第25話 【朝活】僕より弱いヤツに会いに行きます 2

 一人で戦うと言っても私一人ではミノタウロスを見つけられないのも確かだった。

 結局リンドヴルムさんにミノタウロスの出現時点に案内して貰い、地下一階の奥へと進んで行く。

 奥に行く必要があるのは、ダンジョンの入り口付近の魔物は軒並み冒険者に討伐されるからか、だいたいの魔物は奥の方にいるからだ。


 緊張してまわりの様子を窺いながら恐る恐る歩く私とは正反対にリンドヴルムさんはリスナーさん達と雑談していた。

 所々聞こえるのがパフェとかズコットケーキだったので、多分他愛ない話なんだと思おう。


「スーツ……あっ。真白。この辺りからミノタウロスが現れるので気をつけて下さいね」


 リスナーさん達と話している途中でリンドヴルムさんが途中で私に声をかける。凄く不穏な単語が聞こえた気がするけど、今はそれどころじゃない。


「この辺りから?」

「ええ。そろそろミノタウロスの生息エリアです。きっとすぐに現れますよ」


 リンドヴルムさんの言葉でまわりを見るが、入り口と大きく変わらない草原だった。だが二十分くらい歩いているので結構奥に進んでいる。そろそろミノタウロスの生息エリアに着いていてもおかしくない。いつ来ても対処できるように息を吐いて気持ちを落ち着かせる。


「隠れられる木が少なく、ケンタウロスは来れませんので、来る魔物は全てミノタウロスと思って下さいね」


 リンドヴルムさんの言葉で周りを改めて見渡すと木は生えてはいるがまばら。確かにこれならケンタウロスが襲ってくることはなさそうだ。

 ミノタウロスは数値だけなら私が上。火が当たれば倒せる。すぐに魔力を出せるように右手に魔力を集めるように集中する。


「はい」

「あっ。言っているそばから来ましたね。真白。頑張って下さいね」


 リンドヴルムさんの言葉で急いで耳に集中すると後ろから牛の鳴き声がした。

 振り返るとすぐに2mくらいの斧を持った牛頭の魔物が視界に入る。


 ミノタウロスだ。


 ミノタウロスは突撃して、相手がよろけたところを斧で切り裂く。突撃されたら終わりだ。なのでその前に火で燃やすしかない。タイミングをあわせて火柱を出す。やることは単純だ。


 ミノタウロスが私の火の射程圏内に入る少し前に火柱を出した。

 無事間に合ったようで、ミノタウロスは避けられずに勢いよく私の火に突っ込んだ。そしてすぐに動きが止まる。効いている。このまま燃やそう。

 急いで火の量を強くするとすぐにミノタウロスから魔力を吸収した感覚があった。倒せた? それでもミノタウロスだ。いつもよりもゆっくりと火の勢いを減らしていく。そして最後火がなくなるとそこにはミノタウロスも一緒に消えた。


「倒せたみたいです」


 ミノタウロスから魔力を吸収した感覚もある。だけど実感がわかない。まだ心臓はバクバクしてるし、足の震えが今さら襲ってきた。


 あっ、立てない。


「うっ、うわっ」


 そのまま地面にぶつかると思ったが、痛みはなかった。

 見上げるとリンドヴルムさんのどアップが視界に入る。すぐにリンドヴルムさんが支えてくれたんだとわかる。

 リンドヴルムさんは私が重いのか、苦い顔をしていた。


「真白。支えても、良い、ですか?」


 苦しそうな表情だった。良いですか? もう支えてるのに変だな。


「はい」


 ただこのまま離されて地面に落とされると困るし、頷くとリンドヴルムさんの表情は少し楽になり、何事もなかったかのようにゆっくりと私を立たせた。


「真白の実力でしたらこんなものですよ。ねっ、リスナーのそう思いますよね」


 私から離れると当たり前と言う感じで言った。そのままリンドヴルムさんは地面に落ちていたスマホを拾い私に見せる。そこにはコメントが勢いよく流れていた。


『( ゜д゜)』

『(つд⊂)ゴシゴシゴシ』

『うおおおおおおお』

『すげえええ』

『ま?』

『倒したの?』


 リスナーさん達は驚いているようだった。リスナーさん達になんか言わないと。


「えーっと……倒せた。みたいです」


 やっぱり実感がないからか、うまく言葉が出ない。言葉を考えているとコメントが更に勢いよく流れる。


『みたいじゃないよw』

『草』

『ちゃんと真白ちゃんが倒してた』

『凄かったよ!』

『真白さんの火でしたよ』

『おめでとう』

『おめ』


 真白が倒した。おめでとう。勢い良く流れるコメントで段々と実感がわいてくる。そっか私がミノタウロスを倒したんだ。


「倒せました!」


 段々と実感してきた。嬉しさや誇らしさや色々と混ざって、言葉が纏まらない。頭に浮かんだその一言を出すと、更にたくさんコメントが流れる。


『知ってる』

『見てたぞ!』

『うん』

『真白ちゃあああん』

『感動した』


「ありがとうございます」


 リスナーさんの言葉が嬉しい。リンドヴルムさんにも報告しようとリンドヴルムさん方へ視線を移すと誇らしげな表情をしていた。


「真白は僕のご主人様ですから」


 相変わらず当たり前と言わんばかりの表情だった。それでもリンドヴルムさんが嬉しそうで、なんだか照れてしまいそうになる。隠すようにコメントを見ると相変わらずたくさん流れていた。


『後方ペット面』

『どやる気持ちもわかる』

『この子、本当に一年目なんだよね』

『ダイヤモンドの原石じゃん』

『本当に支援出来ないのがもったいないな』

『収益化はよ』

『とっくに収益化してるけど、本人が切ってる』

『つファンコミュニティ』

『ファンコミュニティ』

『ファンコミュニティ一択』

『後高評価』


 気付いたらリスナーさん達がファンコミュニティと勧めていた。お金もかかるしそんな簡単に勧めないで欲しい。


「配信を見てくれるだけで充分です! コミュニティはお気持ちです」


 そう言うが、すぐに「ファンコミュニティに加入しました」という文字と「コミュニティギフトを贈りました」と言う文字が一気に流れる。

 そして落ち着いたらリスナーさんの文字の色が一気にオレンジに変わる。今、視聴者数は二百五十万人。なのになんでコメント欄がこんなにオレンジなんだろう。


「皆さん。あの、無理はしなくていいですからね。えっと、ご加入して頂いて嬉しいです。コミュニティ参加とコミュニティギフトありがとうございます。これからも頑張ります」


『頑張ってる(定期)』

『寸志』

『もう少し自信持ってwww』


「ん?」


 コメントを見ていると牛の鳴き声が聞こえた。さっきと同じような声。ミノタウロスだ。

 火を出す準備をしながら声の方向を見るとすぐに私の視界に何かが入る。待ち構えるようにそれを見つめるが動く気配はない。


 見ていたらその何かは突然発光した。なんで? 離れているからかそこまで眩しさはなく、そのまま凝視しているとすぐに光が落ち着いた。


 あれ? 何もない。


「ふふっ。ダンジョンの中だと忘れるくらいに嬉しかったんですね」


 リンドヴルムさんは何か知っているような言い方だった。発光。もしかして……


「リンドヴルムさんが倒されたんですか?」

「ええ、もちろんあれはカウントしませんよ。今日の僕は真白専属のトレーナーなので厳しくします」

「もちろんですが。あの、すみません。気を引き締めます!」


 ミノタウロスを倒せたからと浮かれてしまった。これは良くない。再び集中するように小さく深呼吸をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る