第13話 強くなるため


朝早くに軽く朝食を取って、畑に行って作業が終わったら昼休憩。

その休憩時間を有効に使うべく、親には森に狩りに行くと言い、その実は《賢者》の能力の確認をしていた。


魔力は上の中、体力も農民の平均よりは上、精神力に至っては何十回分の死を経験しただけあって、かなり上の自信がある。


魔力、体力の測定器具なんて農村にはないから、自分の感覚を頼りにするしかない。


王都の奴らといざ戦闘となったときに、魔王様の後ろに隠れていては復讐は叶わないし。


出来るだけ自分の能力の底上げを図りたいところだ。


そこで思いついたのが、ダンジョンを活用すること。


魔王城とこの農村の間の森には冒険者もあまり立ち入らない(旨みが少ない上に行きにくいから)ダンジョンがあるのだ。


ダンジョンの中には無限に湧く魔物がいるので、相手には困らないし、いざとなったら転移すればセーフティエリアに戻れる。



「このへんでいいかな。」



距離があるため、転移で移動し時間を稼ぐ。

今日の目標は2時間後には村に戻ること。


8層で構成されているこのダンジョンは、半日もあれば全てのエリアをクリアしながらたどり着くだろうが、あまり村から離れている時間が長いと、親から怪しまれる。


行けて2エリアくらいかな…?

帰りの村までの徒歩の時間も考えると、ギリギリかもしれない。


ちなみに最下層に行くに連れて敵も強くなるため、上の方だけなら、そこまで難しくない。


「行くか…。」


何回か入ってはいるものの、やはり一人で入るのは緊張する。

何かあったときの対処が難しいからだ。


ここで死んだら誰も気づかないだろう。

ダンジョン内は時間が経つと吸収されてしまうものもあるからだ。

その一つに亡骸がある。

魔物の亡骸も時間が経つと消えてしまうため、解体して得られるものはその場で解体して、持ち歩かないといけない。



剣術については、前任の賢者は多少剣技を嗜んでいたので、併せて勇者が習っていた訓練を見よう見まねで模倣し、訓練してきた。


解体は普段からやってるし、問題ない。


狩りについても、今までは罠なども併用していたため、時間がかかっていたが、これからは自らの戦闘能力に左右されるというだけだ。


ただ、魔法メインの戦闘よりも、接近して攻撃する瞬間の恐怖がまだある。



「……うおりゃーっ!」


声が出るのはかっこ悪い。

だが声を出さないとまだ気合が入らない。


魔物のコアから魔石が出てきたので回収。

この魔物は肉が美味しくないから、放置。


収納、と言う魔法も使えるようになったため、嵩張るものはその空間に入れてしまう。


「確か、この階はメインが猪の魔物だった気がするんだよなー」


少し癖があるが、猪の肉なら煮込んで鍋にしたり、美味しくいただける。


突進してくる魔物の動きを見切って、飛躍し、真上から袈裟斬りにする。

骨はあるが広範囲に斬れるため、致命傷になる。

ゆっくりと倒れ、呼吸が弱くなり完全に停止した。


「う~ん、やっぱり剣術って難しいな。突く方が力を入れやすいけど、コアに確実に当てないとやられるし。」



続く2体目には、氷魔法で氷柱を作り魔物に向けて飛ばす。

こちらはコアに無事当たったため、直ぐに絶命した。


魔物と言えど、苦しませるのは忍びないので俺は魔法メインの戦いが合っているようだ。


向かってくる敵を何匹が間引いて進む。


足場が悪くなり岩を掴んだりして何とか降りていくとこのフロアのボス。

やはり猪の魔物だが、先ほどのものより10倍大きい。



もうすぐ1時間半。

予定より進みが遅いので、今日はこのボスを倒したら帰らなくては。


「……いくぞ!!」


気合いを入れ、剣を構える。

大きさは違えど突進してくるので、それを交わしながら足を狙う。


獲物が大きい分、当たりの確率も上がる。

先に機動力を削いでから、コアを叩く!



