第3話 【こみゅ限定】今月の雑談 3
最初は緊張していた雑談配信だったが、いつの間にかいつものようにのんびりとした空気が漂い始めていた。
リンドヴルムさんも自分に関する話はさりげなく躱しているし、爆弾を投下する様子もないのでとても平穏だ。
私が余計なことを言わないかどうかにかかっていたが、そこも問題なさそうだ。
考えすぎて話せなくなりそうになった時はリンドヴルムさんが話を振ってくれて、まずそうな話題の時はさりげなく別の話を誘導してくれて、とかなりフォローをしてくれているので普通に話せている。
そう言うところをズルいと思ってしまうのはあまり良くないんだろうな。
“私に恋をして欲しくない”いつものように出てきそうな何かに蓋をするように心の中で呟きながらリンドヴルムさんを見る。
「実はあの配信の後、ゴーシールシャが来たんですよ」
ちなみにこれも雑談の範囲だ。
ゴーシールシャの討伐動画はアップロード済みだし、再生回数もさっき見たら二千万回が見えてきていた。
きっとここに来てくれているリスナーさん達は動画を見てくれただろうし、ただの振り返りだ。
『知ってる』
『動画見た』
『2000万回おめ』
『今日も配信ありがとうございました。21時からちょっとした動画を流しますね』
『ちょっとした動画(ゴーシールシャ討伐)』
『ちょっととは?』
『ちょっとの割にカロリーが高すぎたぞwww』
本当にリンドヴルムさんが来てから私の環境が一気に変わったな。変異種の事をこんなに軽く話す日が来るとは夢にも思わなかった。
コメント欄を見ながら改めて感じる。。
落ち着いているな。盛り上がっていないわけじゃないんだけど。ただ予想と違うリアクションなんだよな。
私はホームランを打ったとか、ハットトリックを決めたとかそんな感じの驚きを予想した。だけどリスナーさんの反応はデカ盛り料理が出てきたときの反応だ。
いや。ご飯は美味しいし、デカ盛りも凄い。ただなんかバラエティ感が強い。知らない内にバラエティ枠になってしまったかもしれないな。コメントを見ながら思う。
「ちょっとした動画ですよ。最初はショート動画にしようと思っていましたからね」
『ショート動画とは?』
『まじか』
『ゴーシールシャをショート動画?????』
『ショート動画だったのか』
『ショートって一分だよな?』
『すっご』
『あの動画、5分くらいだったよな』
『5分がトレンドにあがっていた』
『ゴーシールシャ。登場演出で尺を使っていたのか』
『登場演出が4分、討伐時間1分』
流石にショート動画投稿はみんな驚くみたいだ。リンドヴルムさんの言葉でコメント欄が一気にざわついた。変異種討伐をショート動画であげる人はいないしな。と言うかそこまで強い人は配信をしなくても生活が出来るから動画をあげることはない。
「変異種ですが所詮は牛ですよ。一分もあれば討伐出来ます。ですので最初はショート動画と思ったのですが、せっかくなので、リスナーの反応をリアルタイムで見る事にしたんです」
リンドヴルムさんの話は少し事実とは異なる。
配信に変わったのは私が「リスナーさんはどんな反応されますかね」とリンドヴルムさんに言ったからだ。
それならリスナーさんの反応がわかりやすいリアルタイム配信をしようとリンドヴルムさんが動画を作り直してくれた。
再編集は大変なのに真白が楽しんでいれば充分の一言で終わらせていたし、今も軽く大変さを感じさせない口調だ。本当に罪な男だ。
「真白」
“私に恋をして欲しくない”再び心の中で呪文を唱えているとリンドヴルムさんが私の名前を呼んだ。そのままリンドヴルムさんの方へ顔をむけると優しい表情のリンドヴルムさんと目が合う。その表情は反則だ。
「は、い」
「リアルタイム配信どうでしたか?」
「えっ。あっ。皆さんの! 皆さんのコメントがたくさん流れていて、凄かったです」
あっ。そうだゴーシールシャの話の途中だった。言葉が一瞬頭から抜けそうになったが、急いで思い浮かんだ単語を言う。そしてさりげなく視線をコメントへ移動する。
『真白ちゃんの配信も同じくらい流れてるw』
『討伐どころで見る暇ないのか』
『おつ』
『そっかリアルタイムで見るの初めてだったか』
『俺らにとっては見慣れた光景』
『ドヤァあああ』
『ドヤ』
『てぇてぇ』
「はい。配信中のコメントは後から見させて貰っていますが、リアルタイムで見ると全然違いますね。ゴーシールシャの棍棒が出てきた瞬間のコメントの勢いにはびっくりしました」
『ゴーシールシャの迫力は凄かった!』
『俺、ちょっと焦ったぞ』
『わかる』
『勝つのは知っていたけど、あの登場シーンだもんな』
『可哀相なのがゴーシールシャの唯一の見せ場だったことだな』
『ここまで圧勝だと見せ場がカットされなくて良かったと思ってしまう』
「本当に。リンドヴルムさんは手際が良かったですね」
ゴーシールシャ討伐動画を見直すとリンドヴルムさんは動く事などなくゴーシールシャを討伐していた。
見た目がイケメンのせいかあまり実感が湧かないが、討伐をする姿を見ているとやっぱりすごい魔物なんだろうなと思う。
『一応日本橋の支配者だしな』
『そうだな。一応』
『一応ってwww』
『草』
『アイビーの紋さえなければな』
『配偶者って言わなければな』
『良いところそこそこあるのに気持ち悪さで全てを台無しにしている竜王』
本当にわかる。リンドヴルムさんがもしもっと人間らしかったら私は恋に落ちている。
この歪な部分に救われている。ただきっとリンドヴルムさんにとってはどうでも良い事なんだろうな。恋をしないで欲しいと言っていたし。
頭の中で考えながらそっとリンドヴルムさんを見ると本人は気にしていないのか嬉しそうに笑っていた。
「真白から手際が良いと言ってもらいました」
そして、先程呟いた私の言葉を自慢げな表情でカメラに向かって報告していた。残念なのはこう言うところだ。とは思っても口にしなかった。
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