第31話 魔物と次の予定

 ゴーシールシャの魔力がなくなったらと思ったら、ゴーシールシャが消えていた。

 どこに消えたんだろう。そう思いながらゴーシールシャのいた場所を見ているとリンドヴルムさんが私の横にしゃがむ。


「あれ? ゴーシールシャは?」

「真白に魔力を吸い取られて消失しました」

「え? 魔力を吸い取られたから? 魔力がなくなったら消失するんですか?」


 どういうことだろう? リンドヴルムさんに尋ねるとリンドヴルムさんはふわふわと微笑んだまま答えた。


「ええ。真白が骨の髄まで吸い尽くしましたので、形を保てなくなり消失したんですよ」


 魔力がなくなると消失する。聞いた事がない話だ。そもそも魔力を吸収しても魔物の死体は残る。だから魔物の素材は流通している。


「魔力を吸い取った魔物の素材がありますよ」

「ほんの僅かですが魔物の魔力が残っているんです。消失するまで魔力を吸い取る人なんて限られていますからね。真白はそれが出来るほど魔力の扱いが上手なんです」


 コントロールが上手。あまり実感していなかったが、もしかしたら凄いことなのかもしれない。

 他の人よりも魔力を吸い取れるんだ。ん? 魔力を吸い取る。

 

「あっ。ゴーシールシャの魔力を吸っちゃった」


 つい吸ってしまったが、元々は自分でミノタウロスを討伐して強くなる予定だった。だめじゃん。恐る恐るリンドヴルムさんに声をかけようとしたら、リンドヴルムさんがクスクスと笑った。


「吸い取った分は体に割り振って下さい。今ので十六くらいにはなりますよ」

「体に? 十六? いやいや。レベルを上げるだけでは強くなれませんよ」


 力があっても戦い方がわからないと強くなれない。もう少し倒すまで残しておこうかな。


「ちゃんとレベルを上げてくださいね」


 どうやら気づかれていたみたいで、リンドヴルムさんに釘を刺された。それでもやっぱり腑に落ちない。


「理由があるんですか?」

「ええ。真白の実力がレベルを上回ったんですよ。これで次回の配信ではミノタウロスとケンタウロスを相手に出来そうですね」


 どうやら知らないうちにミノタウロスは卒業したようだ。……って次ってケンタウロスだけを倒す予定だったよね? もしかしてケンタウロスをソロで倒せたから、内容が変わった?


「ミノタウロスも相手にするんですか?」

「ええ。二匹が現れる場所に向かいます。ランダムに現れるので単体で相手をするよりも厳しいですが、今の真白なら問題ないですよ」

「相変わらずどこからその自信は出て来ているんですか?」


 はっきりと言い過ぎだ。ミノタウロスとケンタウロス。そんなに戦ったこともないし、そんな魔物が一度に来る。相変わらず目標が予想を超えている。


「真白が火の盾を作ったからです。あれは簡単には出来ませんからね」

「火の盾ですか?」

「ええ。あれはある程度魔力の扱いに長けていないと出来ませんよ。まぁ真白も完全に出来たとはいえ言いがたいですがね」

「わかっていますよ」


 あれは凄くいびつで盾と言って良いかわからないもんだった。攻撃を防げたから辛うじて盾になれたんだろうな。


「でしたら次はこのサイズにして下さいね」


 そう言いながらリンドヴルムさんが私の目の前に週刊誌くらいの光の板のような物を出した。

 このサイズにして下さい? 盾にしてはとても心許ないサイズだ。


「え? 形じゃなくて。それよりもそのサイズだと小さくありませんか?」

「綺麗な盾の形をしていましたよ。盾としては十分な性能ですが、今の真白には大きすぎます」

「今の私には?」

「ええ。あのサイズだと魔力の消費量が多すぎます。真白なら弓の軌道を追えますし、このサイズでも充分戦えます。実際ケンタウロスと対峙しないとわからないと思いますが、試してみて下さい。失敗したときはすぐに僕がフォローに入りますので」

「失敗って……失敗するのは嫌です」


 確実に戦いたい。あの盾で確実に倒せるのならそれが一番だ。


「そもそもあの大きな盾が失敗です。今みたいにスタミナ切れを起こしてしまいますよ」


 リンドヴルムさんは痛いところを突いてくる。確かに今の私はゴブリンですら戦えない。お荷物どころじゃない。


「……それくらい。わかってますよ」

「ふふっ。本当は称賛したいところなんですけどね」

「いいですよ。無理しなくても」

「無理をしていないです。真白が自分の力で盾を作ったのは眷属として誇らしいです」


 凄く優しい声色だった。リンドヴルムさんの表情が気になってさりげなく見ると、自分の事のように嬉しそうに笑っていた。そんな笑顔をされたら拗ねている私が子供みたいだ。


「無理だったら、大きくしますからね」

「はい。構いませんよ。スタミナ切れを起こさないで盾を使えるようにするのが次の目標です。真白は引きが強いので、何が起こるかわかりませんからね」

「引きが強い? 運が悪いの間違いですよ」


 ゴーシールシャと出会うなんてリンドヴルムさんと一緒じゃなければ確実にやばい状況だ。引きが強いなんて簡単に言わないで欲しい。


「いえ。配信者としてはかなり美味しいですよ。ゴブリンを討伐していたらリンドヴルムと出会い、眷属にする。ミノタウロスしかいない場所でケンタウロスと出会い、討伐。最後は眷属がゴーシールシャを討伐。かなり動画映えしますね」

「全く面白くないですよ」


 他の方の配信だったら凄くドキドキするけど、実際に起きると心臓がいくつあっても足りない。


「これからも動画映えすることが起きそうですね」

「そう言うと本当に起こりそうなので、言わないで下さいよ」

「ふふっ。僕がいるので問題ないですよ。今日だって見て下さい。可愛い眷属の雄姿です」


 そう言いながらスマホを操作する。クラウドを開くと撮影していた映像を私に見せた。

 先ほどはリンドヴルムさんの背中に隠れて戦っている様子が見えなかったが、前から見るとリンドヴルムさんはゴーシールシャに対して、余裕な表情で危なげなく戦っている。本当に凄い竜だ。


「この動画は魔衛庁の許可が取れたら編集してショート動画であげましょう」


 見ていたらリスナーさん達大興奮だったのにもったいなかったな。……って、知っていて切っていたよね? 何かあったのかな?


「そう言えば、無理矢理配信を切っていましたね。生だとまずいことがあったんですか」

「まずいと言いますか……。真白はリスナーの前だと頑張り過ぎてしまいますからね」


 困ったように笑った。どうやらリンドヴルムさんは配信していたら私がゴーシールシャに立ち向かいそうだと言いたいらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る