第2話「拳と炸裂」

 東演習場東口・演習場内出入口


 作戦会議を終えた誠たちは演習場内の出入り口に立ち、スタート準備していた。


「それじゃみんな。さっきの作戦会議でやった通りの手筈で行こう!」


「「「おーっ!!」」」


 誠の一言で彩羽たちは気合を入れ、掛け声を上げた


 全員が気合に満ち溢れており、この実技テストに意気込んでいた。


『第33期生初期実技テスト、開始5秒前。5……4……3……2……1……。諸君の検討を祈る』


 演習場内に響くスピーカーからのカウントダウンと共に誠たちは走りだし、三手に分かれ始めたのだった。



 ◇◆◇



 三手に分かれたAチームは、それぞれのコンビごとに与えられた役目を果たすために動いていた。


 こちらはその一つ。


「勝山くん、覚えているね? あくまで私たちは要石かなめいしを発見次第、壊す。それ以外はとにかく真っすぐに突き進むってことで!」


 飛高ひだか彩羽いろは勝山かつやま蓮司れんじのコンビは作戦会議の際に決められた目標……「要石を先に発見して破壊する」を実行するために演習場南東に向けて走っていた。


「言われなくても覚えているよ。まさか本当に攻撃性の高い面子で行くとは、式波って以外と人の心ないんじゃない?」


「そうかな。私、誠くんの考えは正解だと思うんだけど。勝山くん、やっぱり不満?」


「そうじゃないよ。まだ会って全然日にち経っていないのにあそこまでズバズバ言ってコンビを決めたり、ちょっとした意見を投げかけてもあっさりと返してきたり……。個人的な第一印象だけどさ、すっごい合理的だよねぇ。聞いているこっちが怖くなっちゃうよ」


 蓮司れんじは頭が痛そうにしながら言った。


 彩羽からすればいつもののことのように考えていたのだが、蓮司からすれば誠の考え方がわからないらしい。


黒相こくそうの話だと、中央の『赤鬼』を中心に五芒星の位置に要石が設置されている可能性が高いんだっけ? 地図をもらって見た感じ、ちょうど二つ分、お互いのスタート位置に近い所に配置されている計算になるんだよね。だから、これはどちらかというと北の位置にあると思われる要石を先に取れるのかが重要って感じでしょ? 早い者勝ち感が否めないよね」


 蓮司の言う通り、Aチームの中でも魔術についての知識が深い時守のよって、要石の位置はここだろうと割り出していた。

 だが、あくまでそれは陰陽道に基づいて五芒星の位置に設置されていることが前提条件である。本当に設置されている場合、両チーム側にはない要石の位置……演習場の北側にあると思われる要石は完全にがら空きになる可能性がある。


 確実に取れる位置を取るか、離れた位置にある要石を先に取るか。


「赤鬼」を倒すというクリア条件の都合上、要石の破壊は必須だ。だからこそ、早い者勝ちなのである。


「北にあるかもしれない要石……。誠くんも言っていたけど、あっちを取るかどうかで多分変わるんだよね」


「多分じゃなくて絶対変わると思うよ。ある意味一番安全な位置にあって確実に壊せる要石は今すぐにやらないといけないわけではない。後回しにしてもOKなワケ。だけど、Bチームあっち側も同じ考えだったら、多分ぶつかるよねって感じ」


 今回の作戦は時守の考えが7割反映されたものだ。だが、Bチームも同じことを考えていない保証なんてない。


 もしもAチームと同じことをBチームが考えていた場合、北側に行った誰かと衝突する可能性が非常に高いということ。


「じゃあ、黒相くんが私たちに南東に向かうように言ったのは……」


「うーん。そう言われると俺たちの場合、実戦経験があるかないかもあると思うんだよね。式波って異能ミュトスを上手くコントロール出来ていないんだろ? でも身体能力を底上げできる方法を習得しているって言っていたし、演習用式神とか軒並み露払いしてくれるって言っていたけど、彼の場合はそっちの方が都合いいからそうしたんじゃない?」


 彩羽は既に知っていたが誠は自身の身体能力を底上げする特殊な呼吸法「流道の法」を習得している。これを行うことで魔術による身体強化を使わなくとも、高度な身体能力で動くことが出来るようになる。

