第17話 王命は逆らえない。(勇者目線)
「座学…ですか?」
「うむ。今後は魔族と戦闘になるゆえ、魔族と人間の関係を理解し相対することで、より戦闘を有利にする目的だそうだ。」
「僕、あまり難しい文字が読めませんが…大丈夫でしょうか?」
「そこも含めて学ぶと良い。来月には遠征に参加するからな。実戦のまえに弱点や動きなどは把握しておくとよい。」
今日の訓練が終わり、剣を締まっているとジョシュア様から、まさかの王命を聞いた。
訓練は少し減るが、座学の時間が増える。
座学ということは宿題もあるのか?
ね…眠る時間が減る…??
絶望だ…
「アーサー、魔族は口が上手いからな。…如何に騙されないよう、己の知識を向上させられるかも大切だぞ。」
「……はい…」
思考を読まれてるような発言に、はいとしか返事ができない。
ジョシュア様にお礼を言い、食堂に向かう途中、明日以降のスケジュールをいつの間にかいた間者に渡される。
「朝食後直ぐに座学…午後は剣術の訓練。たまにある合同訓練って…、騎士とのやつかな?」
「…お!アーサーじゃん。」
小走りで寄ってきたのは、ここでの唯一の癒し、トリトンだった。
「最近会わなかったな!本当無茶な扱きされてるよなー」
「いや、明日から座学も入るから、少し体は楽になりそうだよ。」
「座学…?」
食堂までの廊下を二人で歩きながら、アーサーの予定表を渡して見せる。
「うわー、座学しかも歴史とか学生の時のやつだけで勘弁だ。」
「対魔族学は面白そうだけど…難しそう。僕、難しい文字が読めないからな…」
先が思いやられる…。苦笑しながら食堂の扉を開ける。
トリトンが予定表を返してきたので折って服のポケットにしまい込む。
今日もトリトンに肉を勧められて、肉が倍の量だ。
食前の祈りをしてから食べ始めると、トリトンが遠慮がちに問うてきた。
「…じゃあ、俺が文字くらい教えてやるよ。今から少し時間あるだろ?」
「え!?…でもトリトン、君も朝早くから訓練してるだろ?大丈夫?」
「少しだけだから大丈夫だよ。少しでも知ってると安心するだろ?」
確かに、読めないものが一つでも減ればもうけもんだ。
「……じゃあお願いしてもいい?」
「もちろんさ!じゃあさっさと食べて、部屋に行こうぜ!」
「うん!」
先にトリトンが食べ終わり、部屋に使えそうな教材を探しにもどり、10分遅れてアーサーが食べ終わって部屋に向かう。
「……部屋片付けなきゃ…!」
自分の部屋に友達が来る事なんて、前提としてないため、今朝飛び起きたままの状態だ。
急いで戻り、なんとか物を寄せていると扉をノックする音が聞こえた。
扉を開けて出迎えると、本を2冊と筆記用具を持参したトリトンがいた。
眼鏡をかけており、聞くと訓練中は邪魔だからと、魔力で視力を補っているようだ。
「お邪魔します!」
「…どうぞ。汚いけど。」
どきどきしながら部屋の中に入るよう促す。
写真が置いてあるだけの机に本を置き、直ぐ横にもたれかかる。
「椅子はアーサーが座らないと、勉強にならないだろ?」
と、頑として座ってくれなかったため、アーサーが椅子、その直ぐ横にトリトンと言う形で勉強開始となった。
手を添えて本を開いて、ペンで分かる物と分からない物を記していく。
集中したいのだが、何やら心臓が少しうるさい。
教え方も上手いのだが、何より所作がキレイなのだ。
いつもの元気いっぱいで、気さくな感じとは打って変わり、何やら知的な感じがにじみ出ている。
トリトンは下位貴族階級と言っていたが、よほど教育が良かったのだろう。
なんだろう…この落ち着かない感じ。
「アーサー、飲み込みが早いな!字もキレイだ。ここを少し意識して書くともっとキレイになる。」
「う…うん。ありがとう…」
「……?どうしたアーサー?」
「……?!な、なんでもな…い……」
鼻が擦れそうなほど至近距離で、お互い顔を合わせてしまい、驚いて椅子ごと下がる。
アーサーはトリトンの瞳から目が離せず、顔が赤くなるのを感じながら返答する。
やばいっ…!これじゃトリトンのこと意識してるみたいじゃないか……!!
「………ト…」
不意に
肩に手を伸ばされ、額に柔らかな感触が掠めて直ぐ離れた。
「…………ごめん。」
「………え…あ……」
トリトンが口元を抑えて目も合わせず、部屋から出て行く。
残されたアーサーは思考停止状態で、扉が締まる音でやっと現実に戻る。
「…トリトン……、今の……」
額にトリトンの唇の感触が残る。
指先でそっと触れ、更に顔が燃えるように熱くなる。
どういう意味なのかわからず、次どんな顔で会えば言いのかわからない。
色々とぐるぐる回る思考だが、一つだけ確実なのは……
「……覚えた文字、全部忘れちゃう…」
次の日、寝不足で座学は散在だったのは、いうまでも無かった。
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