第33話 魔物とココア
リンドヴルムさんがダンジョンから離脱したからと言ってすぐに浅草ダンジョンの影響がなくなるわけがないらしい。なので一時間ダンジョンの入り口で待機して、許可が出てから帰宅することとなった。
許可がおりたのは十一時。朝も早かったしということで浅草で少し早いお昼を食べて、今日の夜ご飯のお寿司とお酒を買って帰ることになった。
お寿司は少し奮発したのでいつもよりも高いお寿司! 中トロとウニが入っていてとても豪華。食べるのが待ち遠しい。
家についてからお寿司のパックを写真に撮ってつぶったーに上げると、リスナーさん達もいつもよりも豪華とお祝いしてくれた。
ミノタウロスの討伐が出来たから。やっぱり少しずつ自分が強くなるのは嬉しい。
「真白。ココアが出来ましたよ」
家事が一段落ついたので、ソファーに座ってお寿司のつぶやきの返信を見ていたらリンドヴルムさんの声が聞こえた。
そのまま声の方向を見上げるとコップを二つ持ったリンドヴルムさんと目が合う。
「ココア?」
「はい。ミルクたっぷりです。疲れた時に良いんですよ」
「ありがとうございます」
ココアって疲れた時だっけ。まぁいっか。スマホを机の上におき、リンドヴルムさんからコップを受け取る。
受け取った瞬間ふんわりとココアのいい香りがした。
「良い香りですね」
「落ち着く香りらしいですよ」
リンドヴルムさんが私の隣に座りながら言った。なんか距離が近い気がするけど……。ソファーが一つしかないから仕方ないか。
リンドヴルムさんが座り終わったことを確認してからココアを一口飲む。
うん。美味しい。体に染み渡って、疲れが取れるようだった。
「リンドヴルムさん。ありがとうございます。美味しいです」
「ふふっ。見た目から考えられない美味しさですね」
リンドヴルムさんが興味深そうな表情でココアを見ていた。見た目から? 美味しそうなのに。
「見た目も美味しそうですよ」
「そう、ですね。ふふっ。真白といると好物が増えますね」
リンドヴルムさんがココアを見ながら目を細めて言った。相変わらず絵画みたいに綺麗な表情にドキドキしそうになりそうだ。
なるべく直視しないようにさりげなくココアに視線を移して一口飲む。落ち着く味だ。
「美味しい」
「ふふっ」
私の呟きが聞こえていたらしく、横からリンドヴルムさんの笑い声が聞こえた。
「無為に時間を過ごすのも良いですね」
「むい?」
「何もない平和な時間です。僕はもう少しここにいますが、邪魔はしませんので、真白もゆっくりしていて下さいね」
「ゆっくり? ああ。つぶやきを見ていただけですよ。リンドヴルムさんも見ますか?」
「はい」
机の上に置いていたスマホを取るとリンドヴルムさんも文字が読めるようにスマホを向ける。
すぐにリンドヴルムさんの視線がスマホに移動した。
「見てください。お祝いがたくさんです。ミノタウロスを討伐出来たって実感しますね」
「真白。ケンタウロスもですよ」
そう言いながらリンドヴルムさんが『ケンタウロス討伐おめでとー』と書かれた返信を指差す。
「あれはカウンふぁーあ」
話している途中で大きな欠伸が出た。恥ずかしくなって、リンドヴルムさんから少し視線をそらす。
「ごめんなさい」
「ふふっ。どうやらココアを飲んで緊張が途切れたみたいですね」
「緊張?」
「ええ、体は睡眠で回復しようとしているんですが、緊張が邪魔しているみたいようですよ」
ランナーズハイみたいになっていたのかな。さっきまで眠くなかったのに、眠いのかな? ……って意識したらなんか眠くなってきた。その前に洗濯物何とかしないと。
洗濯機に行こう。
「そしたら洗濯機を見てきますね」
洗濯機の時間を見に行こうと立ち上がろうとするとリンドヴルムさんが私に声をかける。
「終わるまで後三十分くらいかかりますよ。時間もありますし、お昼寝をしてからでも遅くないですよ」
「はひかに」
なら休もうと思ったら再びあくびが出てきた。
だんだんと目を開けているのも辛くなる。そのままソファーにもたれかけると沈むように意識が飛んでいく。
「おやすみなさい。ゆっくり休んでくださいね」
リンドヴルムさんの言葉が聞こえた気がした。
***
あれ、いつの間にか寝ていたんだ。
部屋の中が薄暗い。今何時だ? 居間? ソファー? なんでだろう。とりあえず、ソファーに起き上がりながら時計を探す。
六時。朝か。昨日の夜ご飯って食べたっけ? 食べてない。そうだ洗濯機が止まるまで寝ようと
「洗濯物!」
洗濯機を動かしたままだった。一気に目が覚める。寝てる場合じゃない。乾燥機にかけないと。
「真白。洗濯物なら片付けてますよ」
「えっ。あっ」
立ち上がろうとしたら、扉が開く音とリンドヴルムさんの声が聞こえた。相変わらず朝六時とは思わせない爽やかな声だ。
声の方向を見ると、そのまま「電気をつけますね」と言う声が聞こえ、すぐに部屋が明るくなる。
ちょっと眩しいけど眩む程ではない。そのまま目を開けているとリンドヴルムさんが視界に入る。やっぱり爽やかな笑みをしてこちらを見ていた。
「おはようございます。今日も早いですね」
「早い?」
一瞬きょとんとしたが、すぐに何かに気付いたのか、リンドヴルムさんがクスクスと笑う。
「真白。まだ夜の十八時ですよ」
「えっ」
「アナログ時計はわかりにくいですね。三十分以上は寝ていますが、そこまで寝ていませんよ。真白。お寿司は食べれますか?」
「お寿司? は、はい!」
お寿司と聞いたら急にお腹が空いてきた。そうだ。上寿司だった。その様子を見たリンドヴルムさんが微笑む。
「ふふっ。準備してきますね」
そう言うとリンドヴルムさんは台所へと向かって行った。
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