第2話 【高校時代 】駅のホーム

 目的だった恋愛映画を見終えた私と恵梨香は、帰りの電車に揺られていた。


「叶織と映画行くのひさしぶりだったねー。いつぶりだっけ? 最後に行ったのって確か中二くらいだったよね?」


「かなり前のことなのによく覚えてるね。確か中二だったと思う」


「そりゃ覚えてるよ。叶織そんなに泣けない映画でおんおん泣いて大粒の涙流してたんだもん」


 恵梨香は中二の時に私と二人で見に行った恋愛映画の話を掘り返してきて、私はその時の映画の内容を思い出す。


「えーそんなに感動しなかったっけ? あの映画本当に感動したんだけどなー」


「いやいや、全然感動しなかったって」


 私はよく涙脆いと言われるし、自分でもそれを自覚している。

 どうにも感情移入しやすいタイプで、些細なことで涙を流してしまう。


 ニュースを見ていたら毎日流れてくる凄惨なニュースに涙を流しそうになるし、様々な情報が流れてくるSNSなんてもう見ていられない。


 なので私は誰も涙を流さないような感動しない映画でも、ところ構わず大泣きしてしまうのだ。


「みんな感動すると思うんだけどなー」


 そんなことを話しながら、自宅の最寄駅についた私たちは電車を降りて駅のホームを歩き始めた。


「疲れたー。今日の晩ご飯なんだろ」


「私の家はカレーだって」


「えーおいしそーだなー。じゃあちょっと叶織の家にお邪魔--」


「ちゃんと自分の家に帰りなさい」


 恵梨香と夕飯の話をしながら駅のホームを歩いていると、ホームから杖をついているおばあさんが階段を登って改札に向かおうとしている姿が目に入った。


 なんだかフラフラで足取りもおぼつかず、いつ転倒してもおかしくないように見えた。


 とはいえ、自力で登りきれそうな雰囲気もあり、


(おばあさんからしたら急に声をかけられたら迷惑かな……)


(周りの視線もあるしな……)


 なんてことを考え、声をかけることはできなかった。


(私が行かなくても、きっと誰かが助けてくれるよね……)


 そんな風に思った瞬間、おばあさんはバランスを崩し階段から転げ落ちそうになる。


「あっーー」


 私は思わず目を背けた。


「おっとっ……。おばあちゃん、大丈夫?」


 焦って目を背けた私に聞こえてきたのは、優しそうな男の人の声。


 おばあちゃんのほうに視線を戻すと、私の住む学校と同じ市内にある高校の制服を着た男の子が、おばあちゃんを支えていた。


「あ、ああ……。すまんねぇ。迷惑をかけて」


「大丈夫だよ。ほら、こんなところ無理して登らなくてもあっちにエレベーターあるから。一緒にエレベーターましょーよおばあちゃん」


「本当に助かるよぉ。ありがとねぇ」


 ……その瞬間、自分の不甲斐なさを痛感すると同時に、この人が将来私の旦那さんになったらいいのになぁと思ってしまっていた。


 これまでどの男の人を見たってそんなことは思ったことがない。


 将来私の旦那さんになる人のことを想いに想っている私だが、身近にいる男子に魅力を感じて、自分の旦那さんになってほしいと思ったことは一度もない。


「どうかした?」


「……ううん。なんでもないよ」


 一瞬その男の子に声をかけようかどうかも悩んだが、声をかける勇気は無かった。


 もしいつかあんな人に出会えたら、きっとそれが運命なんだと思う。


 もしかしたらそんな日が来ることはないかもしれないけど、そんな日を心待ちにしておくことにしよう。


 そして私は恵梨香に何も言わずにそのまま改札を出た。

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