不必要の自分
あんちゅー
意味のある生活
学生時代、友人に聞いた。
「いくつまで生きられると思う?」
自分は遊び半分に口にした。
「俺は120まで」
彼はそんな言葉を笑いもせずに、一言「凄いな」と言った。
それから表情は変えずに、少し悩んだような顔をしてから静かに答えた。
「30までに愛されなければ死ぬよ」
自分はそれ以上彼の顔を見ることができなかった。
夢があった。
頑張っていた。
誰より一際大きい声で、朝から晩まで歌っていた。
けれど結局いつだって、その姿を想像できずにいた。
その時、彼は何を見ていたんだろう。
誰にでも愛される。
笑顔が素敵で、何でも出来て、恋人もいた彼は何を思ってそう言ったのだろう。
地元を出てからというもの、彼からの連絡はひとつもない。
彼はとっくに過去になっていた。
毎日が惰性の繰り返しだと思えた。
とびきり楽しいことも無く。
辛いことも殆どなかった。
いつまでも続く道の先に、本当に夢が叶う瞬間があるのだろうかと、生きているのが辛くなった。
仕事に就いて、飯を食って、たまの休日には遊びに出掛けた。
夜になれば週末のことを考えていた。
何かに夢中になれば、忘れられると思ったからだ。
今日もまたその繰り返し。
いつかの記憶も、会話も、表情も、頭からするりと抜け落ちていた。
歳をとると沢山のことを任されるようになる。
両手に抱えきれなくなった仕事をひとつずつこなしていく。
「信頼してるよ」
「よく働くね」
「一緒に頑張ろう」
口先だけの甘言が重しのようにのしかかる。
こんなことがしたいんじゃないんだ。
夢があるんだ。
決して口には出さない理想が、遠のいていく実感があった。
本当は、涙を流して叫びたかった。
それでも不思議な程、毎日は当たり前のように過ぎていく。
今日も不必要な朝を迎えた。
このままいつまで生きるのだろうか。
恋人もなく、友人もいない。
同僚との飲み会は悪口だけが飛び交った。
30歳を目前にした頃、急に彼のことを思い出した。
今、何をしているのだろう。
そう思っても連絡をとる訳では無い。
ただ、不意にあの時の彼の表情を思い出した。
誰から愛されたかったのだろう。
何を見ていたのだろう。
結局それ以上は答えずに、彼は記憶の中だけの人になってしまった。
生きられるところまで、生きていたい。
そんな自分は傲慢で、結局毎日を繰り返す。
あなたは今何をしていますか?
今日も明日も明後日だって、交わることの無い彼との思い出。
どうか少しでも長く生きていて下さい。
自分は今も生きています。
不必要の自分 あんちゅー @hisack
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます