第一章「勇気の拳」

第1話「作戦会議」

 2060年4月8日 国立異能専門学校・東京校 東演習場



 Aチームは東口から、Bチームは西口からという形で東演習場に入るということになった。


 両チームはそれぞれ、三郎から実技テストに関するルールをテキストとして配られた。

 その内容は以下の通り。


 1.1時間以内にボスである「赤鬼」をどちらかが倒すこと

 2.「赤鬼」、もしくは「要石かなめいし」を起点に出現する仮想敵である演習用式神による攻撃から街が破壊されないようにすること

 3.「赤鬼」のいる場所への道を防ぐ結界の鍵の役目を持つ5つの「要石」を全て破壊すること

 4.街の破損率が60%を超えた場合、その場で強制終了とする

 5.以上のルールの中に存在しない事態が起きた場合、これの対処に成功した場合は高得点を得るものとする


 このように書かれており、実技テスト開始15分に間に仲間内で作戦会議をすることになるのであった。



 ◇◆◇



 東演習場東口・控室 Aチーム


 控室の中で誠たちAチームはテーブルを囲んで作戦会議をしていた。


「これより小生たちが今回の実技テストを乗り越えるための作戦会議をしたい。貴公らの意見を聞かせてくれ」


 そのように言ったのは黒相こくそう時守ときもりだった。


「今回の実技テストの趣旨は段階がありながら、同時に街を守らないといけないって話だよね。ターゲットの赤鬼の周辺は結界が張られていて、その結界の要石を破壊しないといけない。それって、やっぱりなにか魔術的な理由なのでしょうか?」


 時守にそう言ったのは、金髪ツインテールの少女、明石あかし輝美てるみ。彼女の着ている制服はよく見ると修道服に似ていて、首には小さな十字架がぶら下げられている。


「そうだ。今回、蓼科たてしな先生が召喚した赤鬼がターゲット。赤鬼はあくまで結界の中心地。そしてその結界を構築するための要石が、演習用式神を召喚するための依り代にしている。小生の見立てだと、恐らく陰陽道に基づいた結界の構築の仕方をしている。だから五つ……つまり五芒星を使用している」


「結界の要石を依代にして演習用の式神を召喚しているってこと? それ、相当技量のある術者じゃなければ出来ない芸当じゃないか。本当にとんでもないね……」


 それを聞いて誠は驚いた。

 蓼科三郎が陰陽師であることはともかく、その力量。

 本来なら複数人の術者でやるであろうが、それをどれも違う魔術式で一個人のみの技量でやり遂げる技量を有していることだ。


 陰陽師に限らず、神秘を行使するにはそれぞれ魔術式という神秘を発揮するイメージソフトが必要だ。これを使用するために体内に記録された魔術式に魔力を通し、起動して発動するという仕組みである。


 イメージソフトという例えは「魔術系統」という魔術の原型からその魔術を軸にしたルールに基づき、そこから術者のイメージ……空想から魔術式という形にするからであり、既存の魔術系統を基に自ら編み出した魔術式を使うのが現代を生きる魔術師たちの基本原則である。


 しかし個人の素質によって習得できる魔術、行使できる魔術式の数は限られており、それらは基本的に予め生まれ持った才能という形で決められている。そのため、魔術式を複数使用することが出来る魔術師ほど、魔術師としての力量や技量も高いということになるのだ。それはヒーローという立場になっても同じである。


「実力のある術者というのは複数の魔術式を同時に起動して形にすることが出来てナンボだからな。……話を戻すが、まず最初にやるべきことは一つ。結界の要石を狙う」


「やっぱり、そっちの方がいいよね~。クリア条件とかを考えると先に要石を破壊するのが上策だし。アタシでもそうする。で? さっき言っていた五芒星がなんとかって?」


 幽子ゆうこはペットボトルのジュースを飲みながら言った。


「結界の強度を上げるため、五芒星を模した形にすることで術式の精度を上げ、この街の霊脈から直接魔力供給を受けやすくしているってことだ。小生たちがこのまま結界を破壊しに行っても意味がない。恐らく要石がある時点で再生するだろう。だから先に要石を破壊することが最優先なんだが、もう一つ別に問題がある」


