第3話 【社会人2年目】2年目の飲み会
今日は会社の飲み会で、俺は飲み屋街にある焼き鳥屋へとやってきていた。
「うぉーい早く次の酒を注いでくれよ朝比奈くーん」
社会人二年目となった今年、会社の中での関係性を築くことにも成功し、酔っ払いモードの斉藤部長に絡まれながらひたすら酒を注げと言われるこの飲み会にも慣れてきた。
社会人になってもう一年が過ぎたのか……。
俺の両親は俺が小さい頃に離婚しており、母さんが女手一つで俺を育ててくれた。
そんな母さんを少しでも楽させたいと、俺は高校を出てすぐ職についた。
最初は慣れないことばかりで上手くいかなかったが、最近はようやく仕事が軌道に乗り始め、心も軽くなっていた。
(……はぁ。まだ見つかんねぇなぁ。俺の未来の嫁)
俺はまだ将来俺の嫁になるかもしれない人とは出会うことができていない。
社会人になってからは仕事が忙しすぎて彼女を作る時間もなかったので、もしかしてあの人が俺の未来の嫁なのか? と思わせてくれる人すらいない。
いやまあ時間があった高校時代でも彼女なんていなかったけど。
こんな飲み会に参加するくらいなら、未来の奥さんを探したいなぁ……。
「お酒注ぎますねー。あ、はい、そっちも次に注ぎに行きますー。え、お箸を落とした? はい、これ新しいお箸です。え? お酒こぼした? 店員さーん、おしぼり三つ程お願いしまーす!」
未来の嫁ことばかり考えて飲み会に身が入っていなかった俺の耳には、隣の卓で飲み会をしている大学生と思われる女の子の声が聞こえてきた。
その女の子は自分の飲み食いを後回しにして、周りの先輩と思われる男子達に気を遣い必死に飲み会の場がスムーズに進行するよう努めていた。
女性なら誰だってお酒を注いだり料理を取り分けたりする立場に回ってしまう。
だがその女の子の気の遣い方は尋常ではない。
自分の周辺の席だけでなく、椅子から立ち上がり視野を広くし、問題があったらいち早く察知して対応をしていた。
そんな芸当は心の底から先輩を尊敬し、先輩達に気持ちよく飲み会をしてほしいと思っている女性にしかできない技だ。
実際俺は斉藤部長の面白くない話に適当に相槌を打ち、適当なタイミングでお酒を注ぎ、時間が経過していくのを待っているだけだからな。
あんな風に気を遣える女の子が、自分の未来の嫁だったらな……。
そんなことを思うのは人生で二回目のことだった。
一回目は中学時代、映画館で感動もしない恋愛映画に大粒の涙を流し、涙を拭いていた女の子に対して。
そして二回目が今回の女性。
中々出会えることのない魅力的な女性に、俺は声をかけたくなったが、社会人が大学のサークルの飲み会に参加している女の子に声をかけるなんて迷惑すぎるし、悪印象を与えてしまいかねない。
これは運命ではなかったと割り切って、声をかけるのはやめておこう。
というかあの子、どこかで見たことあるような……。
いや、きっと勘違いだな。
きっとまたいつか、本当に結婚したいと思える女の子と、運命的に出会える日がやってくるだろう。
そう未来に希望を持ちながら、俺はまた斉藤部長のジョッキにお酒を注ぐ仕事へと戻った。
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