第37話 魔物の手
リンドヴルムさんは着ている服が問題ない事に満足したのか、あれからすぐに外出となった。
一緒に手を繋いで駅へと向かう。そう一緒に手を繋いで。……なんで私はリンドヴルムさんと手を繋いでいるんだろう? 私に触れて良いってリンドヴルムさんに言ったから?
真意を探るようにリンドヴルムさんを見るととても嬉しそうな表情をしている。もしかして私と手を繋いでいるから? いや、違うな。これはパフェの話をしているときの表情と同じ。
パフェが楽しみだからかな。考えてみると心なしかいつもよりも速く歩いている気がする。
それならきっと私を速く歩かせるために手を繋いでいるって所か。
リンドヴルムさんは私に対してそこまで考えていない。意図がわかるとちょっと腹立たしい気持ちもあるが、少しすっきりした。
再びリンドヴルムさんと繋がれた手を見る。私の手をすっぽりと覆ってしまうくらいに大きい。骨ばっていて私とは違うゴツゴツした男の人の手。
リンドヴルムさんって男の人。なんだよな。
リンドヴルムさんはお兄ちゃんより細くてモデルさんみたいだけど、背は私よりも高くて体格も意外とがっしりしている。
理想のタイプだからかもしれないな。って違う違う。急いで切り替えようとしたら「真白」と私を呼ぶリンドヴルムさんの声が聞こえた。
「僕の手、おかしいですか?」
「えっ、はっはい!!!」
急に呼ばれたので、急いで見上げると困ったように笑う。
「人の手に模してはいると思うのですが、真白の手と全く違いますからね」
どうやら私がリンドヴルムさんに手を繋がれて戸惑っているとは思っていないようだ。本当にこの竜は何を考えているかわからない。
そんなリンドヴルムさんにあなたの手が男らしいと思っていたとかは言えない。何とか他の言葉を考えていると、リンドヴルムさんの手が異様に冷たかった事に気付いた。そうだ
「違いますよ。ほら、手が冷たかったので。どうされましたか?」
手は握っているうちに暖かくなったが、リンドヴルムさんの手は最初とても冷たかった。
見ている限りはいつも通りで具合が悪そうでもなかったし、なんか楽しみにしている所を水を差しちゃいそうだから、なるべく気にしないようにしていた。
だけどやっぱり心配だし、もし体調が悪いって言っても、命令をしてでも別の日にちを変えよう。
「冷たい? それは体質です」
「体質?」
「人の形を模してはいますが、僕は竜ですからね。真白よりも体温が低いみたいです」
体調が悪いとかではなかったなら良かった。
そっか。体質か。昨日はドキドキしてそれどころじゃなかったが、よくよく考えるとリンドヴルムさんの手は冷たかったかもしれない。中身だけじゃなく外見も人と少し違うんだな。
「そうでしたか」
「はい。ですので気にしないで下さいね」
「特に気にしては……ただ冷たいから手を離そうとしただけです」
なんかここで心配していたと認めると負けた気がする。リンドヴルムさん相手には素直になれなくて、誤魔化すようにそっと視線を外して地面を見た。
「それはダメですよ」
いつもよりも低い声だった。なんとなく背筋が凍るような声色でそっとリンドヴルムさんへ視線を移す。
リンドヴルムさんは笑っているけど、笑っていなかった。と言うか空気も心なしか冷たい気がする。もしかしてやばいスイッチを押しちゃった?
「僕は真白がどこかへ行かないように手を繋いでいるんですよ」
私と視線があうとその表情のまま続ける。どこかにってどういうことだ? もしかしてこれダンジョンフラグ?
「どこか、ですか?」
なるべく刺激しないように恐る恐るリンドヴルムさんへ話す。
するとリンドヴルムさんから笑顔は消え、とても真剣な表情で私を見つめる。その瞬間、冷や汗が流れる。
「ええ。人の世界は通り魔や連れ去りなんてものがありますからね。そっちが悪いのに僕がうっかり人を傷つけたら真白の命令に背くことになるんですよ。なので僕の手は冷たくても我慢して下さいね」
なんだ犯罪に巻き込まれないようにか。良かった……ってよく考えると子供の手を引く母親じゃん。だからこの竜は。
本当に私のドキドキを残念な方向で裏切っていく。
「リンドヴルムさん。もしかして私の事を子供だと思っていませんか?」
「子供? 真白は真白ですよ。僕の大切なご主人様です」
真剣な表情がきょとんとした顔になる。確かに私は私だけど。……きっと伝わっていないな。それに危ないからって、子供扱いされているみたいであまり嬉しくない。
「危ないからって手を繋ぐのは子供ですよ」
「事件に巻き込まれるのに大人も子供の関係ないですよ。僕は真白を守りたいから手を繋ぐんです。必ず守りますので、この手は離さないで下さいね」
当たり前という表情でリンドヴルムさんが言った。異性として興味がないと釘を刺して来る割にさらっと私がドキドキするような事を言ってくる。
本当に何を考えているかわからない。心臓に悪い竜だ。
「私だって自分で何とかできますよ」
距離を感じさせるのに、たまに近づいてくる。そのせいか再び生まれた心の中のモヤモヤを出すように呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます