第30話 魔物と討伐

 ゴーシールシャが来る。突然の言葉に思考が止まりそうになった、それでも無理やり動かすように考える。


 ゴーシールシャはミノタウロスの変異種で牛鬼とも呼ばれている凶暴な魔物だ。

 大柄の体を存分に使い、棍棒を振り回しなぎ倒していく。

 その棍棒にはゴーシールシャの魔力が込められているので、体のレベルが三十五ないと触れた瞬間に死ぬ。なので今の私は確実に軽く触れただけで瞬間に死ぬ。

 そんな私が絶対出会ってはいけない魔物だ。だから隙をついて逃げるしかない。普通なら。


 だけど今はリンドヴルムさんが私の盾になってくれるので、私は大人しく後ろで突っ立っているだけだ。

 何も出来ない。いや何もしてもいけないのはわかっているけど、気持ちが焦るせいか、何か出来る事がないか考えてしまう。


「真白」


 リンドヴルムさんに呼ばれ、視線を移すとリンドヴルムさんが私に向かって柔らかい表情で口を開く。


「怖かったら目を瞑っていて下さいね」

「そんな自殺行為しませんよ」


 リンドヴルムさんが盾になってくれるとは言え、ゴーシールシャが私に攻撃してくる可能性だってある。敵わない魔物だが怖がっている暇はない。


「でしたら僕の戦いをしっかり焼き付けてい下さいね。真白もそのうちゴーシールシャと戦うことになりますから」

「そう、ですよね」


 私が強くなるための通過点にゴーシールシャはいる。体のレベルが二十三上がったら私はゴーシールシャと戦うらしい。と思うくらいに実感がわいていない。


「真白なら倒せますよ」


 なのになんでリンドヴルムさんは私の事なのにそうはっきり言えるんだろうな。ただその表情は私が初めてケンタウロスを倒したときのように、キラキラしていて眩しく見えた。

 恥ずかしいような嬉しいような気持ちを誤魔化すように適当に「はい」と返事をした。



 ***



 リンドヴルムさんと一緒に待つこと数分。綺麗に広がっていた青空が雨が降る時のようにだんだんと暗くなっていた。それと共に空が雲で覆われていった。

 雲が増えるにつれて共に小さな稲妻が所々光る。すぐにゴロゴロと雷が鳴る音がした。


 明らかな異変なので流石にゴーシールシャが来るのがすぐにわかった。


 リンドヴルムさんの後ろで警戒をしていると突然前から空間が避けるようにひびが入った。ひびは段々と大きくなり、形が保てなくなると崩れ落ち空間に穴が開いた。


 ゴーシールシャ? そのままじっと穴を見ていると穴から大きな棍棒が出てきた。そしてすぐ後にこの棍棒の持ち主…――五メートルくらいの巨大な牛頭の魔物が現れた。やっぱりゴーシールシャだ。


「ヴァア゛ア゛ア゛ーーー」


 ゴーシールシャは私たちを見ると殺すと言いたげな叫び声をあげ、棍棒を上げる。そして棍棒に魔力を集中させているのか、棍棒を光らせた。


 光が落ち着き、攻撃が来ると思ったら棍棒が消えていた? え? 消えた?

 ん? ゴーシールシャも突然消えて驚いてない? もしかしてリンドヴルムさんの力?


 やっぱりそうみたいだ。ゴーシールシャは突然の出来事に少し動揺していたが、すぐに右手に集中し、棍棒をもう一度作ろうとしていた。だがそれを阻止するように小さな光の玉がゴーシールシャの右手に触れる。

 そんなに強く触れていないのにゴーシールシャは触れた瞬間小さく呻き右手を庇うように左手で擦る。


 この光の玉はリンドヴルムさんの力かな。リンドヴルムさんへ視線を移すが、背中しか見えないのでよくわらかない。

 再びゴーシールシャへ視線を戻すと今度は空中にビーズくらいの大きさの小さな光の玉がいっぱい散らばっていた。

 いつの間にだろう。ゴーシールシャもどうやら私と同じタイミングで気づいたようで、光の玉を避けるように後ろへ下がろうとした。

 だがそれを許さないと言うように玉の光が大きくなる。ビー玉くらいに大きくなると別の玉と繋ぐように光線が出る。

 玉と玉の間にいたゴーシールシャは無数の光線で貫通された。


「ギィエ゛エ゛ェーー」


 ゴーシールシャは避けられず呻き声を上げる。それでもなんとか反撃しようとリンドヴルムさんに向けて雄叫びをあげながら拳を上げる。

 ゴーシールシャに反撃される。そう思った瞬間ゴーシールシャは膝をつき、そのまま倒れ込む。

 少し様子を見るがゴーシールシャが立ち上がる様子はなかった。


「真白。終わりました」

「終わり」

「ええ。もう動きませんのでゴーシールシャに触れて魔力を吸い取って下さい」

「は、はい!」


 火を出さないと。右手をゴーシールシャの方へ向ける。

 ……ダメだ。まだ回復してない。火は出そうもない。


「すみません。まだスタミナ切れで吸い取れません」

「火を通さないで直接吸い取るんです。今からやり方を伝えますね。まずはゴーシールシャに触れて下さい」

「は、はい」


 ここで断るなんて選択肢はなさそうだし、どうにでもなれとゴーシールシャに近付く。

 それでもやっぱり動いたら怖いので恐る恐るだ。だんだんとゴーシールシャとの距離が短くなり、すぐに触れる距離まで近付く。

 もう一度動かないよね? ゴーシールシャに近付くをじっと見るが動く気配はない。大丈夫だ。そう心に言い聞かせると覚悟を決めてゴーシールシャに触れた。


「触れましたね。でしたら目を瞑って下さい。ゴーシールシャの魔力の感覚がわかったら教えてください」

「はい」

「こんなに早く……流石ですね。そのままそれを自分の体に入れて下さい。そうですねストローで飲み物を吸い取るイメージをして下さい」

「はい」


 ストロー。思いつく限りの事を考えながらゴーシールシャに触れる。頭の中にシェイクが浮かんだ瞬間、何かが私の手の平を通して流れ込んできた。


「わっ」


 思わず手を離してしまったが、きっとゴーシールシャの魔力だ。


「すみません」

「いえ。初めてですしゆっくりで構いません。吸い取れるだけすいとって下さい。ミノタウロス七匹分くらいの魔力は手に入りますよ」

「はい」


 再びゴーシールシャに触れ目を瞑ってから頭の中にシェイクを思い浮かべると少しして再び何かが私の中に流れ込む。これがゴーシールシャの魔力だ。今度は手を離さないようにしないと。

 気をつけながら魔力を吸い取っていたが、しばらくすると魔力が吸い取れなくなった。もしかして吸い取り終わった? ゆっくりと目を開けると、目の前には何もなかった。


 あれ、ゴーシールシャが、消えた?

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