第4話 鹿太郎、そして私

ん、足音がする、戻ってきたようだ、意外と早かった。よかった、何もなくて。


「鹿太郎、星、あった、あった。やっぱり思った通り台座の中に隠してあった。」

ん?あれ?台座の中?幹の下部にあったの?

「犯人、いたいた。生徒会会長。ツリーに着いたら、ちょうど会長が台座の中をごそごそしてたんだ。放課後で遅い時間だったから、会長もまさか誰かいると思わなかったんだろうね、後ろから声をかけたらびっくりして台座で頭を打ちつけてた。」

え?誰って?えっ会長?副会長じゃなくて?

「どうやったのか聞いたら、やっぱり思った通り、会長、登って盗ったんだって。」

なんですと?登ったですと!なんという怖いもの知らずのマッチョ。落ちたらどうすんだ。

「会長、クライミング部?ボルタリング部だかに入ってるからチャレンジしてみたかったんだって。」

『はあ、そうですか。』

脱力。だいたい、そんなクラブがあったとは知らなかった。

「生の木じゃないから、枝にワイヤーが入ってて、しっかりしてるし、折れないから、登るとき手で支えられたみたい。足場になるようにところどころの幹は強度を強くしておいたって。」

…………。まさかそんな『単純なことはない』といった細工だったとは。

「すぐ星を元に戻そうと思ってたんだけど、工事の人がきて、慌てて星を台座に隠して逃げたって。」

なんと!なんと!

「あ、ちゃんと命綱は付けてたらしい。」

いや、そんなのどうでもよい。よくないがよい。なんと。なんと。あー。 賢人もわからんが筋肉人もわからん。


「鹿太郎、さすがだよ。大道芸人が風船を取ってたのを見て気づくなんて。鹿太郎が見てたの風船の方だと勘違いしちゃった。鹿太郎はすごいなぁ。鹿太郎?」

『………』

「いやぁ、ほんとすごい。」

『はぁ、どうも。』

何も言うまい。というか言えない。

事実は、人間は小説より遥かに単純だ。偏見だが、かなり個人的意見だが、軽犯罪の動機のほとんどが"やってみたかった"じゃないだろうか。


「さ、解決したことだし僕はそろそろ帰る。」

『帰るんか。』

また嫌な時間が来た。今日はいつもより楽しい時間が長かった。

「じゃ、鹿太郎、また明日。」

『ん、じゃ。』



また独りだ。窓ガラスに映る自分、その横に取り残されたかりん糖とカップ。ボンヤリ見つめる。かりん糖は迎えにきてもらえるのだろうか。

ほんとうの夕日が眩しくて涙が出そう。 ちょっと寝たら、また明日がやってくる。明日になったら、またアイツと会える。でも私にはいくつの明日がくるのかわからない。


アイツは明日も明後日もずっとベツレヘムの星に祈ってくれるのかな。いつか祈りが叶うように。毎日毎日。


そうだ、明日こそちゃんと名前で呼んでもらわないと。最初に読み間違えたのはアイツなのに、それが恥ずかしいのか一度もほんとうの名前で呼んでくれない。私の名前は鹿太郎ではない。私の名前は。

でも鹿太郎も悪くない。暫くは鹿太郎のままがいい。








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クールな鹿太郎のおとぼけ推理 @wan-1wan

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