(3)アレクサンダー③
だが、ある者の視線が、俺を射竦めた。
ソレは、アレクぬいのまん丸な金色の瞳から放たれる、何もかもを見通すような無垢な視線だった。
いや、本当は単にぬいぐるみが俺の視界に映り込んできただけだったのだが、その目がまるで俺の心を暴くかのようで、思わずドキリとしてしまったのだ。
(おのれ、アレクぬいめ……! 正々堂々挑めと言いたいのか!)
俺は、思い通りにならないチハルをどうにかしたくて堪らなかった。
チハルに「可愛い」と言われるのは、俺でありたかった。
チハルにとろける笑みを向けられるのは、俺だけでないと嫌だった。
チハルとの思い出は、俺とのモノにしたかった。
(アレクぬいではなくて、俺を見てくれ。チハル……!)
人生イージーモードだったこの俺が、異世界人のぬい活狂いの聖女に執着することになるなど、思いもしなかった。
これが恋か。これが愛か。そしてこれが嫉妬という感情か。
その日、俺は生まれて初めて、女性と同じ寝台にいながら、石像のように固まったまま朝を迎えた。
このままチハルに手を出しても、アレクぬいから彼女の心を奪えるとは思えなかったのだ。俺はチハルの心が欲しかったのだ。
◆◆◆
だから、俺はチハルに好かれようと必死だった。
俺様な性格を隠し、真面目で清廉な騎士を演じながら、彼女のぬい活に全力で協力しているのだ。
アレクぬいに異世界肉を食べさせ(る真似をして)、ミラーシールドを反射板にして光の調整を行い、写真映えする景色を探すチハルの後を付いて行く。
「次は、雪の町スノウタウンに行きたいです。アレクぬいサイズの雪だるまを作りたいです」
「聖女のお前の護衛をするのが、俺の仕事だ。どこへでも行ってやる」
ぬい活中のチハルの瞳は、いつもきらきらと輝いていて美しい。思わず見惚れそうになった俺は、彼女をもっと喜ばせるたくてたまらない。
もはや、魔王討伐など二の次。魔王城ははるか遠い。
上がれ、俺の好感度!
打倒、アレクぬい!
いつか純粋な好意で、俺の写真を撮りたいと言わせてやる!
必ず堕としてやるぞ、チハル!
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