第15話 照れる。


「今日は時間通りだな。ユーリ。」


「はい、前回の反省を踏まえまして…。」



いや、この状況なんですか?

転移して直ぐの森で魔王様に出会った。


「…なんでここにいるんですか?」


「驚いたか?」


「…一応は驚いてます。」



驚きすぎて声が出なかったし動けなかっただけ。



「…お前に早く会いたかっただけだ。行くぞ。」



「……、!!!」


な、なんだって……うちの番様は……!!!


恥ずかしい。

顔が見られない。


自然な動作で俺の肩を抱いて、歩き始める。

俺達の身長差は10センチもないが、なんかこう…エスコートがキレイだし、騎士に守られてる感じだ。



門番も顔パス。

いつもの従者もぺこりとお辞儀をして、執務室のドア

を開ける。


「さて、…一息つくといい。」


「え、あぁありがとう……」


一緒のソファに横並びに座り、お茶を勧められる。


「……ほっとする味ですね。おいしい。」


「…そうか。」


なんか落ち着く。深く呼吸してまったりしたくなるお茶だ。

そしてなぜか、俺のコメントを聞いてほっとしているラス様。



「…選んだ甲斐がありましたね、魔王様。」


「………うるさいぞ。ザイン。」


「え、魔王様が選んで下さったんですか?!」


「……黙って飲んでろ。」


耳が赤いですよ。そして微妙に目をそらす。


「ユーリ様が最近お疲れのようだと、人間界の交友国まで自ら足を運んで…」


「もういい、ザイン。下がれ。」


ちょっと観劇みたいな口調で話し始めた従者を、睨み付けて下がらせる。ちょっと笑ってたし、俺にウインクしてきた。


「……ラス様、本当ですか?」


「………少しは格好つけさせてくれ。」


照れてる。愛おしいなぁ……ん…?

いやいや、これは契約で情が出てきただけさ。きっと。


「報告は後で良い。…連日村の水質を調べて疲れているだろう。最近は近くの村の水質の変化まで調べてるじゃないか。」



「…さすが魔王様だな。まぁわからないことだらけだからなー。目的も絞れないし、そっちの分かったこと、教えてよ。」


「…、わかった。」


言うや否や、俺を自分側に引き寄せて、肩に寄りかからせる。



「楽にしてろ。……結論、まだ犯人は絞れて無い。最初にこの騒動に気づいたのは2ヶ月前くらいだ。」



ちょうど《聖女》が発見されたあたりか。

国中に情報が回ったし、《勇者》《魔導師》もすでにいたから、とりあえず聖女が見つかれば魔王討伐出来るって、まだ討伐にすら出てないのに国中に安堵感が広がったんだよな。


「最初の犠牲者は幼子と老女。共通点は同じ村の、同じ水源の井戸を使用していたこと。ここまでわかるまでに何人かも嘔吐などの症状が現れていた。」



「……非道だな…。子ども…確かに体が小さい分、水の影響を受けやすい。抵抗力の弱った老人も。」


「そうだ。成人前後は問題なかった。だから原因を探るまで時間がかかった。聞き取りしてもいつも通りの生活を送っていたしな。」



そこから、研究チームを編成し、あらゆる角度から考察して、水にたどり着いたらしい。


魔法で原因追求も出来なくは無いが、それだけの魔力と知識が必要だし、それも万能ではないため、何重にも認識阻害されていたら、いくら魔法を使ってもわからない。



魔王様も配下から情報を収集したが、目的がわからず、狙われるのが王都から離れた農村ばかりだということしかハッキリしなかった。


「お前の村を覗いて、両隣の村もついに犠牲者が出始めた。進行を遅らせる薬は作れたが、複数の毒を盛っているからか、完全には消せていない。」


だから俺の村までわざわざ、カラスを飛ばしてくれたのだそうだ。



ちなみに、魔王様は魔力が莫大すぎて、魔力がない人間でも直ぐに存在を感じられてしまうため、友好国以外には人間界に来ない。


行動が制限されてしまうが、下手に動くと敵対心を持たれてしまうから仕方ないようだ。



それだけ、魔王様の魔力は凄まじい。ということだ。



「お前の居る村以外の辺境の村は、ほぼ被害にあっている。何か意図があるように思えるだろう?」



「…確かに。でも俺の村狙っても旨みなんて……あ、そうか、《聖女》が出た村か…!」


「…あぁ。だが、俺の心配はお前だ。ユーリ。」



「………。」


「お前はもう14 歳だろう。出来るやつが選定をしたら《賢者》だとわかってしまう。」


「……一応、阻害は何重にもかけてるけど……」


「……言いにくいが、完全ではないな。強い奴はわかるぞ。」



阻害系苦手なので、スミマセンね!!



「つまり…俺が《賢者》だとバレてしまうと魔王様も厄介だと思う訳ですね?」


「……まあな…。魔王討伐に賢者がいるときは負ける、と魔族は認識しているからな。いると戦い辛くなる。」



「歴代の賢者が喜ぶな。」


「悔しいがそうだな。…ここからは俺の推測だがな、魔族を倒すなら賢者がいる、と認識しているやつが、賢者を探し出すためにあえて騒ぎを起こして、賢者を炙り出そうとしているんじゃないか?」



「……それは俺も考えたけど……、そんな人道外れたことやるか?選定出来るやつが旅人か商人の振りして、村に潜伏すればよくない?」



「…時間がないのかもしれない。魔王討伐まで10ヶ月ほどになっても賢者が現れないのだから。」


「…確かに、ここまで広範囲で事件が起きてるのに、王都の方では噂もないし、会議にも上がらない。……これは派閥とかに関係ありそうだな。」


「その辺は人間界の価値観だからな、私には理解し難いが…。」


確かに昔から、魔王討伐メンバーに、主に軍人家系の貴族から成り立つ賢者必須派と、ただの貴族階級の奴らで成り立つ賢者不要派で別れており、現在のこの国の王は不要派だ。


何回か開かれてる会議でも、軍人から賢者を探すように議題に挙げるも、色々難癖つけて却下されている。



つまりそのどちらかの派閥の者が、犯人だと推測したようだ。


「…俺は《聖女》に恨みをもつ、魔族の仕業に仕立て上げたい人間が犯人だと思って情報を集めてた。」


 

どちらが狙いなのかはわからないが、推察はできる。


俺が狙いかもしれないと、意識して対策することは大事なので、今後は自分の周りの動きもより一層注意しなくては…。



色々とぐるぐる考えていると

魔王は俺の頭をポンポンと軽くたたき、後頭部の髪に手を入れる。


あ、キスされる。


ちゅっ


と軽くキスし、今度は俺を強く抱きしめる。


「……お前は俺の大切な番で《賢者》だ……。」


「……ラス…。」


「今日はゆっくり過ごそう。」


ゆっくり離れる。

風が二人の間を通る。

少し人肌恋しいような…


これって俺だけかな…?

ラスはどう思ってるのかな。




魔王様はまた俺の手を取り立たせると肩を抱き、二人で執務室から出るのだった。



向かう先は言わずもがな、寝室だった。


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