「……終わりっ!!」


体を捻りながら獲物の下に潜り込む。

ちょうど心臓部分の真下で、氷柱を出して一突き。



良く聞き取れない叫びを上げながら、緩やかに地面へと倒れ込む。


コア周囲を確認すると魔石も手に入った。

この猪の肉は程よく脂ものってるし上手そうだ。


それぞれの部位を収納に入るだけ入れ、合掌してからその場を立ち去る。


そろそろタイムリミットだ。


ダンジョンを抜け、村付近に転移。

肉は収納から取り出して持って行かないと怪しまれる。

そこから徒歩で戻ること数十分。


森の浅いところで、木の実などを収穫していた子ども達に話を持ちかけて、木の実や山菜と猪の肉を交換する。



「ただいまー。良い猪肉が手に入ったよ!」


「おや、大量じゃないか!こりゃごちそうだね。」


「スゴいな。農民より狩人や冒険者の方が向いていそうだ。」


「そりゃどうも。…で、あと仕事は何かある?餌やりとか?」



「そうだねぇ、水が無くなりそうだから井戸で水くみしてきてくれるかい?」


「はいよー」


夕方になる前に済まそうと、急いで木で出来たバケツを2つ持って移動する。


5軒前後で一つの井戸を共有するため、家から少し離れているが、この村はそのへんの村よりは設備が整っているため、楽な方だと思う。


井戸に着くと、同じく水くみが終わった様子の女性と挨拶し、次は俺。


紐に手をかけるとカラカラと音がする。

水が入ってくると重みのある音に変わり、ある程度力が必要になる。


ぐっと最後の一引きをしてバケツに水を入れる。

もう1個も入れるので、もう一度同じ動きをして、水を汲む。


「……ふー。さて、行くか!」


「…カーカー。」


「……?」


「(俺だユーリ。…ラスだ。)」



カラスが喋ってる。正確にはなんか頭に響いてくる感じ。井戸の滑車の上にいるのは普通のカラスなのに。


「(…あまりこちらを見ずに聞け、動きながらな。……密偵から連絡があった。最近、お前の国の村や辺境の方で、水に毒が混入される事件が発生している。)」


「(……井戸に毒を入れてるってことか?)」



水を移し終えて運ぶ準備に取りかかる。


「(多分な。水っていう経路を特定しただけで、何者が何の目的でやっているかもわからない。ここも条件に当てはまってるだろうから気をつけろ)」


「(……何の毒かわかる?)」 


「(まだ調べてる途中だが、複数回摂取することで徐々に効いてくるらしい。初期症状は味覚障害とめまいだ。最悪寝たきり。)」


「(…わかった。自分でも調べてみる。)」


「(…本当はお前をこちらに避難させておきたいのだがな。)」


「(俺の家族を見捨てさせるなんてしないでしょ?…ラス様。)」


ふっと笑ったような気がして井戸を振り返ると、カラスが飛び立つところだった。



しかし、魔王様の情報スゴすぎる。

俺の情報網より何枚も上手だ。

俺の情報いらなくなるんじゃ…?


ぐるぐる考えながら、井戸水を家の水瓶に移す。





……賢者の知識を使ってみるか。


両親は部屋で内職をしている。今は居間に一人だ。


水瓶の水に手を入れ、水以外の成分の有無を確認する。



………大丈夫だ…と思う。



とりあえず今日は、だが。


今は人が多いので夜に村中の井戸を確認した方がよさそうだ。

水瓶にいた精霊にも、事情を伝えて水質の変化があったら知らせて貰うことにした。



誰が、何の目的かもわからない。

しかも井戸の水なんて悪質すぎる。


直ぐに動けないもどかしさを感じながら、夜のために力を温存しておこう。



こうして夕食を終えて、寝る旨を伝えて自室に籠もる。夜の農村を練り歩く準備にとりかった。



「さて、行くか……。」


こうして夜が始まったのだった。


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