第14話 魔物と感想フォーム

 朝ごはんを食べ終えるとリンドヴルムさんが私を作業部屋へと呼んだ。作業部屋の行き、言われるがままに椅子に座るとリンドヴルムさんが横でマウスの操作をはじめた。


 とりあえずモニターを見ていると、表計算ソフトが立ち上がった。そこには『あの魔物の正体なんですか?』『なんでスライムNG?』など書かれた表があった。


「フォームに届いている質問から僕が答えられるものを抽出しました」


 モニターを見ていたらリンドヴルムさんの声が聞こえた。質問の準備も終わったんだ。質問はだいたい二十個。思ったより少ない気がする。


「少ないですね」

「厳選していますからね。実際は結構来ていますよ」

「そうなんですか? フォームを見ても良いですか?」

「構いませんが、そんなにみるものじゃないですよ」


 歯切れが悪いな。もしかして悪口が書いてあったとか? 気になるけどなんか怖い。


「何かあったんですか?」

「いえ、くだらないだけですよ」


 返事に戸惑っているとリンドヴルムさんが苦い顔をしながら言った。ん? くだらない? 誹謗中傷じゃないの?


「くだらない?」

「プリンに醤油をかけるとウニの味がするみたいですよ」

「は?」


 プリンと醤油。突然なんだろう。そのままリンドヴルムさんの言葉を待っていると、再び口を開いた。


「質問も来ていますが、こんなことばっかりです。遊ばれていますよ」


 ため息をつく。どうやら質問フォームは凄い事になっているらしい。


「真白への感想も来ているので、許しますが」

「許すんですか?」

「ええ。仕方ないです」


 リンドヴルムさんが少し拗ねたような声で言うとマウスを動かし、ブラウザを開いた。すぐに感想フォームと書かれたページが視界に入る。


「ん? 感想? 質問フォームじゃないんですか?」

「ええ。思ったよりも真白への感謝が書かれていたので、感想フォームに変更しました」


 そう言いながら私にマウスを渡した。そのままマウスホイールでスクロールしながら見ていく。感想や質問の他に色々とコメントのように書かれていた。


『スライム何者ですか?』

『大丈夫? 襲われたりしていない?』

『いつもありがとう!』

『支援させてくれ』

『日本橋なら寿司処鶴屋がおすすめ』

『あのスライムは本当に真白さんの好みのタイプなの?』

『応援しています!!』


 質問、感想、情報と色々ごちゃごちゃしている。それにしてもスクロールバーの短さが異常だ。リスナーさんが送ってきてくれるのは嬉しいけど、ずっと読んでいると疲れそうだ。

 それでも嬉しいことは確か。所々書かれている優しい言葉にはほっこりとする。あれ? 意外と悪いことは書かれていない。


「誹謗中傷は少ないんですね」

「真白が作っているように見せているようにしていますからね」

「私が?」


 マウスから手を離すとリンドヴルムさんが再び操作した。ブラウザを見てると私のつぶったーのアカウントが表示される。そこには入力した覚えのない投稿があった。


『配信見てくれてありがとうございました。今日の動画の公開については魔衛庁に確認してから改めてお話します。ごめんなさい』

『心配してくれてありがとうございます。今日はアップルティー飲んで休んでいます』

『魔物について私が勝手に話して良いかわからないので、もう少し待ってください。魔衛庁に確認するので、質問はこちらにお願いします。質問フォーム →http://...』

『質問フォームが思ったよりも沢山でびっくりしました。心配してくれてありがとうございます。皆さんの気持ちが嬉しいので、質問はやめてこれからは感想フォームに変えました。全部読めるかわからないけど良ければどうぞ。感想フォーム →http://...』

『DMやメールがパンクしちゃって、しばらく連絡がとれそうもないです。ごめんなさい』


 私が投稿するような内容だ。これならリンドヴルムさんが投稿したって気付かないだろうな。

 勝手に投稿されるのは思うところがあるが、そこまで気がまわらなかったから、助かった部分もある。

 これからは今まで通りマイペースとはいかないんだな。

 リスナーさんの反応は……。ん? 閲覧回数百万?


「ひゃ、百万!」


 見たこともない数字に驚きつつも確認するようにリンドヴルムさんを見る。リンドヴルムさんは特に気にせずにスマホをいじっていた。


「チャンネルの方はそろそろ……あっ、もう二百万に行ったみたいですね」


 そう言いながら私にスマホの画面を見せた。そこには「真白チャンネル」と書かれた私のチャンネルが表示されていた。そして登録者数は二百十万と書かれていた。


「えっ」

「まだこんなもんですよ。肝心の映像がないですからね」

「映像?」

「僕の事をただの人だと思っている人もいますからね。もしこのまま登録者数が増えなかったら、一回竜の姿になってみましょうか。そうすれば一千万はいくでしょう」


 バズるために竜になる。相変わらず考えが読めない。

 それによりもリンドヴルムさんにとって、この数はまだまだなんだ。確かに竜王と呼ばれている魔物。知名度からもっと登録者数が増えても良いのかもしれない。


「そうですか」

「まずは魔衛庁の確認してからなんですけどね。制限があるとやりにくいですね」


 そうだ。魔衛庁に確認しないといけない。昨日はリンドヴルムさんが役に立つと言っていたが、ダンジョンに返せって急に変わる事だってありえる。そしたらもれなく私もダンジョン行きだ。考えただけでも震えそうだ。


「魔衛庁、ですよね」

「どうされたんですか?」

「リンドヴルムさんをダンジョンに返せと言われたらどうしましょうね」

「きっと言われないですよ。リンドヴルムと明かす前の僕にも利用価値を見つけた。僕のことを悪く扱わないでしょう。何か言われたら手土産に六本木ダンジョンでも取り戻しますよ」


 さらっと言っているが、そんな簡単な事ではない。


「いやいや。そんな危ない事は、怪我とかしたら」

「毒蛇相手に怪我なんてしませんよ」


 はっきりと言い切った。六本木ダンジョンの支配者を毒蛇扱い出来るほどの実力。やっぱり竜王の名は伊達ではない。


「強いんですね」 

「ええ。一対一でしたら、どんな人も僕には敵いませんよ。ですので味方にしたら心強いと思われるよう尻尾くらい降りますので、安心して下さい」


 リンドヴルムさんが目を細めた。安心……して良いのかわからないけど、とりあえず私はこの家で過ごせるとポジティブに考える事にしよう。そうしないとやってられない気がした。

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