第4話 【こみゅ限定】今月の雑談 4

 今朝のミノタウロスとケンタウロス討伐配信の話も終わり、残すは次回の配信予告のみとなった。あっ。もう一時間経ったんだ。あっという間だな。

 最初は心配だったけど、いつも通りだったな。


「最後に次の予定ですね。オーガをランダム討伐します。所謂ガチャ配信ですね」


 軽い口調でリンドヴルムさんが言った。所謂と言っているが、ガチャ配信はダンジョン配信では聞いたことがない言葉だ。


『オーガは聞いていたけど、ランダム討伐か』

『何が出てくるかわからないからな』

『オーガガチャ…』

『当たりは緑鬼か』

『緑鬼来い』

『緑鬼引けるように祈っておく』

『緑鬼人気に嫉妬』

『火で燃えるから』

『燃えやすいから』


 次の配信は浅草ダンジョンの地下四階に出没するオーガの討伐をする。

 オーガは少し特殊な魔物で赤鬼、青鬼、緑鬼、黄鬼と四種類いて、それぞれ火、水、風、土の魔力に特化している。

 緑鬼は風に特化。だから火が得意な私は有利に戦える。


「皆さん、ありがとうございます! 何が来ても頑張ります!」

「真白。青鬼以外ですよ。初回なので青鬼は僕が引き受けます」

「そ、そうでしたね」


 水が得意な青鬼には私の攻撃が通りにくい。なので最初はリンドヴルムさんが青鬼を倒す事になった。

 と言うかそもそも私にオーガが早い気がするが、そこはいつものように流されてしまった。


『初回なので?』

『慣れたら青鬼も相手にするのか』

『水が得意な青鬼を燃やす?』

『相変わらずスパルタだな』


 きっとそうなるんだろうな。確認するようにリンドヴルムさんを見ると肯定するようにニコニコと笑っていた。


「青鬼を燃やす? おいおいですよ。まずは青鬼以外のオーガを三十体討伐です。いつも通り途中で真白がスタミナ切れを起こしたり、変異種のシュテンやイバラキに会った時は終了します」


 初回のゴーシールシャのことがあったので、私の配信には終了条件が出来た。目標の討伐数が一番だが、変異種の登場やスタミナ切れが起きたときは即終了。


 今のところ初回のケンタウロス以外は問題なく戦えているが、次はオーガ。未知の魔物に火事場の馬鹿力を発揮してしまったらすぐにスタミナ切れが起きる事だって考えられる。気を付けられるものじゃないし、ちょっと不安だ。


『おいおい』

『ですよ?』

『燃やすのはおいおいか』

『オーガ三十体』

『シュテンの輩出確率えぐそうだけど、なんか引きそうな気がする』

『地下一階でゴーシールシャに遭遇していたしな』

『シュテンにあったらどうするの? 逃げるの?』


「シュテンにあったらどうするの? そうしたら、僕が討伐して終了です」


 リンドヴルムさんがいつもの口調で言った。相変わらず緊張感が感じられない。シュテンは鬼の変異種の中でも強くて、竜の次に強いんじゃないかって言われるくらいなのにな。リンドヴルムさんは竜だからと言ってしまったらそれまでだけど。やっぱり格が全然違うんだろうな。


『せやな』

『やっぱりリンドヴルムに取ってはシュテンも敵じゃないのか』

『シュテンはどれくらい粘れるんでしょうね』

『普通はもっと緊迫感あるんだけどな』

『リンドヴルムだもんな』

『そういや、リンドヴルムより強い魔物っているのかな』

『見ている限りシュテンは眼中にはなさそうだな』


 あっ。どうしよう。リンドヴルムさんはリスナーさんの前では自分よりも強い魔物がいるとは言っていない。

 私は余計な事は言わないようにしないと。そう思いながらリンドヴルムさんを見る。


「シュテンはバジリスクよりは弱いですからね」


 流した。ならやっぱり私からもリスナーさんにはいってはいけない。そのまま何も言わないように意識してリスナーさん達のコメントを見る。

 リンドヴルムさんの強さに興味津々なのか、コメントは変わらずに勢いよく流れていた。


『バジリスクが格下なんだよな』

『やっぱリンドヴルムの敵はいないか』

『リンドヴルムの敵はリンドヴルムじゃね?』

『リンドヴルムなら』

『同族www』

『出てくるの同族の時点でもう』

『そもそもリンドヴルム以外のリンドヴルムおるんか?』


「僕以外のリンドヴルム? どうでしょうね。会ったことがないですからね」


 普通に話しているけど、これも魔衛庁に確認しないといけないやつだよね。

 リンドヴルムさんはうまくかわしているし、私は引き続き何も言わない方が良い。そのままコメントとリンドヴルムさんを見る。


『レアだしな』

『ついちょっと前まで伝説の竜王だったんだよな』

『リンドヴルムを見ていると伝説の竜ってなんなんだろうなって思う』

『もし別のリンドヴルムにあったら、リンドヴルムの事をどう呼ぶか考えないとな』

『闇のリンドヴルム』

『リンドヴルム(ヤンデレ)』


 あっ、雑談に戻った。リスナーさんもちゃんとした答えが欲しいわけではなさそうだ。良かった。この流れなら問題ないかな。


『闇じゃわからん』

『闇属性の光竜』

『ヤンデレだと初見が逃げる』

『初見は配偶者欄のくだりで逃げるから問題ない』


 このままいつも通りの雑談に変わる。リンドヴルムさんの呼び方か。リンドヴルムさんじゃないのかなって思っていたけど、リンドヴルムってそう言えば種族名だ。


「リンドヴルムさんの名前って」

「名前? 僕に名前はないですよ」

「ない!?」


 思わず言ってしまった。これ言って良い話かな? 誤魔化すように笑うとリンドヴルムさんが私の方を向き口を開く。


「ええ。ダンジョンで生活している分には不必要ですからね」

「それでも……。いえっ。リンドヴルムさんの名前は配信が終わってから話しましょう」


 リンドヴルムさんは気にしていなさそうだが、名前は大事だ。なんで一週間も一緒にいて気にしなかったんだろう。

 すぐに話した方が良いけど、もしかしたらリスナーさんには話してはいけない事もあるかもしれない。配信が終わったらすぐに確認だ。


「僕の名前をこの後にですか?」

「はい。大事な話ですし、配信が終わってからしましょうね」

「はい。わかりました。あっ、これから真白とな話をしてきますので終了しますね。また次も来てくださいね」


 リンドヴルムさんは最初不思議そうな表情をしていたのに、急にカメラに視線を移動すると、早口で言った。大事って部分だけ何故かゆっくりだった気がする。


『ドヤ竜』

『どうでも良さそうだったのに、真白ちゃんが大事と言ったら目が輝いたな』

『途中までどうでも良さそうだったのにな』

『大事だからな』

『大事』

『見事なまでの手の平返し』

『配信ぶつ切りww』

『まかさのぶつ切り』


 ぶつ切り? 確かにリンドヴルムさん締めの挨拶しちゃっているし、もう終わらせた方が良さそうだ。


「突然ですみません。今日の配信を終了します。みなさん。今日もありがとうございます。また次もよろしくお願いします」 


『しゃーない』

『どんまい』

『お疲れさまでした』

『おつかれ』

『話し合い頑張って~』

『おつ』

『おやすみ』

『またね~』


 急いで挨拶をし、リスナーさんコメントを見ながら待機画面に変えた。そして少ししてから配信を切った。

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