第5話 【二十五歳】結婚報告

 社会人生活も六年目に突入し、同じことを繰り返すだけの毎日に俺は飽き飽きしていた。


 何か変化でもないかと思っていた俺は、唐突に会社から一年間の出向を言い渡され地元を離れていた。


 そして地元に帰ってきた今日、卓志からLIMEで『飯を奢って差し上げるでござる』とメッセージが送られてきて、二人で鰻を食いにきていた。


「……いや急にどうしたおまえ」


「別にどうもしてないが?」


「いや、明らかに変わってるだろ。その、見た目とか喋り方とか色々」


 卓志と直接顔を合わせたのは出向前以来なので、一年ぶりとなる。


 一年ぶりに顔を合わせた卓志は、めちゃくちゃ痩せてイケメンになっていた。


 見た目が変わることはあるだろうが、喋り方が変わるってどういうことなんだよ。


「そうだね。変わったかもしれない」


「今日飯に誘ってくれたのは一年ぶりに飯行こうぜってことじゃなくて、痩せた姿を俺にお披露目したかったのか?」


「それもあるけど、それだけじゃないんだ」


「なんか鼻につくなぁその喋り方。まあいいけど。他に言いたいことがあるのか?」


「結婚することになった」


「……はぁぁぁぁ⁉︎ 嘘だろ⁉︎ あんなに未来の嫁に思いを馳せてた俺より先に結婚するってマジがそれ⁉︎」


「ああ。大マジだ」


 見た目と喋り方が大幅に変わっているだけでも驚きなのに、卓志が結婚?


 俺なんかまだ彼女すらできたことがないのに。


「なんかショックだな……」


「いや素直に喜んでくれよそこは」


「冗談だよ。おめでとう」


「ありがと。僕もまさか頼音より先に結婚できるなんて思ってなかったよ」


「いや昔言ってた冗談が本当になるなんて心臓止まるかと思ったわ。すげぇなマジどんな人なんだ?」


「どちらかといえば物静かで、優しい人だよ」


「そっか……。いやおめでたすぎる」


 卓志の結婚を聞いた俺は、羨ましさよりも『もうそんな歳なのか……』と、自分たちがもう結婚をしてもおかしくない年齢であること痛感していた。


「それで一つ頼音に聞きたいことがあってね」


「聞きたいこと?」


「女の子を紹介してほしくはないかい?」


「は? 紹介?」


「ああ。まだ僕の婚約者もその友達に訊いてはいないんだけどね。すごくいい子だから紹介できる人はいないかって」


 ……正直いい話ではある。


 俺の会社は男が多く女性と関わる機会は少ないし卓志の紹介なら安心もできる。


 普通なら二つ返事でオッケーするところだが……。


「……ごめん。やめとくよ」


「だよね。頼音ならそう言うと思った」


 ここまできたら、というわけではないが、やはり自分の嫁になる人は自分で見つけたい。


 そんな夢みがちな考え方のせいで、俺は人生最大のチャンスを棒に振ったのだ。


 はぁ……。どこにいんのかなぁ。俺の未来の嫁。

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