20. 大量のレア卵

 それから二時間。森の中でコッコを探したが、生憎とエリートコッコには遭遇しなかった。


「さすがにお兄さんでもダメか」


 レアモンスターで配信しようと企んでいたウェルンが肩を落とす。励ますつもりで、その背中を軽く叩いた。


「ははは、上手くいくときばかりじゃないさ。気を落とすな!」

「……何で機嫌が良さそうなのさ?」


 ウェルンが半眼で睨んでくるが、どうしても笑顔を抑えきれない。仕方がないさ。嬉しいんだからな。


 だってそうだろ。レアモンスターなんて普通はなかなか出会えないものだ。つまり、俺は今、ごく普通にゲームができていると言える。ウェルンには悪いが俺にとっては喜ばしいことだ。


「どう思うです?」

「ショウのことだから、このまま終わるとは思えないよね」

「リリィも同感なのです」


 リリィとユーリがこそこそと不穏なことを言っている。まったく、人が喜んでるっていうのに、水を差しやがって。


「馬鹿なこと言ってないので、そろそろコッコ狩りは切り上げないか? この辺りの敵はもう十分だろ」


 二時間もモンスターを狩っていればレベルも上がる。まだ格下ってほどのレベルではないはずだが、森のモンスターはいずれも余裕で倒せるようになった。効率を考えれば、もう少し強いモンスターに挑んでも良さそうだ。


「しょうがないか。じゃあ、あの群れで終わりにしよう」


 ウェルンが少し遠くに見えるコッコの群れを指さす。ユーリとリリィは顔を見合わせた。


「リリィちゃん、これって」

「フラグなのです! きっと出るのです!」


 おい、やめろって!

 頼むからこのまま普通に終わらせてくれ!


 だが、俺の願いはむなしく潰えたら。コケコケ言いながら突撃してくるコッコの中に、一匹だけやけに機敏な個体がいたのだ。大地を颯爽と駆け、違いざまにくちばしでひと突き。リリィが啄みの餌食になった。


「ぎゃあ、痛いのです!」

「配信開始ぃ!」

「さすが、ショウだね」


 いや、待て。さっきとは真逆な意見になるが、レアモンスターとは遭遇するときには遭遇するものだ。これはまだ普通の範疇といえる。そう、まだセーフのはずだ。


「え、ちょっ!? ここまで強いって聞いてないんだけど」


 次に餌食にあったのはウェルンだ。猛スピード駆け寄ってきたコッコが跳び上がり、回し蹴りを放ってきた。魔術師の防御性能は低いとはいえ、予想以上のダメージにウェルンが動揺している。


「早い!?」


 ユーリがレイピアを突き出す。隙を狙ったはずの一撃は、見事に躱されてしまった。コッコとは段違いの動きの良さだ。


「させるか!」


 次のターゲットは俺だった。ギリギリまで動きを読み、ヤツの狙いが足だとわかったので、蹴りで迎え撃つ。嘴が突き刺さるのも構わず全力で蹴り飛ばした。


「くそ! 硬いな!」


 まともに入ったはずの攻撃は、HPを一割程度しか削れなかった。それでも動きっぱなしだったコッコの動きが止まる。それでようやくヤツの名前が確認できた。表示されているのは――[グレートコッコ]の文字。


「やっぱりダーリンはダーリンなのです」

「うわ、未発見種だ! みなさん、未発見種ですよ!」

「そうきたんだ! あははは」


 壊れた玩具のように何度も頷くリリィ。興奮気味にカメラに向けて語りかけるウェルン。何がおかしいのか笑いが止まらないユーリ。強敵を前にマイペースなヤツらだ。


 ちなみに俺はとても泣きたい。どうしてこうなったんだよ!


