3. デスゲームに興味はありますか?
キャラメイクの設定項目は多岐にわたる。その中でも重要なのが、プレイヤーの分身たるアバターの容姿、種族、特性、それに初期ステータスだ。
容姿以外の設定にはキャラクター性能を変更するためのポイント――CPというものが必要だ。キャラメイク時に配られるCPはさほど多くはないので、無制限にキャラクターを強くするなんてことはできない。限られたCPをやりくりして、できるだけ理想的なキャラクターを作るのがキャラメイクの醍醐味だ。
それはわかっているのだが――……
「じゃあ、リリィがぱぱっと決めちゃうですよ」
「ああ、それで頼む」
俺はおまかせ設定でキャラメイクをささっと終わらせようとしていた。これは時間がない人向けのオプションで、サポートAIが好みに合わせた形でアバターを設定してくれる機能だ。試行錯誤する楽しみはなくなってしまうが、さっさと設定を終わらせるには良い手段である。
いや、だって仕方がないだろ。被害妄想かもしれないが、リリィとかいうサポートAIの視線の圧が凄い。無言で責任をとれと促してくる。さすがの俺もプレッシャーに耐えかねたわけだ。
だが、この判断は早計だったかもしれない。むぅむぅ唸りながら設定作業をするリリィがときおりにんまりと笑みを浮かべるのだ。不吉な予感しかない。
やっぱり中断して自分で設定しなおすか。そんな迷いが生じたが、幸か不幸か判断するほどの時間はなかった。設定が終了したらしく、リリィが俯き気味だった顔をがばっと上げる。
「はい、できたです! しっかり、リリィ好みのダーリンに仕上げたですよ!」
「……いや、ちょっと待て。おかしくないか?」
なんでお前の好みで設定してんだよ。こういうのって俺の好みが反映されるんじゃないのか? 脳波を読み取って、そこから適性のある戦闘スタイルを判断し、良い感じに設定してくれるものだとばかり。
だが、リリィはこてんと首を傾げて、何が問題なのかわかりませんと言いたげな顔だ。
「なんなのです? お任せって聞いたですよ」
「まあ、そうだが……」
あ、あれぇ? 俺がおかしいのか?
まあ、パッと見た限り、仕上がったキャラクターは見た目も能力も悪くない。リリィの好みと聞いて反射的に不審感を抱いたが、それを排除して考えれば上出来だろう。
「いや、そうだな。これで問題ない」
結局、俺はリリィのお任せ設定を受け入れることにした。ステータスに関してはゲームを続けていればある程度は修正できるし、容姿も後から変更できる項目は多い。とにかく、今はキャラメイクを終わらせることを優先した。
「で、これでキャラメイクは終わりか?」
「まだ、一番大事な設定が終わってないのですよ。アルカディアでのダーリンの名前を決めるのです」
おっと、たしかにそれは大事だな。一応、名前は決めてあるんだ。
「設定できるなら、ショウにしてくれ」
特に捻りはない。
だが、残念ながらそれは叶わないらしい。リリィの顔が曇った。
「んー、名前が他のプレイヤーと被っているのです」
大勢がアクセスするゲームでは、プレイヤーの名前が他と同じになることを許さないものも多いと聞く。このゲームもそうだ。
名前の前後に記号を入れたりして、微妙に違う名前で登録することもできるが……そこまでするほどの思い入れもない。別の名前にするか。
そう思ったのだが。
「はいっと。登録完了なのです」
「は?」
気づいたときには、名前の登録が完了していた。
「名前被りだったんじゃないのか?」
「そうなのです。だから、名前を変えといたのです」
リリィは軽い調子で頷く。
勝手なことをするな……と言いたいところだが、“ショウ”が使えないなら他にこれといった候補もない。別にいいかと、気を取り直して尋ねた。
「じゃあ、俺は、なんて名前で登録されたんだ?」
「ダーリンの名前です? それはもちろんショウなのです」
いや、おかしいだろ。お前はさっき、名前を変えたと言ったじゃないか。俺がショウなら、誰の名前を変えたんだ。
……まさか、な?
自分のキャラクターならまだしも、他人のキャラクターまで壊してしまってはまずい。まずいが……俺にできることは何もなさそうだ。とりあえず、気づかなかったことにしよう。
「今度こそ設定は終わりか?」
「はいなのです! これでダーリンはアルカディアの住人なのです!」
一瞬、目の前が真っ白になった。ふと自分の手や足下に目をやれば、さきほどまでと服装が変わっている。どうやら、自分の姿がさっきのアバターに切り替わったらしい。
「じゃあ、転送……あ、その前にこれを聞いとかないと駄目なのです」
「……なんだ?」
いざ冒険へ、という直前、リリィが変なことを言い出した。思わず身構えるが、リリィが尋ねてきたのは完全に予想外の内容だった。
「ダーリンはデスゲームに興味あるです?」
「は? デスゲーム?」
デスゲームといえば、敗北が死に直結するというアレだろうか。VRMMOが舞台となると、ゲーム内の死が現実の死に連動するという設定が一般的だ。そういう小説を読んだことがある。
となれば当然答えは決まっている。
「あるわけないだろ」
自分が死ぬのは論外なので参加したくはないし、人の死を見て楽しむ趣味もないので主催したくもない。興味などあるわけがない
すると、リリィはこくりと頷いた。
「なのですか。なら、どうにか中止させないとダメですね……」
コイツ、何か不穏なこと呟いてないか?
「おい、それはどういう――」
問いただそうとしたところで、転送が始まったらしい。視界が白く染まり、気づいたときには目の前の光景が一変していた。
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