18. 幼馴染はライバル?

 改めて、俺たちがリアルで知り合いだったこと。かつてアルサーで同じ名前でプレイしていたことを話す。


「へぇ。それってずいぶん前のゲームだよね。そんなことってあるんだね」

「むむむ……幼なじみってヤツなのです! ライバルなのです!」


 ウェルンが興味深そうに頷く。リリィはいつもの如くわけのわからないことを言っているな。とりあえずスルーでいいだろう。


「それにしても、な」

「な、なにかな?」


 まじまじ見つめると、ユーリは身を縮こまらせた。不躾な視線だったか。


 とはいえ、印象が違い過ぎる。当時は“俺”と言っていたし、短髪だったので当然男であるものと思ったが……今の姿を見れば女性としか思えない。もちろん、この姿はアバターだ。見た目に関してはいくらでも変えられる。とはいえ、仕草も女性そのものだし、な。


 思い切って聞いてみることにした。


「失礼なことを聞いてすまないが……ユーリは女性なのか? それとも中身は男なのか?」

「へ?」


 ユーリはきょとんとした表情を見せたあと、顔を真っ赤にした。


 さすがに怒ったか? 失礼なことを聞いている自覚はある。だが、曖昧にしておくには衝撃が大きすぎたんだ。


 だが、そのあとの反応は予想と違った。わたわたと意味のない動作を繰り返してから、上目遣いで俺を見上げて、恥ずかしそうに聞いてきた。


「も、もしかして、あの当時の私って、口調とか……変わってた?」

「変わってたというか……まあ、男口調だったな」

「あああああ! わ、忘れて! 忘れてよぉ!」


 忘れても何も、その頃の記憶を抹消すると何の思いでも残らなくなるのだが。俺の友人である悠里はそのくらい少年であったのだ。


 だが、この反応を見る限り、どうやら一過性のものだったらしい。黒歴史というヤツだな。


「あの……私は女です。当時は男の子に憧れてて……」

「あの口調だったと」

「です……」


 まあ、そういう時期はある。気にするな。と視線だけ送っておく。


「そんな生暖かい目で見ないで……。というか、声でわかるでしょ! そっとしておいてくれたら良かったのに……」

「ん? そうなのか?」

「そうだよ……」


 この手のゲームだと性別はいつわれる……と思ったが、必ずしもそうではないらしい。と言うのも、見た目は変更できるが声は変えられないようだ。つまり、どんなに可愛らしい容姿にしようが、元の声が野太ければ、野太い声の美少女ができあがるのだとか。なので、声である程度の性別チェックができるらしい。


「そう言えば、俺たちの声ってどうなってるんだ?」


 ちょっと不思議な話ではある。入力は全て脳波によって行われるので俺たちは実際に声を出しているわけではない。それなのに、ゲーム内で聞こえる自分の声は全く違和感はなかった。いったいどうなっているんだ。


 返答したのはリリィである。


「詳しい説明は省くですが、ユーザー自身の記憶からシステム側で再現してるのです!」

「なるほど。記憶からの再現だから、素の声がそのまま出るわけだ」

「概ねそうなのです。厳密に言えば、ユーザー自身が出せる声は再現できるので、裏声とかは出せるのですけど……」

「もう! 一体、いつまで声の話をしているんだよ」


 脱線していた話をウェルンが元に戻そうとする。確かに、関係ない話で長々と付き合わせるのは悪いか。


「そうだな。ま、旧友と久しぶりに会えて嬉しかったよ」

「へ、へへ、そうでしょ! 恥ずかしい思いをした甲斐があったよ」


 まだ少し顔が赤い悠里が、そう言って戯けてみせる。


「めでたしめでたし、なのです。それじゃあ、話はおしまいなのですね? では――……」

「待ってよ! 話は終わりじゃないって」


 強引に話を打ち切ろうとするリリィを慌てて遮るユーリ。


「嫌な予感がするのです! お断りなのですー!」


 いやいやと頭を振るリリィに、ユーリが呆れた様子を見せる。


「この子、本当にサポートAIなの? 自由すぎない」

「本当におかしいよね。だからこそ、人気が出そうじゃない?」


 ウェルンが目を細めて笑う。配信のネタにするつもりらしい。こっちは頭が痛いってのに。


「リリィはダーリンに特別にしてもらったのです!」

「ダーリンに、特別、ねえ?」


 ユーリがジト目で見てくる。いや、おかしなことはしていない。決して。


「待て。言い訳をさせろ」

「いや大丈夫。わかってるって」


 一転、ニコリと笑った。


「何もしてないのに壊れた、でしょ?」

「あ、ああ。そうだ」

「あいかわらずだねぇ」


 と言ったあと、ユーリは顔を曇らせる。


「あのときはごめんね。決して、ショウを傷つけるつもりはなかったの」


 あのとき。つまり、15年前のことだろう。少し傷ついたのは確かだが、彼女が悪いとは思っていない。


「別に気にしてないって。まあ、当時はまだ繊細だったからな。他と違うんだと自覚してちょっとゲームから距離を置きたかっただけだ」

「ふふ……じゃあ、今は図太くなったの?」

「それなりにな」


 そっかと呟いて、ユーリが俺の目を見た。


「それじゃ、私も仲間に入れてよ。また、一緒にアルカディアを冒険しよう」


 彼女の顔には子供のような笑みが浮かんでいる。昔のユーリを思い起こさせる笑顔だった


「いいのか? 相変わらず、おかしなことが起こるぞ」

「いいの。だって、私、何が起こるのかわからなくて楽しかったもの」

「そうか。なら、歓迎しよう」


 ちょっとおかしなサポートAIのリリィ。配信ネタに貪欲なウェルン。そして、俺の体質を知ってもなお、それを楽しむユーリ。ずいぶんと物好きが集まったものだな。


 いい感じに話がまとまった……と思いきや、リリィは一人で騒いでいた。


「ぬあー! やっぱりこうなったのです! ダーリンが決めたから認めるのですが、正妻の座は渡さないのです! いびってやるので、せいぜい覚悟しておくのです!」


 いや、何を言ってるんだ。何を。

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