第22話 さて、教えて貰おうか?
「………家…か。」
こりゃ…逃げられたな…。
今いるのは自室のベッドだ。
ドアが開く。母親がタオルを持って入ってきた。
目が合い、お互い見開いてホッとする。
「あら、起きた。またよく寝てたわね。」
「すみません……。」
「今回は二週間寝てたのよ。一応…心配してたのよ。」
「ごめんなさい……。」
「…体はどう?」
「多分、大丈夫…かな?」
「…そう、よかった。起き上がれるならお父さんに顔見せに来なさい。」
「はい。……色々ありがとう…。」
「いいのよ。」
母は偉大だ…。
どうやら魔王になんかやられて、寝てる間にここに運ばれたらしい。
まぁ、確かに俺は夜にひっそり出かけて、何もなかったかのように帰って寝てる。
だから、翌朝、家にいないと家族が驚くし、仕方ない対処だったんだろう…と思う。
逃げたとも言うと思うが…。
俺になにも説明しないで、いきなり眠らせたことについて、色々聞きたかったんだよ。
「……父さんに会いに行くか…。」
日が完全に上がっている。
畑に出てるかな?
ふらふらしながら水を飲む。
居間にいくと暖炉の鍋にはお粥がセットされていた。
「…有り難いな。」
家族の優しさだ。
玄関ドアを開けて、畑に視線を向けると、父親がしゃがみ込んで草むしりをしてる。
なんだか、眩しく感じる。
「…父さんっ!おはよー!」
「………っ!?……起きた…のか。」
振り返り、目を合わせると母と同じ反応をする。
夫婦だなぁ…。思わず笑顔になってしまう。
「…元気…か?」
「うん。…心配かけてごめん。」
「いや、よかった。」
うん。俺も貴方たちの息子でよかった。
夜に俺似合わせてお粥、両親もお粥を食べる。
ほっこり。
しっかり出汁がきいてる。
卵も入っててこれだけで幸せです。
で、夜。
皆寝静まった後に魔王城近くの森に転移する。
「……、やっぱり来たな。」
ラスがこちらを振り返る。木に寄りかかって待っていたようだ。
「…そりゃね。あんなことされた後放り出されたら戻ってくるでしょ?」
「何が訊きたい?」
肩をすくめるようにして、微笑する。
とりあえず訊きたいのは…
「……ラスは《賢者》の何が必要なの?」
「それは、答えた方がいいか?」
感情のない表情で俺を視る。
考えを読み解くことはできない。
「………いや、やっぱり…いい。」
俺を試すのに毒を使ったのも、やっぱりあのことを俺が知っているか確かめるためだったんだ。
俺…というより《賢者》であることが重要で。
なんだろう、息が詰まるような胸の苦しさを覚える。
やめよう。
話題を変える。
「……ラスは、俺から見るとマーレ神と同じような感じがするんだけど、これは偶然じゃないよな?…あんた何者?」
「……それは俺が加護を与える側だから、そう感じるんだろうな。」
「やっぱりそうか…。じゃあラスは神の系譜なんだ?…だから記憶を持ち続けてるの?」
「……過去を覚えていると、よくわかったな。…長くなるが聞くか?」
「………うん。」
始まりはおぼえていない。
気づくとそこは、暗闇の洞窟だった。
やることがなかったから、洞窟を隅までくまなく探索してしばらく1人で過ごしていた。
洞窟は行き止まりで、閉じられたものだと気づき、次は壁を壊す方法を考えた。
……それは直ぐに出来た。
その時は、何故かはわからないが、破壊のやり方は知っていたんだ。
そして外を知った。
眩しくて、キラキラした世界だと思った。
洞窟を出てからは外を眺めて、面白そうなものを観察して過ごした。
言葉も覚えたし、怪しまれないように、周りに合わせて自分の姿を変える術も覚えた。
同時に気づいた。
俺はどこにも属さないモノだと。
どの生物も生死があるのに、俺はない。
幾度となく別れと出会いを繰り返した。
知ってからは、俺は俺であることが苦痛になった。
数百年もすると、人間が生物たちの頂点に立つようになり、人間同士で戦うようになってくるようになった。
その時代に、俺と同じような存在が多く生まれてきた。
マーレ神もその1人。
奴は俺に闘いを挑んできたが、俺が無視していたらさらに煩く絡んできた。
一度だけ手合わせしてやったら、それから人が変わったように大人しくなったけどな。
同士の中でも、マーレが1番付き合いが長くなったが、俺は満たされなかった。
同士が出来ても、心は孤独だ。
俺は俺であることに疲れた。
辞めたい。
だから、マーレに頼んでそのツテを使って、生み出したんだ。
俺を終わらせてくれる奴らを。
「…それが《聖女》《勇者》《魔導士》だ。」
「………。《賢者》が抜けてない?」
「賢者は……俺が願ったことを歪曲してできた存在だ。…マーレが考えた。多分、俺へのお節介込みだろう。」
「……だから俺には生まれつきマーレ神の加護が付くのか。」
魔王の横顔を見つめながら、今までのマーレ神の言葉を思い返す。
この2人は、どこか似たような言い方をしていた。
共に過ごした時間の長さも、人間にはわからないくらい永久のものだったのだろう。
ラスが視線だけこちらに向ける。
「私は殺されたい。だが、世界の理がそれを邪魔している。いつの間にか魔物が俺を慕い、魔王として崇めた。……私が、破壊と孤独の神だからな。」
何回か魔王は討伐したはずだが…
次の魔王は新たに生まれるのではなく、その度にラスは復活していたのか。
いつも姿が異なるのは、周りに合わせて配慮していたからだったようだ。
なんとも言えないが…これだけは言える。
「破壊は必要だよ。より良いモノを作るために。」
近づいて肩に触れる。
ラスが少しだけ緊張したのがわかる。
「……マーレ神が《賢者》を望んだのは、敵でも味方でもラスの願いを追考できる者…だったのかな?」
「アイツの考えはわからない。だが、魔王を倒すように働きかけてはくれている。長年、人間の無意識下に魔物は敵であると、仕込ませてくれている。マーレも闘いの神としての質が上がるのだから、持ちつ持たれつだな。」
なるほど…。
「……ラスの望みは、死ぬこと…でいいのか?」
「………あぁ。」
魔王は聖なる魔力でしか、倒せない。
今までもそうしてきた。
だが、消滅まではしていないその存在を、どうしたら死に向かわせてやれるのだろうか。
「……まぁ、まだ時間はある。聖女に復讐してから考えても遅くはないぞ?」
「……そうだな。」
ラスの肩に額を当て、その温かさを感じる。
少しだけ寂しいと思ったのは、
……きっと気のせいだ。
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