16. 双海悠里

□トークルーム 雑談(配信者について)□


[土瓶沸騰]

ウェルンって配信者知ってる?

何でか登録者が数急上昇してるみたいだけど

別に有名配信者ってわけでもないよね?


[ロクテン]

ふふ、配信古参勢の俺が来たぜ!


[ニック]

古参勢てw

サービス開始からまだ二日だろw


[ロクテン]

別のゲームでもショウ名義で配信してるんよ

再生数20とか30で鳴かず飛ばずだけどね


[土瓶沸騰]

ショウ?

ウェルンじゃなくて?


[ロクテン]

もともとショウで始めて

何故か強制改名が起きて元・ショウになった

名前を取り戻すとかいうネタ動画が上がったあと

今度はウェルンになった(現在)


[土瓶沸騰]

強制改名の動画見てきました

そんなことってあるんです?


[抹茶プリン]

あるわけないってw

どうせネタづくりだろ

自分でやったに決まってる

課金アイテム使えば名前は変えられるんだから


[チェッカ]

いや無理だって結論出てたぞ

リネームカードは使うときにエフェクトが出るし

天使みたいなのが祝福してくれる演出が入るらしい


[土瓶沸騰]

え?

じゃあ、あの動画どうなってるんです?


[チェッカ]

わからん!

わからんから話題になってるってわけ


[ロクテン]

ま、バズるきっかけになったのは

別の配信だけどね


[土瓶沸騰]

どれです?


[ロクテン]

墓地がどうとかいうヤツ


[レイレイ]

あの動画見ました!

凄いですよね!

墓地怖い……


[チェッカ]

墓場はゾンビばっかりだし

ほとんど人が寄りつかない

情報が全然ないんだよな

あの巨大ゾンビは初出だ

オリジスから見えたし


[ボーズマン]

あれな

ちょうど近くにいたから墓地まで行ってみたけどイベント中だとかで侵入不可エリアになってた


[チェッカ]

それが不思議なんだよな

大抵のイベントって進行中は

プライベートエリアに隔離されるはずなんだが


[レイレイ]

それよりも巨大ゾンビを倒した魔法ですよ!

アレ、なんなんですか!?


[チェッカ]

あれもなぁ

魔法自体は普通のファイアバレットのはず

火魔法の初級アーツ


[土瓶沸騰]

見ました

これで初級アーツ?


[チェッカ]

当然ながら普通はこんな威力は出ない

直前に振りかけてた聖水が怪しいが

今のところ再現できないらしい


[ロクテン]

ウェルンたんも

原因はわからないって言ってたぞ


[レイレイ]

ウェルンたん?

……えぇ?


[ボーズマン]

スルーして差し上げろ


[抹茶プリン]

そんなんチートに決まってるだろ

開始二日であんな威力

普通に出るわけがない


[チェッカ]

サイバノイドが運営管理するゲームでチート?

そんなことしたら速攻BANされるぞ


[土瓶沸騰]

BANってアカウント停止措置でしたっけ?


[チェッカ]

サイバノイドの情報処理能力は人間と比べものにならんからね

彼らを欺いて不正行為を働くなんてまず無理だ


[レイレイ]

やっぱり秘密の新技術なんですよ!

情報公開してくれませんかね?


[ロクテン]

これからもウェルンたんのチャンネルから

目が離せませんなぁ



■□■


 双海ふたみ悠里ゆうりは自室でアルセイ関連の動画を漁っていた。最低限の家事はするが、ほとんどの時間はアルカディアで冒険をするか、もしくは今のように動画を見るかして過ごしている。アルセイ漬けと言っても良いだろう。一般的に言えばあまり褒められない生活だが、彼女の場合、仕事のためだという大義名分がある。


 彼女の職場は、CFサイバーフロンティア相談事務所という会社だ。人権を得た高度AI、いわゆるサイバノイドが出現したことによって、人とサイバノイドの間に様々な問題が生じるようになった。


 AIが何か問題を起こしたとき、かつては制作者に責任を問えば良かった。だが、サイバノイドは人権を持った確固とした別人という扱いである。となれば、責任を負うべきはサイバノイド当人。しかし、彼らは電脳世界――今も無限の広がりをみせているサイバーフロンティアの住人である。責任を問うにもどうすれば良いのか。その手の相談を受けるのがCF相談事務所である。設立当初は文字通りに相談に乗る程度であったが、今では調査業務なども請け負っている。


 今、彼女はアルセイの調査業務に携わっている。建前上は。

 

 発端は、警察への一件の通報。アルセイの運営AIの一部がゲーム内でデスゲームを行うつもりだ。通報の内容はそんなものだったらしい。


 事実なら明確なテロ犯罪である。だが、通報は匿名だった。その時点で信憑性は薄い。だからといって、無視するわけにもいかない。そんな理由でCF相談事務所に話が回ってきたようだ。


 性質の悪い悪戯。それが警察やCF相談事務所の見立てである。それでも一応調査しましたとアピールするために、所員が派遣されているわけだ。その一人が悠里だった。


 もっとも、彼女としては願ったり叶ったりである。もともと、アルセイはプライベートでプレイする予定だった。業務というていで昼間からゲームをできるなんて機会はなかなかない。


 今はオススメ動画を見ているところだ。人気動画は単純に興味があるが、一応は仕事の一環という意味もある。ゲーム内で何か変わったことがあれば、きっと撮影して動画として投稿されているだろうという判断だ。デスゲームが本当にあるのなら、それを知る手がかりとなりうる。


「わ、この動画。再生数が凄い」


 悠里が見つけたのは、とある配信者の動画。ライブ配信をアーカイブとして残したものらしい。


「投稿者は……ウェルンか。登録者数はそこそこだね。最近伸びてきた配信者かな?」


 とりあえず、流れで再生してみる。撮影場所はオリジスの墓地らしい。配信者の男性アバターが慌てた様子で、ゾンビが近づいてくる様子を実況している。その緊迫した声音も相まって、完全にホラー動画だった。映像なので匂いは届かないのがせめてもの救いだ。


「あっ、この人!」


 動画には配信者の仲間と思しき人物も映っている。悠里はその一人に見覚えがあった。ゲーム初日に噴水広場で見かけたショウというプレイヤーだ。密かに探していたが、あれ以来会えなかったので残念に思っていた。


 配信者たちがパニックになっている様子がおかしく、また、巨大ゾンビという新情報もあり、再生数が伸びるのも不思議ではない。だが、一番の理由は彼らが放った謎のアーツが原因だ。


 アーツは明らかに初級魔法だったはず。それが聖水をかけただけで、凄まじい威力に変わったのだ。ゾンビにだけ有効なのかもしれないが、それでも再現できるなら大きな発見だった。聖水以外のアイテムと組み合わせることで他の効果を引き出せる可能性もある。


 この動画を受けて、たくさんのプレイヤーが再現を試みたが、今のところ成功していないようだ。それもあってチートなのではないかという疑いもあるらしい。


 だが。アルセイでチートツールを使うのはほぼ不可能だ。最近のVRMMOはゲーム運営にサイバノイド――人権を獲得した高度AI――が携わっている。彼らのデータ処理能力は極めて高く、ツール類の使用で異常が検出された場合、すぐに対応するからだ。


 もし、彼らがチートプレイヤーならば規約違反でとっくにゲームアカウントを削除されていることだろう。つまり、彼はチートを使っているわけではない。


 ただ、悠里にはチートなしでそのような現象を起こせる知り合いに心当たりがあった。


「やっぱり、ショウさんって……」


■□■

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る