第4話 【大学四年生】神すぎる先輩

 大学四生になった私は、相変わらず仲のいい恵梨香と二人で居酒屋へ飲みにきていた。


 カウンターに座って恵梨香と二人でお酒を飲んでいると、大人になったような気がする。


「私たちも大人になったね。もうすぐ社会人だし」


「あんなに小さかった叶織がこんなに大きくなるなんてねぇ。お母さんびっくり」


「恵梨香はお母さんじゃないでしょ。というか大きくなったのは恵梨香も一緒だし」


 恵梨香とは小さい頃からの親友だが、こんな風に大人になるまで二人でずっと仲良くしていられるとは思っていなかった。


 もう恵梨香が未来の旦那さんだったらいいのにとすら思ってしまう。


「嬉しいようで寂しいよね。大人になるのって」


「そうだね……。大学四年生にもなったら流石に彼氏の一人や二人できるかと思ってたけど、全然できないし」


「今までチャンスはいっぱいあったじゃん。叶織に告白してきた男の人の中でかっこよくて優良物件な人もいっぱいいたのに、なんか違う、ビビってこないって言って付き合わなかったのは叶織でしょ?」


「それはまぁそうだけど」


 昔から『未来の旦那さんはどんな人なんだろう』と思っていたが、結局まだ私の旦那さんになりそうな人は現れていない。


 というか、好きになった男の人すら現れていない。


 しいて言うなら、駅のホームでおばあちゃんを助けてた男の子かな……。


 未来の旦那さんがどんな人かを誰よりも気にしている私にいい男の人が現れないなんて、これが所謂物欲センサーなのだろうか。


「大丈夫だって。一年目なんて誰でもミスするし、山田だけのせいじゃないから」


 そんな時、私の耳に入ってきたのはカウンターの横の席に座っていた一人のスーツを着た男性だ。


 どうやら仕事で失敗してしまった後輩を慰めているらしい。


「なんで朝比奈先輩はそんな優しいんですか。俺のせいで朝比奈先輩まで部長に怒られたのに……」


「俺が新人の時も今と同じようなことがあってさ。俺のせいで先輩が部長から怒られて……」


 なるほど、そこで先輩から同じように優しく慰めてもらったから、自分も後輩を優しく慰めようとしているってことか--。


「すいませんって謝ったんだけどな。テメェのせいで怒られたじゃねえかクソが! ってブチギレられたんだよ」


 ……え? キレられたの?


 てっきり私は自分も優しくしてもらったから、後輩にも優しくすると、そういう話だと思ったのに。


「えっ。じゃあなんで僕に優しくするんですか」


 ありがとう山田さん、私の心の声を代弁してくれて。


「その時死ぬほど悔しくて、辛くて悲しくて心が痛くて、もう会社なんか辞めてやるって思ったんだわ。山田にはそんな気持ちになってほしくないと思ったから」


 ……え、何この人神なの?


「朝比奈先輩神じゃないっすか! 俺一生朝比奈先輩についていきます!」


 ……ありがとう山田さん、また私の声を代弁してくれて。


 私が後輩の立場だったとしたら、朝比奈先輩とやらに惚れてしまっているだろう。


 仕事で助けてくれた先輩のことは魅力的に見えるっていうし。


 この人が私の旦那さんだったら……。


 そんなことを思うのは、駅のホームでおばあさんを助けた男の子を見た時以来である。


 それにしてもこの人の顔、どこかで見たことがあるような……。


「どうかした? 急に無言になって」


「……ううん。なんでもない」


 神すぎるこの人に声をかけようとも思ったが、仕事で失敗した後輩を慰めているところに声をかけるなんて野暮だよね。


 私が社会人になって後輩ができたら、私もこの男の人みたいに後輩に優しくしようと思った。

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