「クケェ! クケ! クケ!」


 突然、グレートコッコが苛立たしげに羽をバタバタと羽ばたかせた。


「何をやってるんだ?」

「仲間を呼んでいるのかも! コッコは戦いが長引くと仲間を呼ぶんだよ」


 取り巻きのノーマルコッコを排除しながら、ユーリが解説してくれる。情報はありがたいが、仲間って何だ。


「こいつが何匹も現れるのか?」

「い、いや、さすがにそれはないんじゃないかな? どう考えてもレベル帯から外れているし」


 ユーリの声が上擦っている。


 だよな。コイツは異常なほどに強い。素早さだけなら影人の王なんかより全然上だ。このレベルのモンスターがぽんぽん現れるとなると、おちおち森を出歩けないぞ。


「出たのです!」

「別段素早くはないな」

「いや、普通のコッコよりは早いよ!」


 新たに現れたのは数匹のコッコ。グレートほど素早くはないが、通常のコッコよりは少し動きが良い。


「うっそ!? エリート? こいつ、エリート呼ぶの?」


 ウェルンが興奮気味に叫ぶ。ヤツの言うとおり増援は全部エリートコッコだった。レアとは何だったのか。


「凄い! どれだけ呼ぶか試してみようよ! もしかして、[黄金の卵]取り放題かも!」


 ああ、そういえば、レアアイテムを落とすんだったか。ウェルンが興奮する理由もわからないでもないが。


「喋ってないで、お前も戦え!」

「わ、わかってるよ!」


 ただでさえグレートの相手は大変だというのに、増援待ちするとなると耐える時間は長くなる。少しでもこちらの受けるダメージを減らすためにも、増援は即座に倒さなければならない。ウェルンに実況だけさせておく余裕などなかった。


「早く助けるのです! リリィが穴だらけになるのです!」

「ちょうどいいや。リリィ先生はそのまま引きつけてて!」

「うわぁん!」


 何故か狙われやすいリリィを囮にして、ウェルンが範囲魔法を放つ。味方を巻き込まないタイプの魔法なら効率よく敵を倒せるわけだ。


 グレートコッコは俺が引きつけて、増援のエリートはリリィが囮になり、ユーリとウェルンで仕留める。役割分担が決まれば、増援狩りは安定した。とはいえ、ウェルンは範囲魔法でMPを使う。いつまでもというわけにはいかない。


「も、もう限界! 次は撃てないよ」

「わかった、もう倒すぞ!」


 グレートコッコのHPはギリギリまで削ってある。最後は【拳術】のアーツ〈剛炎撃〉で決める。オレンジ色のオーラをまとった右腕がグレートコッコを捉えると、猛火が噴き出しその体を焼いた。ライフを失ったコッコは黒い煙となって消えていく。


「はわぁ……助かったのです……」

「お疲れ様、リリィちゃん」


 エリートコッコの方も片付いたようで無事戦闘終了だ。


「グレートコッコのドロップは何だった?」

「これだな」


 ウェルンにさっき拾ったばかりのアイテムを掲げてみせる。名前は[グレートなトサカ]で、見た目はニワトリのトサカが生えた兜だ。見た目も微妙な上、性能も大したことがない。完全なネタ装備だった。誰もいらないというので、ウェルンに渡しておいた。まあ、配信の一発ネタくらいにはなるだろう。


 それよりも衝撃が大きかったのは黄金の卵だ。その数、なんと二百個以上。


「す、凄い……ドロップ率100%に近いんじゃない?」

「そのくらいありそうだね」


 どうやら[黄金の卵]は100%ドロップするようなものではなくせいぜい30%くらいらしい。それが何故か、俺たちが倒したエリートコッコはほぼ100%が落とした計算になる。普通ならば、あり得ない結果らしい。


「そ、そうか。偶然ってあるものだな」

「いや、偶然って」

「これってやっぱり……」


 ユーリとウェルンの視線が突き刺さる。何か言いたげだな。


「さすが、ダーリンなのです!」


 リリィが言うと、ユーリとウェルンも笑った。


「そうだね。これがショウって感じ」

「撮れ高もいっぱいあったし、お兄さんって最高だね!」


 いや、待て。俺のせいとは限らないだろ。


 認めないからな!

 だって、俺は何もやってないんだから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る