 誠はまだ異能ミュトスをコントロール出来ていないこともあり、彼の場合は素の身体能力と魔術のみでしか戦えない。


「……ったく、そんなのでよく特待生として入学できたもんだ。理解に苦しむよ」


「勝山くん?」


「なんでもないよ。多分、もうすぐ要石が近いかもだ」


 走り始めて数分経ち、時守が予想した要石があると思われる地点に近づいていく。


 場所は二階建てのスーパー。もちろんそれを模した建物であり、駐車場には自動車、内部にはハリボテの商品が演出として置かれていて、限りなく現実に近づけられている。

 人間がいないだけで、住もうと思えば住めるような演習場内の街並みに彩羽は改めて関心した。


「見つけた! 屋上の駐車場にそれっぽいのが見える!」


 蓮司がスーパーの屋上駐車場に何か光を発している大きな岩のようなものを発見して指さした。


「もしかしたらあれが要石なのかも! 行きましょう!」


 彩羽と蓮司は屋上駐車場に通じるスロープを駆け上がり、要石の下へと向かう。


 屋上駐車場にあると思われる要石を破壊することに成功すれば最初の目標は達成。後は他のコンビの応援、もしくは演習用式神の撃破、または妨害。


 そのどっちかを選ぶのは後で良いと彩羽は考える。


「嘘、もう……!?」


「うぅわ、マジか」


 屋上駐車場に上がった彩羽と蓮司が見たもの。


 目標の要石。札が張られていて魔力によって稼働し宙にふわふわと浮いている。


 それはまだいい。


 だが、その要石を守るように複数体の異形の者たちがいることに、二人は驚愕していた。


「これが演習用式神ってこと!?」


「どう考えてもそうとしか思えないだろ!」


 二人は身構えて戦闘態勢に入る。


 要石の周辺に群がっている者たち……演習用式神として言われていたそれらは、まるで絵物語に登場する「餓鬼」や骸の武者のような姿をしていた。


 例えるならそれは怪異とも言うべきものたち。


 そんなものが、要石を守るようにしながら、彩羽と蓮司を睨んでいた。


「体格の大きいのもいるし、見た感じ個体差はあるっぽい。先に大きい方を倒した方がいいかも。勝山くん、異能ミュトスでそこら辺の弱い方を倒して! 大きい方は私の方がやる!」


 彩羽はそう言うと、空手の構えを取り、一呼吸入れ、意識を切り替える。


 ヒーローという存在に憧れ、幼少の頃から自ら武術に打ち込み、幼馴染である誠に魔術の修行もしてもらった。


“ここに来るまで、トレーニングや食生活、ありとあらゆる事に全てを費やしてきた……。それをここで発揮させてみせる!”


 自分の心臓に意識を回す。自身の異能ミュトスを開かせる。滾る熱を回し、四肢に灯す。


「燃えろ、私の心臓!! 「燃魂闘ねんこんとう」! はぁぁ!!」


 そして、一気に踏み込みだす。


 掛け声と共に一番近くにいた一回り体格の大きい骸の武者に、炎のような赤い魔力を宿した拳による正拳突きを打ち込む。


「■■■―――――!」


 その強烈な正拳突きを食らった骸の武者は派手に後ろに吹き飛び、一部の餓鬼たちを巻き込み、消滅した。


 飛高彩羽の異能ミュトスの名は「燃魂闘ねんこんとう」。


 自身の闘争心を失わない限り、身体能力と魔力上限の底上げを可能とする、純粋な身体強化系に該当する異能ミュトスだ。


「やば。ほぼ一撃じゃん」


「勝山くん! 援護お願い!」


「おっと、ぼーっとしていられない。使うの、ちょっと面倒だけど、お仕事やらせてもらうぞっと!」


 蓮司はそう言うと、懐に隠していたビー玉の入った巾着袋を取り出し、それを三つ、右手で握りこみ、左手でビー玉を撫でると、迫りくる餓鬼たちに投げつける。


「炸裂玉・菊!」


 ぶつかる瞬間に、蓮司の呪文を聞き届けたビー玉は炸裂し、六体の餓鬼たちを巻き込んで吹き飛ばす。


 勝山蓮司の異能ミュトスの名は「炸裂玉」。


 彼が「玉」と認知したものに自身の魔力を宿して炸裂させ、爆発によるダメージを与えることが出来る異能ミュトスだ。


 彩羽の異能ミュトスは白兵戦においては有効的なものであり、場合によっては要石を破壊することも造作ない。だが遠距離攻撃を始めとした搦め手には本人の経験の浅さもあって対応できない可能性もある。


 それを補助し、尚且つ彼女への邪魔をさせないためにコンビ相手として誠が選んだのが、遠距離攻撃を可能とする異能ミュトスを持つ蓮司だった。持ち込みやすいビー玉という数に制限があることを除けば、これ以上のないサポート相手になるだろう。


「このまま一気に畳みかけるよ、勝山くん!」


「言われなくても! わかっていると思うけど、こっちは数に限りがあるからな! その前にぶっ壊しといてよ!」


「うん!」


 そう言って、彩羽と蓮司は要石を守る演習用式神たちに挑みかかるのだった。

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