第三集「まさかの出会い」
ありとあらゆる人が集まる
だが。
「……これは拷問」
正午と同時に店が開く西市に足を踏み入れた琳瑯は、思わず呟いた。
ごったがえす人・人・人、そしてあちこちに満ちる様々な食べ物の匂い――「さあ都一うまい肉包が蒸しあがったよ!」の声に、人々がわっと集まり、もうもうと煙を上げている「
母が残した銅銭は、今、腹を満たしたら全てなくなるほどしかない。先が分からないのに、一銭たりとも無駄には使えない。
きゅうと情けなく腹が鳴る。がっくり膝をつきたくなるのをこらえ、琳瑯がふらふら歩き出した、そのときだった。
いきなり背後からガッと肩を掴まれ、凄い力で後ろを振り向かされる。そこには、琳瑯より一回り大きな男がいた。逆光で、顔はよく見えない。
長めの上衣に
まさか相禄? 琳瑯が期待を込めて見つめ返すと、青年は突如相好を崩し、
「ああ失礼。余りに美しい方なので、つい」
――なんだ。ただの軽薄子かよ。
琳瑯は迷いなく踵を返し、スタスタと歩き始めた。
すると、「ちょっと待って!」慌てふためいた声とともに、なぜか彼が追いかけてきた。
「ごめん、失礼をお詫びするよ。ただ君のその衣装が、三年前に家出した妹のものにそっくりだったから」
琳瑯はピタリと足を止める。思わず目を向けると、彼はほっとしたように続けた。
「あ、挨拶もしなくてごめん。僕は、
まさか身内が釣れるとは――琳瑯は大いに動揺する。
逃げたい。でもそんなことしたら、却って怪しまれる。
ここは――。
「その、家出中の妹さんって……」
頑張って高めの声を出してみた。が、
「大丈夫? 声掠れてるけど。今日は風も強いし、このまま立ち話もなんだから、一緒にお昼でもどう? お詫びがてら、この先にあるおいしい店でご馳走するよ」
ついていったのは、決して空腹だったからではない。のだ。
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