第3話 鹿太郎の迷推理
「これ美味しい。」
キッチンカーで購入したのか、さっきから
ジンジャーエールをチューチュー飲んでいる。その奥でかりん糖がカリカリと快音を立てている。なぜかりん糖とジンジャーエールなのか。甘×甘。和×洋。好き好きだが。案外、口の甘さが炭酸ですっきりするのか。どうでもよい。
「炭酸飲んでたら、お腹がいっぱいになってきた。ふぅ。」
それより寒くないのだろうか。年がら年中、ジンジャーエールを飲んでいる。お腹もいっぱいになるはずだ、かりん糖の前は、芋けんぴを食べていたような。棒状の固いものがお好みみたいだ。炭酸でというよりカリカリ系でお腹がいっぱいなんじゃないか。
「それにしても、このかりん糖、固い、かりん糖が折れないで歯が折れる。リアル花梨の木より固いと思う。」
だったら食べなかったらいいのに。花梨の木を触ったことがあるのだろうか。あまりお目にかかれる木じゃない。花梨の木は固いのか?それに固さじゃなくて色や風合いが名前の由来だと聞いたことがある。
「ん?」
何か気づいたか?かりん糖を口の中に頬張ったまま、口先をモゴモゴさせてムフムフ笑っている。愉快な顔だ。ハムスター人間。
「むあ、むあぁー。はぁくわった。わかった。ってことは鹿太郎はもうわかってたんだ。ずるいな。」
『やっとか。何がずるいんだか。ほんまにわかったんだか怪しいもんや。』
ムフムフがニヤニヤに変化。
「よし、今からちょっくら、犯人候補さんに会ってくる。それから、星を掘り出してくる。」
止める間もなく、バタバタと走っていってしまった。すっかり氷が溶けてしまったジンジャーエールのカップと文句を言われ残されたかりん糖。それにガシガシ噛まれたストローがうなだれている。そして…
相方がいないので答え合わせはできないが、暇なので自分の推理を整理してみよう。決して取り残されて寂しいとかそんな感情はない、決してない。
まず、考察すべきは星が"いつ""どうやって""誰によって""なぜ"なくなったか、ということ。"いつ"ははっきりしている。
アイツは忘れているみたいだが、金曜日の下校の時は確かにあったはずだ。どうして断言できるかは、ちょっと恥ずかしいので、触れないでおこう。とりあえずアイツのある毎日のルーティンの時に、アイツは星を見てるんだ。だから金曜日は当然、設置されてから毎日あったことは間違いない。
そうすると月曜日にはなかったということは、なくなったのは土曜日か日曜日の休みの間。前もって入れ替えられていて、最初からなくなっていた説には無理がある。なにせアイツが取り付けたんだから。ちょっと頼りないが、他にも見たり触ったりした生徒もいるだろうから、一応本物だったと信じておこう。結論として"いつ"は土曜日か日曜日。
次は"どうやって"かだ。ツリーは吹き抜けのホールにポツンと立っている。ポツンは違う、デデンと威張って聳えたっている。近くに柱や台、つまり足場になるものはない。
2階の吹き抜けに面した廊下の柵からワイヤーか何かでぶら下がって盗るというのは夢があって好ましいのだか、しかしそんなアルセーヌルパンのように盗っていくのは、学校の構造上フィジカル的には無理がある。それに盗る対象物がそれほど価値のあるものでないから、金銭的に投資して細工をした、とも現実的ではない。
そうなるとなんらかの方法で、いつの間にか、の消失トリックが一番可能性が高い。
"どうやって"を突き詰めるまえに"誰によって"を想定しておきたい。生徒会の中の誰かが犯人と考えるのが無難だ。推理材料が乏しいので単独か複数犯かは断定できないが、ツリーの幹を設置した人物なのは間違いない。仕掛けをするとしたら、彼ら以外考えられない。"なぜ"の動機は…不明というか今はどうでもよい、後から考察する、、かな。
そして"どうやって"の仕掛けはツリー本体を疑うのが常套手段だ。あれだけ大きなツリーともなるとかなり太い幹が必要になる。そこを利用しない手はない。
幹は枝葉に隠されているから、何か細工をしても表面上には葉で見えづらい。かといって幹の表面に何か装置などをつけると完全にバレバレなので、隠れるところに細工をするだろう。本物の枝葉に紛れて細工した枝葉を紛れ混ます手もあるが、まさかそんな単純なことはないだろう。
妥当なとこで幹の中だ。幹の中は空洞になっていて、本来なら中心にしっかりした鉄柱が入るのだろう。3メートルの鉄柱は重くて嵩張るので何個かに分割されていると思う。
まずその鉄柱を台座の中にまで完全に差す。台座はいつもより高くしてあるから、その高くなった分、幹の上部は鉄柱がない状態になる。もしかしたら、何個かに分解される鉄柱の幾つかは設置されていなかったかもしれない。
その空いたスペースに空気をパンパンに入れたビニール袋を鉄柱のない部分に詰め込んでおく。云わば空気の柱だ。その上に星を乗せておけばよい。そして中の空気が冷えないように温めておけば完了だ。
その仕掛けはイルミネーションの電気配線に紛れこませておけばよい、そうして幹を暖める即ち中の空気を温める細工が可能だ。アイツがほんのり暖かいと言ったのはそのせいだろう。いつもよりたくさん飾られたオーナメントはそれらを隠すためだ。
そしてついに工事のある土曜日の夜がやってきた。設備点検で電気系統が切られると、イルミネーションも幹を温めていた装置も止まってしまう。
そうなると幹もビニールの中の空気も一気に冷える。徐々にビニールの空気は容積が小さくなっていく。そしてついに星が幹の中に落ちてしまう。
例年より高い台座は、幹の細工を後から始末するためにも必要だった。体が入らないと、取り除く作業がしにくい。鉄柱を取り出して星を下まで落とさないとせっかくの星が取れない。
休み中は工事関係者以外立ち入り禁止だから、月曜日の朝一番に来て後始末をする予定だったのだろう。それなのに、どこかの暇人が張り切って朝早く登校してしまい、星のないことに気づいてしまって大騒ぎしたもんだから、犯人の予定が狂ってしまった。
だからまだ後始末はできてないし、星も幹の途中にあって回収できていない。アイツはそれを取りに行ったんだ。
アイツが無駄に朝早く登校したことで星は盗難未遂?に終わったんだから、アイツの行動も無駄ではなかった。
そこから推測すると"誰によって"の犯人は理科部に所属の生徒会副会長だろう。
こんなわけのわからない手間隙掛かる面倒くさい仕掛けをしたがるのは自己主張の激しい副会長に決まっている。
言っておくが、別に副会長が嫌いなわけではない、決してない。動機は、わからない、わかりたくないし、わかるはずがない。あんな変人、、じゃない賢人の考えなど。
アイツ、ジンジャーエールのストローと、炭酸でお腹が張ったのでやっと気づいたんだろう。
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