきた。他のフィールドで狩りの続きをするには消耗が激しい。キャラクターの消耗はアイテムで回復できるが、プレイヤーにも休憩が必要だ。


「黄金の卵はどうする?」

「普通に分配して各自自由に……でもいいけど、せっかくだから、料理に使おうよ。[CP獲得]効果付きの料理が見たいし」


 大量に確保した黄金の卵については、ウェルンからそんな意見が出た。ヤツの狙いは配信ネタの確保だろうが、悪い提案ではない。売れば高値がつくだろうが、金を稼ぐなら他にいくらでも手段はあるからな。獲得手段の限られるCPを優先するのは一理ある。誰からも反論がなかったので、全て調理素材とすることになった。その上で、成果物を均等に分けるという形になる。


「素材にするのはいいんだが、料理は誰が作るんだ?」

「私が作ろうか?」


 ユーリがおずおずと手を上げる。少々自信なさげな様子に思わず聞いてしまった。


「作れるのか?」

「り、料理くらいはできます!」


 馬鹿にされたと感じたのか、ユーリが抗議してくる。決してそんな意図はないのだが、俺が俺がと暴れ回っていた頃のユーリに料理をするような印象は全くなかった。


「……いや、昔の印象がな」

「それは忘れてって!」

「ぐふ」


 顔を赤くしたユーリに思いっきり背中を叩かれた。かつての暴虐さの片鱗が見えたな。そういうところだぞ、と思ったが賢明にも声にはださなかった。


「というか、アルセイ内ならスキルがあれば料理できるの!」

「生産スキルってヤツだろ。それくらいは知ってる。ただ、ユーリは自信なさげだっただろ? だからな」

「ああ、そういうこと。まあ、それなりにレベルを上げているけど、それなりでしかないからね」


 ユーリの懸念はスキルレベルらしい。生産スキルにもレベルがあって、使えば使うほど熟達していく。当然、レベルが高いほど有利だ。生産の成否だけではなく、効果の強さや有無にも影響を与えるらしい。


 ちなみにユーリの【料理】スキルのレベルは12。俺の【拳術】のレベルはまだ10なので十分に高い。


 とはいえ、上には上がある。特に、生産メインで遊んでいるプレイヤーはもっとレベルが高いようだ。


「今だとレベル19が最高なのです!」

「結構差があるな……」

「でしょ?」


 高レベルになるほど、次のレベルに上げるのが難しくなる。それを思えば、7レベル差はかなり大きい。


 成功率を高めたいなら生産メインのプレイヤーに依頼するべきだが、情報を独占したいなら自分たちで作るしかない。ユーリの提案はあくまで、自分たちで独占するつもりならということらしい。


「俺はどっちでもいいぞ」

「それは私も」


 俺と同様、ユーリにも拘りはないようだ。CPが得られるなら得られる方がありがたいが、どうしても必要なものではないからな。俺はゆるっと遊べれば良いし、きっとユーリもそうなのだろう。


「リリィはどうだ?」

「へ? リリィにも聞くのですか? リリィはサポートAIなのですよ?」

「ああそうか。まあ、そうなんだろうが……」


 名前表示の横にあるキャラクターの素性を示すアイコン。リリィの場合、それはサポートAIを示す緑色になっている。それは紛れもない事実だ。だが、あまりにも個性が強烈すぎて、ときどき忘れそうになる。


 一般的なサポートAIはプレイヤーの指示に従うだけの存在だ。プレイヤーと違い性能も制限されており、例えばアイテムをしまう格納スペース、いわゆるインベントリも使えない。だから、そもそもドロップアイテムの分配など気にしなくてもいいし、意見を聞いても必要最低限のことを教えてくれるだけだ。


 が、リリィは違う。勝手にキャラメイクで他のプレイヤーの名前を変えるし、何故か配信者の動画指導までやる。しかも、コイツ、普通にインベントリを使うし、時には聞いてもない情報を披露することもある。アイコンさえなければ、プレイヤーと見分けがつかないだろう。


 そう考えると、普通のサポートAIと同じ扱いというのもはばかられた。


「まあ、いいだろ。意見を言うだけだ。言ってみろ」


 改めて尋ねると、リリィは少しだけ考え込むような仕草をしたあとぽつりと呟く。


「……だったら、ダーリンの作った料理が食べたいのです」

「俺の?」

「あ、ダメだったら別にいいのです! リリィはできる女なのでわがままは言わないのです!」


 わたわたと手を振り慌てて前言を撤回するリリィ。押しが強かったり弱かったり、変なヤツだ。


「さすがに黄金の卵を使うのはもったいない。諦めろ」

「……なのですか」


 実は俺も【料理】スキルを持っているのだが、全く使っていないのでレベルは1のままだ。レア素材を扱うには完全にレベル不足。それを理由に断ると、リリィはしょんぼりと項垂れた。


 とはいえ、作るのが嫌というわけではない。俺がゲームをまともにできるのもリリィのおかげだからな。むしろ、そんなもので恩が返せるのなら、安い物だ。


「ま、失敗してもいいような安い素材でなら作ってやるよ」

「ホントなのです!? やったー!」


 リリィは嬉しそうにぴょんと飛び跳ねると、その場でくるくると回り出す。大袈裟なヤツだなと思っていると、ニヤニヤと笑うユーリと目が合った。


「なんだ?」

「いや別に。ショウはショウだな~って」


 何故か一人で納得している。居心地の悪さを感じて視線を逸らすと、ウェルンがぶつぶつ呟いていた。


「なるほど。これがサポートAIを落とす秘訣かぁ。これをどうにか配信ネタにできないかな」


 こいつはこいつでブレないな。まったく、マイペースなヤツらだ。

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