「問題点ってなに? 他になにかあるの?」


 蓮司れんじが質問した。


「要石を発見すれば、おのずと他の要石の場所もわかる。問題は、あちらBチームも同じように考えているという可能性だ」


「Bチームも……。もしかして、あの相馬さん辺りかな?」


「ああ。あの女も魔術師としては優秀だ。小生と同じように考え、先に見つけると考える可能性がある。戦いを得手とするヤツとそうでないヤツで分けられているからな。散開して他の要石を破壊しようとして、相性が悪い面子とかち合った場合、要石の取り合いになる。それを考慮して考えた場合……、飛高。お前ならどうする?」


 時守は彩羽に聞いた。


「……今回の実技テストの場合、要石の取り合いだけじゃなくて街を破壊しようとする演習用式神の事も頭に入れないといけないですよね。要石は確かに得点稼ぎにはなるけど、そっちにばっかりかまけていたら他が疎かになるし、他の演習用式神が現れて街を壊しちゃう……。うーん……、私は2人1組で行動して、対処する方がいいかなと思う」


 彩羽は自分なりに考えて言った。


 クリア条件は先に「赤鬼」を倒すことだ。要石は得点稼ぎにはなるが、それはあくまで「赤鬼」のいる結界を解除するために必要な工程であって重要ではあるが特別重要というわけでもない。数字を取るという方向性で言えば正解かもしれないが、それだけではダメである。

 演習用式神と言っているが、これはあくまでメトゥスを想定してのもの。街が破壊され、破損率が60%を超えたら強制終了。……仮にこれが現実にあった場合、多くの犠牲者と被害が出てしまい、そんな被害を出したヒーローは失格と見なされるだろう。


「正直、両方を取るって現実的じゃないよねぇ。要石の数が5個あるなら、やっぱり2組が要石の攻撃に当たって、1組は演習用式神を倒すって感じで良くない? 難しく考えてもしょうがないよ」


 蓮司が頭をかきながら言った。


「……要石がただ剥き出しのままになっていなければの話だがな。だが勝山の言う通り。2組は要石の破壊に専念し、1組は街を破壊する演習用式神の撃破を優先する。これが一番無難だろう」


「うん。作戦はそれでいいかもね。それじゃあ、誰が誰と組む?」


 誠は紙をテーブルに置き、時守に聞いた。


「攻撃が出来る者と支援が出来る者との組み合わせがいい。皆の異能ミュトスを全て把握しているわけではないが……。小生たちはまだ会ったばかりで全員の異能ミュトスの内容を知っているわけではない。お互いに自分たちの異能ミュトスの内容や戦い方を教えてくれた方が助かる」


「そうだね。じゃあ、私から言います!」


 そうして、彩羽から順番に誠たちは自分たちの異能ミュトスや戦い方をざっくりとだが教え合った。


 既に時間がほとんどないこともあって即座に教え合った結果、残り時間は既に3分を切っていた。


「……よし。ある程度把握した。だが式波。お前の異能ミュトスはあまりはっきりしてないと言っていたが、大丈夫なのか?」


「大丈夫……と言いたい所だけど、こればかりは僕も上手くコントロール出来ているって確証がないんだ。もちろん、魔術とかで出来ることはやっていくけど」


 誠は異能ミュトスを認識してからまだ日が浅く、それを使った訓練をほとんどしていない。そのため、彼自身も自分の異能ミュトスである“目”を使いこなせるとは一概には言えない状況であることも手短に説明した。


 それに難色を示す者はいたが、そこは妥協するしかないということで納得してもらえた。


「式波、お前は誰と誰が組んだ方が良いと思う?」


「え? どうしてそんなことを僕に?」


 突然の時守からの質問に誠は少し困惑した。


「……正直、なぜこんなことを聞いたのかわからないが、小生はお前に人を見る目がありそうだと思った。ダメか?」


「ええ……」


 つまり特別に何か根拠があるわけではなく、そう思っただけとのこと。


「私もそう思う。誠くん、昔からそういうの得意だもんね」


 彩羽は信頼の眼差しを誠に向けながらそう言う。


「そう言われても……。まぁ、そう言うのなら、遠慮なく言わせてもらうよ。何事も経験ありってヤツだ。それじゃあ……」


 幼馴染に言われては仕方ないと考え、誠は先ほど聞いた5人の異能ミュトスと戦い方を基に誰がツーマンセルを組むのかを言った。

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