19. レアモンスターの情報
ユーリを加えた四人パーティでひと狩りすることになった。向かったのは街の北にある森林地帯だ。あいかわらず人が多い平原を足早に抜けてしばらくいくと、鬱蒼と茂る木々が見えてくる。
「この辺りで遭遇するのは、主なところで[森林狼]、[ゴブリン]、[コッコ]だね。コッコは平原にも出るけど、こっちは集団で襲ってくるから対応を間違うと意外と手間取るよ」
ウェルンの解説を聞きながら、森を歩く。
「そう言えば、俺ってまだネズミ以外とまともに戦ってないな」
「え? 昨日は巨大ゾンビと戦ったじゃん」
「俺は聖水かけただけだからなぁ……」
「ダーリン! 影人の王を忘れてるのです!」
「ああ、確かにアイツがいたか」
「影人の王? そんなの初めて聞くけど……まあ、ショウだもんね」
雑談しながら進んでいると、茂みがガサリと揺れた。飛び出してきたのは森林狼が三体。相対するとなかなかの迫力だ。
そのうちの一体が間髪をいれずに飛びかかってきた。その
続けて別の狼も悲鳴を上げる。そっちはユーリの仕業だ。同じようにレイピアで迎え撃ったようだ。横目にしか見ていないが、なかなかの剣捌きだった。
「やるな!」
「ふふ、私は動かし慣れしてるからね。それよりもショウが意外だよ。VRゲームはアルサー以来なんでしょ?」
狼を相手にしながら言葉を交わす。互いに、これくらいならば余裕があるようだ。
「ま、俺も動き慣れているからな。ゲームじゃなくて現実で、だけど」
「へぇ! やっぱり、リアルの運動経験ってVRでも反映されるんだ」
ユーリが感心したように声を上げる。
他のゲームは知らないが、アルセイくらいの再現度だと、リアルの運動経験はかなりプラスになる。痛みや疲労の影響が少ない分、現実より思い通りに動くから、なかなか楽しい。
「お兄さん、スポーツマンなんだね。それだけ鍛えてる人って最近じゃ珍しいなぁ」
雑魚相手に魔法はもったいないという判断か、ウェルンは戦闘に加わらず、のんびりと会話に混じってきた。
VR技術が進んで、何でも仮想空間で体験できるようになった結果、以前に比べて人々は体を動かさなくなった。運動というのも、健康を維持するための最低限。格闘技もリアルでやるって人間は減ったらしい。俺は珍しい人種というわけだ。まあ、俺の場合、例の体質のせいだが。
「ぬあぁあぁ! のんびり話してるくらいなら助けて欲しいのです!」
俺とユーリは狼を一人で制したがリリィには荷が重かったらしい。涙目になって助けを求めてきた。サポートAIは平均的なプレイヤーに比べると少し劣る程度の戦闘能力に設定されている。なので、これは仕方がない。あまりレベルが上がっていないしな。
「あ、ごめんね! リリィちゃん、ほらこっち!」
リリィを追いかけ回していた狼を引き受けると、ユーリが細剣を煌めかせる。何らかのアーツらしい。高速の連続突きを受けた森林狼は一気にライフを削られ黒い煙となって消えた。
「ふぅ、助かったのです! ユーリ、ありがとなのです!」
「ふふ、どういたしまして!」
いびってやるとか言っていたが、そんなことはすでに覚えてなさそうだ。リリィはニパッと笑ってユーリとハイタッチを交わしている。まあ、仲が良いならそれにこしたことはないんだが。
「ドロップは肉と毛皮だね。あとで均等に分ければ良いか」
「それでいいよ」
パーティを組んだ場合、ドロップアイテムの分配でトラブルになることも多いらしいが、このメンバーはみなそれほど
「あ、そうそう」
突然、ウェルンがにんまりと笑う。
「この森のコッコには時々レアなヤツが混じってるんだって。見つけたら教えてよ。配信するから」
「あ、私も聞いたことがある。たしか[エリートコッコ]だっけ」
「そうそう。見た目は普通のコッコと変わらないけど、ちょっと強くて[黄金の卵]をドロップするんだって」
それなりに有名な話らしい。ユーリも知っているようだ。
「黄金の卵か。何に使うんだ?」
「食材アイテムみたいだよ。普通の卵よりレアリティが高いんだって」
「特別な効果があるんじゃないかって噂になってるね。生産メインのプレイヤーが色々試しているって話だけど、ドロップした数が少ないから今のところ何もわかってないみたい。そこんところどうなんですか、リリィ先生?」
情報を引き出そうというのか、ウェルンがリリィを先生と呼んで持ち上げる。だが、リリィもサポートAIだ。そうホイホイと攻略情報を漏らしたりは――……
「本当にウェルンはしょうがないのです。今回だけなのですよ。黄金の卵は美味く調理すると――[CP獲得]効果がつくのです!」
うん。リリィはリリィだった。いや、秘匿するほどの情報ではないのかもしれない。きっとそうだ。
「CPがもらえるの? その情報が広まったら、黄金の卵の価値が上がりそう」
「是非とも手に入れたいよね! 実際に作って動画にしたら……絶対にバズるよ!」
CPは今のところ獲得手段が限られている。料理で獲得できるなら、欲しがるプレイヤーは多いだろうな。その情報を動画で公開すれば、再生数は保証されたようなものだ。
「というわけだから、お兄さん。期待してるよ?」
「いや、期待されてもな」
ウェルンの笑顔にゆっくりと首を横に振る。俺は普通にゲームをやっているだけだ。そんなことを期待されても困る……と思いつつ、なんとなく嫌な予感がするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます