第13話「実技試験・始」
厳正なくじ引きが行われた結果、以下の通りになった。
Aチーム
Bチーム
という組み合わせになった。
「もう一度お前たちに説明するぞ。今回の実技テストは採点結果を競い合う対戦形式だ。シチュエーションは『市街地にメトゥスが出現した。周囲への被害を出さないためにこれを打倒する』。クリア条件は言わずもがなだが、俺がさっき召喚した赤鬼の式神を倒すことが前提条件。ただし、これは制限時間を設けるものとする」
「制限時間、ですか?」
制限時間という言葉に彩羽が言った。
「制限時間というのはターゲットの式神が街を破壊し終えるまでの時間のことだ。一種のタイムアタックと考えてくれた方がいい。それまでのお前たちの行動一つ一つが採点対象になっている」
「えっと、ただ倒すだけが今回のテストではないということなのでしょうか?」
「その通り。ただメトゥスを倒すことだけがヒーローじゃない。メトゥスによって街を破壊されるのを防ぐことも重要な任務の一つ。基本的に人命優先であっても、その人が住まう場所が破壊され、後の生活に影響を与えないようにすることも大事だ。故に、街の破壊状況も採点対象とするということだ。この演習場は特殊な結界で構築されている。内部にある仮想の街はどれほど破壊されたとしても、魔力を用いて再構成される仕組みになっているが、その状態がどれほどお前たちに及ぶのかも試す」
つまり、ターゲットを倒すことだけが重要ではなく、街を出来るだけ破壊されないようにするということ。
破壊され、失ったものは戻らない。だがこの東演習場内に作られた仮想の街は魔術によって再び再構成されるという仕組みになっている。
失われないものがある状態で、どれほどヒーローとしての動きを示せるのか。
元に戻るという退路がある状態で、どれほどの被害を出さないように出来るのか。
そういった要素が、ヒーロー候補生たる第33期生たちを試すのだ。
“簡単そうに聞こえるけど、それだいぶ難しい話だよね……。大きな攻撃をしようとして、周辺を巻き込んだりしたら確かに大変だし……”
伝之助はその説明に対してそのように考える。
人命救助、メトゥス討伐をメインとするヒーローが周辺を巻き込んで一般人を危険に晒したりしたら、それこそ本末転倒だ。余計な被害を増やしてしまわないようにするのも大事ということなのだろうと納得する。
「改めて言う。お前たちは今一度、己の力がどれほど通じるのかを知ること。このテストでは、何が起きるかわからない。だが、それを乗り越えてこそヒーローたりえる。全力を尽くし、自分の力を示せ!」
「「はい!」」
三郎の言葉に第33期生たちは同時に返事した。
◇◆◇
国立異能専門学校・東京校 講師棟 第二視聴覚室。
生徒たちが勉学などで使用する教習棟にある視聴覚室ではなく、教師たちが主に実務作業などで使用する講師棟の三階にあるもう一つの視聴覚室。
だが視聴覚室と呼ぶにはあまりに広く、物々しい雰囲気を醸し出している。
「えー、本日はお日柄もよく、お集まりいただきありがとうございます。各ヒーロー事務所の皆々様」
マイクを片手に握って言ったのは、異能専校・東京校の校長、
第二視聴覚室の巨大モニターには誠たちのいる「東演習場」各地に飛ばされているドローンで撮影されている中継映像だった。合計6つのモニターで映し出されているそれは、軍でも使われている高性能ドローンカメラによって鮮明に映し出されており、実技テストの始まりを待ちわびるように飛んでいた。
「今期、第33期生による最初の実技テストはまずAグループから行われます。もう間もなく始まりので、しばしお待ちいただければと思います。配布されたグループごとの生徒の名簿と資料を参考にしてご観覧ください」
響生は第二視聴覚室に置かれたテーブルにつく人々……、総廻市各地のヒーロー事務所の代表者たちが資料に目を通したり、持ち込んできた社用パソコンを開き、レポート作成などしていた。
毎年恒例の「ヒーロー候補生による実技テストの事前視察」。
基本的に人手不足であるヒーロー業界において、人材確保は尽きぬ課題でどのヒーロー事務所も常に新しい人材を欲する。
メトゥスとの戦いは人類共通の課題であっても、完全に倒すことが出来るのは
故に、異能専校・東京校第33期生の「全生徒ヒーロー志望」というだけで、どのヒーロー事務所も将来有望な候補生たちを見極め、事前に確保できるようにしたいのだ。
「この子……ちょっと気になるわね。今の内に目につけておこうかしら」
そう声を上げたのは、ヒーロー事務所兼アイドル系芸能事務所「ヒロイック・エンタティメント」社長、
「ほうほう……。これはこれは……。やはり、彼もいるというわけか。これはマークしておからねばなるまい」
次にそう言ったのは、ヒーロー事務所兼仏教系魔導専門事務所「法和会」会長、
「うーん、見るからに実力派系って感じ? 結果次第だけど、目をつけておくに越したことはないだろうさ」
その次は、ヒーロー事務所兼
その他5社を超える格ヒーロー事務所の面々がこの第二視聴覚室に集っていた。
「これが、誠くんと彩羽ちゃんね。こうして見ると、随分と逞しくなったように見えるわ」
「ああ、そうだ。久しぶりに見るといい顔をしているだろ?」
そして、その面子の中にヒーロー事務所兼芸能事務所である「フィルス・エンプティ社」の代表取締役社長、
温和で母性を感じさせる顔立ちのショートヘアの美人。それでいて、何事にも動じない、文字通り石の如き強さを感じさせる力強い雰囲気があった。
「今年の第33期生って随分と魔境だわね……。正直、貴方の頃とは別の意味ですごいよ」
靖子は名簿を見ながら呟いた。
「……俺たちの頃とは、もう違います。ある意味、良い時代になったっていうことですよ」
銀司はそのように言うが、僅かに顔色が曇っているように見えた。
「まぁ、そうね。確かに、貴方たちの頃とはもう違う。それにしても、名簿見ただけですごい経歴の面子ね……。今後、卒業する時が荒れそうで怖いわ。私の見立てだけど、この子たち1年でライセンスの仮免取れて、デビューしちゃうじゃないかしら?」
「俺もそう思うぜ。全員が全員、そうじゃないかもしれないが……。そこは先輩として信じるしかないって所だな」
「案外厳しいことを言うのね。もっと肯定的になって言うのかと思ったけど」
「当たり前です。現実は、夢や理想に対してあまりにも厳しすぎますから」
そのように即答する銀司の表情は険しく、それでいてどこか悲しげにも見える。
「……そうよね。この世界は、願いを抱き続けられる人ほど、ふるいにかけられて落とされる世界なんだものね」
そう語る靖子の視線は、実技テストが始まろうとしている東演習場の映像が映し出されたモニターに向けられた。
―――――そして、5分後。
国立異能専門学校・東京校にとって、後に伝説と呼ばれる「第33期生初期実技テスト」が開幕するのであった。
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