プロローグ2

「はぁ……。どこでなにしてるのかなぁ。私の将来の旦那さん」


 高校二年の私、小草叶織こぐさかなおは電車に揺られながら、小さい頃からの親友である神崎恵梨香かんざきえりかと二人で映画館に向かっていた。


 私の言葉を聞いた恵梨香は呆れたようにため息をついている。


「あんたそれ口癖みたいに言うよね。そんなに気になる? 将来の旦那さんのこと」


「普通に気になるよ。だってなんか不思議じゃない? 将来一生を共にする旦那さんがさ、今の自分の人生には全く無関係の人って」


 将来結婚して死ぬまでずっと一緒に過ごしていく人が、今は全くの他人というのが不思議でしかたがない。


 そんなことを考えていると自ずと気になってくるのは、その相手が誰で、今どこで何をしているのかということ。


 どれだけ考えたってわかるはずもないのに、毎日のようにそんなことを考えてしまっている。


「まあそう言われてみれば不思議な気がしなくもないね。当たり前のような気もするけど」


「いや不思議でしょ」


「というか結婚できるかどうかもわからないし」


「私はともかく恵梨香は絶対結婚できるよ。クールだし物知りだし可愛いし。私は恵梨香の旦那さんがどんな人なのかもすごく気になる」


「自分だけじゃないんだね」


「うん。恵梨香の人生も、自分の人生と同じくらい大切だから」


「……ふふ。そんなことを言ってくれる叶織の未来の旦那さんはきっと優しくて、かっこいい人なんだろうね」


 もし私の未来の旦那さんが恵梨香の言う通り優しくてかっこいい人なら、今は別の女の子と付き合ってたりするのかな?


 その女の子とキスをしたり、体の関係を持っていたりするのかな?


 そんなことを考えてしまうなんて、やっぱり私は正常ではないのかもしれない。


「そうだといいけどね。恵梨香はどんな人が旦那さんだったらいいなとかある?」


「うーん……どうだろ。ヤンキーみたいな怖い人は苦手だから、静かで優しい人がいいかな。極端に言うなら……オタクとか?  ほら、内向的で奥ゆかしそうだし」


「流石にそれはないでしょー。恵梨香がオタクの男の人と付き合ったり結婚したりするイメージ全然ないし」


「付き合いたい人と結婚するべき人は違うって言うからね。ほら、もう駅着くよ。いつまでも将来の旦那さんのことばっか考えてないで、今を謳歌しなきゃ」


「……そうだね。今は今しかないんだし」


 自分の旦那さんがどんな人で、今どこで何をしているのか。


 そんなことを考えても意味が無いのは理解している。


 それでも、自分が何かで悩んだり辛い経験をした時に、未来の旦那さんがどこかにいて私を応援してくれているかもしれないなんて考えると、少しだけ勇気が出るのだ。

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