2.魔物防衛庁
第13話 魔物と朝ご飯
朝、起きるとすぐに寝室から出て、居間に続く扉を開けた。
居間には誰もいなかったので、夢だったと一瞬嬉しくなったが、隣の作業部屋から漏れでた光で一瞬のうちに現実から戻される。
開いている扉から中を覗くと、リンドヴルムさんが昨日と同じ真剣な表情でパソコンを見つめていた。
やっぱりリンドヴルムさん住み着いたのは夢じゃなかったか。ってそれよりもリンドヴルムさんはもう作業しているの? もしかして昨日の夜から? ちゃんと寝たのかな?
「おはようございます」
リンドヴルムさんが椅子を私の方に回転しながら言った。どうやら私に気付いていたみたいだ。その笑顔に隈はなく、徹夜を感じさせないくらい爽やかだ。
「おはようございます」
「動画は特に問題なかったですよ。真白の記憶の範囲だと魔衛庁の許可がおりそうなので、タイムスタンプと切り抜きも作っています。落ち着いたら確認して下さいね」
「はい」
「僕への質問は今確認していますので、もう少し待ってくださいね」
はやっ。もうだいたい終わってる。やっぱ徹夜しているよね。体は大丈夫なのだろうか?
「あの、リンドヴルムさん?」
「はい」
「昨晩は寝られましたか?」
「寝てます。ソファーは心地良くて寝過ごしてしまいました」
リンドヴルムさんが気まずそうに笑った。寝過ごしたって……まだ朝の八時だ。その言葉は今起きた私にささる。
「いやいや。そしたら今起きた私はどうなるんですか」
「真白は人ですよ。僕は竜なのでそんなに眠らなくて活動できますよ。半年くらい寝ないのはよくあることですし」
「そう、ですか。無理しなければ良いですよ」
「はい。ありがとうございます」
半年……。桁が違う。睡眠時間が明らかに短いのが気にはなるが、半年って言われちゃうとな。本人が良いって言うのなら気にしない方が良いか。なら朝ご飯を作ろう。
「朝ご飯を作りますね。リンドヴルムさん何か食べたいものがありますか?」
リンドヴルムさんが驚いた表情で私を見ていた。なんだろう、言葉を待っているが何も言う気配がない。もしかして朝が苦手なのかな?
「朝が苦手だったら無理して食べる必要はないですよ」
「いえ。食べます! 作りましょう」
そう言いながらリンドヴルムさんが椅子から立ち上がった。
作りましょう。あっ。ご飯の準備を手伝ってくれるんだ。けど質問をまとめるって言っていたし、そっちの作業も大変だよね。
「いえ。朝ご飯は私が作るので、リンドヴルムさんは質問をまとめていて下さい」
「はい。わかりました」
リンドヴルムさんはそう言うと椅子に座る。嬉しそうに笑っていたのが、気になったけど気にせずに台所へ向かった。
朝ご飯。何を作ろう。一人分だったらあまり気にしなかったけど、リンドヴルムさんの分もと考えると難しくなる。
リンドヴルムさんって何が主食なんだろう。うーん。まぁ普通に昨日お弁当を食べていたし、私と同じで大丈夫だろう。結局いつも通り食パンと目玉焼きを一つの更に乗せて完成。リンドヴルムさんがどれくらい食べるかわからないけど、足りなかったらパンをまた焼けば良いか。
それからコーヒーを淹れてお皿の横に置く、冷蔵庫からジャムとソースを机においてリンドヴルムさんを呼んだ。
「リンドヴルムさん。朝ご飯が出来ましたよ」
「はい。今行きます」
配信部屋からリンドヴルムさんの声が聞こえたと思ったら、すぐに部屋から出てきた。
「わぁー。真白の手料理!」
リンドヴルムさんは机の上に乗った料理に気付くと早足で来た。ソファーに座るとポケットからスマホをだす。すぐにパシャリと音がした。写真を撮るな。
「そんなたいした物じゃないですよ」
ニコニコとしながらスマホを操作するリンドヴルムさんに対してため息をつきながら言った。
そこまでのものを作っていない。そう思いながらリンドヴルムさんを見ると、私とは正反対に幸せなのが満面に伝わるくらいの笑顔をしていた。
「僕の朝ご飯を真白が用意してくれたんですよ」
大げさだ。私はそんな大層な物を用意していない。
「ただの料理ですよ」
「僕はご飯を食べないと死んでしまいますからね。そんな僕にご飯を与るのは生きてと言われているようで嬉しいです」
感覚の違いか。毎回そんな風に言われたら、疲れるな。それに餓死って、私はそこまで冷たい人じゃない。
「餓死ってそんな事はしませんよ。そもそも一緒に暮らすんですよ。二人分ご飯を用意するのは当たり前です。ご飯を与えるとかそんなのもないです」
「真白にとっては当たり前かもしれないですが、魔物は自分のご飯しか考えられませんからね。ご飯を用意して頂けるのはとても嬉しいです」
こうやって好感度があがるのも考えものだ。たいした事をしていないのに、難しいな。
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